ひとひらの雲

つれづれなるままに書き留めた気まぐれ日記です

長恨歌(ちょうごんか)

2015-04-20 18:41:01 | 日記
 美人を形容するのによく「クレオパトラか楊貴妃(ようきひ)か」なんて言いますよね。それほどの美女だったとされる楊貴妃は西施(せいし)、王昭君(おうしょうくん)、貂蝉(ちょうせん)と並ぶ中国四大美人の一人でもあります。そして何といっても傾国の美女ですね。唐の玄宗皇帝は楊貴妃を愛したために、国を衰運に導いたといわれています。

 権力者はどうしても愛する人の一族を重用し、反対勢力の反発を招いてしまうんですね。公平にするというのは難しいことです。そして権力者に愛され過ぎたがために悲劇的な最期を迎えるのが美女。そんな悲劇を歌ったのが白居易(白楽天)の長恨歌です。

 漢皇(かんおう)色を重んじて傾国を思う
 で始まるこの長いなが~い漢詩は玄宗が楊貴妃と華清宮(かせいぐう)で出会うところから始まります。そして、

 後宮の佳麗三千人、三千の寵愛一身にあり
 でその寵愛ぶりが語られます。兄弟姉妹こぞって諸侯となるほどの出世をし、世の人々は男子より女子を産むことを重んずるようになるのですが…。
 やがて安禄山の乱が起こると玄宗は都から逃れることになり、途中馬嵬(ばかい)というところで、兵をなだめるために楊貴妃を殺さなければならなくなってしまいます。

 中国土産の楊貴妃人形

 天巡り地転じて乱が収束し、玄宗は長安の都へ帰ってきます。しかし悶々として楽しむことができません。楊貴妃のことが忘れられないんですね。そして眠れない夜を過ごすのですが、楊貴妃は夢にさえ現れてくれないのです。
 悠々たる生死別れて年を経れど、魂魄(こんぱく)かつて来たりて夢にだも入らず

 そこで道士をして楊貴妃の魂を探させるんですね。さんざん探した挙句、見つけた楊貴妃は梨の花が春雨に濡れたような風情で現われます。そして道士に思い出の品を持たせ、こう言います。天にあっては比翼の鳥となり、地にあっては連理の枝となろうと誓いましたのに、と。
 そして白居易はこの七言古詩の最後をこう結ぶのです。

 天長地久時ありてか尽くるも、この恨みは綿々として絶ゆるときなからん

 天地が尽きることがあっても、二人が添い遂げ得なかった恨みは消えることがないだろう、というまさに長恨歌ですね。誰しもこんなふうに愛し愛されてみたいものです。
 日本にもこれに似たようなお話がありました。韓流時代劇「トンイ」に見るような宮廷ドラマでもありますが、さまざまな人の思惑に翻弄される愛の物語です。『薬子伝』、是非読んでみてください。

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業平とその祖父

2015-04-06 18:35:53 | 日記
 そろそろ桜も終わりでしょうか。

 世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし
と詠んだ業平ですが、現代でもその心は受け継がれているようです。開花予想も盛んですし、咲けば咲いたで散ってしまわないうちにお花見をしようと落ち着かない人、多いのではありませんか。桜さえなければ春の心はのどかであろうにという業平の気持ちは、現代人にも共通のものです。

    盛りの桜

 ただこの歌のあと、『伊勢物語』ではもう一首、他の人が詠んだ歌が続きます。
 散ればこそ いとど桜は めでたけれ 憂き世になにか 久しかるべき
 本当に散ればこその桜かもしれません。

 『伊勢物語』はご存知のように、在原業平であろう貴公子を主人公にした歌物語です。そして業平は光源氏のモデルともいわれ、イケメンの好色男というイメージが強いのですが、私は業平の真骨頂はやはり歌だと思っています。権力とは別の価値観で書かれたこの物語もそうですが、中に挿入されている彼の歌が素晴らしいんですね。六歌仙の一人に数えられる方なので当然といえば当然ですが、風流なものも、男女の愛や友情を詠んだものも、どこか愁いがあって胸に突き刺さります。

 さてその業平ですが、この人は平城(へいぜい)天皇の孫にあたります。ですから当然皇族であったわけですが、お祖父さんが女に溺れ、ちょっとした問題を起こしてしまったことで臣下に下り、在原氏を名乗ることになりました。出世にも縁遠く、従四位上の中将止まりで生涯を終えています。ですから一層「もののあはれ」や人間の哀しみに敏感だったんですね。悲恋もありましたし。

 月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ わが身ひとつは もとの身にして
 手の届かない人になってしまった女性を思いながら詠んだ歌です。何だかキュンとしますね。業平はそれほどの地位も権力も得ることはありませんでしたけれど、後世の人に愛され、当時のいかなる権力者よりも有名になりました。極論ですが、それもおじいさんが女に溺れたお蔭。

 この度、そのおじいさんが愛した女性を主人公にした物語、『薬子(くすこ)伝』を出版しました。これを読んでいただければ、業平が権力以外のところに価値観を求めた理由がわかる筈です。歴女様も是非。応援よろしくお願いします。

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