この社説で消費税率の引き上げを大手マスコミも主張し、民主党政権、自民党、公明党の三党合意を支援したことを嘆いています。その点では、自らマスコミとしての反省も表明すべきと思います。読売、産経、日経、朝日も同様です。
政治の責任についてです。まず第一に、彼らが国会の場でまともな議論を抜きにし、三党合意と言うかたちの密室協議で税率の引き上げを決めたことが現在の無責任さにつながっています。安部、自民党は税率引き上げの決定は民主党政権が行ったこととして、自らは全く痛みも、責任も自覚していません。だからこそ、その税収増加分を法人税率の引き下げ、公共投資に振り向ける無責任振りを発揮しています。
第二は、消費税率引き上げの口実である国債残高の減少、社会保障の充実のどちらも全く、行っていません。この点は安倍、公明党政権に最大の責任があります。しかし、民主党野田政権が命がけで法案成立と連呼したことも含めて、三党合意が如何に反国民、国民だましの密室合意であったかを証明しています。
第三は、前回の衆議院選挙で3%、2%引き上げの是非は全く争点にならなかったことです。自民党安倍は選挙時の政党討論会で、消費税率引き上げに賛成と表明すら行いませんでした。彼らの政治道義の腐敗は、その後の政治、政権運営に顕著に現れています。選挙結果は、自民党政権に白紙委任したわけではありません。
このような政権は、野田政権と同じように政治不信を増幅させるだけであり、一刻も早い退陣を促すしかありません。
<毎日新聞社説>消費税率10%の議論 「宿題」が出来ていない
消費税率を予定通り2015年10月に10%へ引き上げることに、政府・与党から異論が出始めている。4月に8%に上げた後、消費の低迷などで景気が足踏み状態になっており、再増税による経済への悪影響を心配しているようだ。
経済状況をみて引き上げるかどうかを判断するという「景気条項」があり、国民の生活を考えるうえで大事な要素であるのは確かだ。しかし、政府や与党は、景気と増税の議論に走る前にやるべきことがある。消費税引き上げの原点を守ること、そして責任をもって取り組むべき「宿題」である。
◇国民の覚悟に応えよ
持続可能な社会保障制度づくりを進め、緩んだ財政規律を改めて歳出を見直す。そして、経済的な弱者に目配りした軽減税率を導入する。さらに自らが身を削る定数の削減も、議論でなく実行に移す。
こうした課題は、安倍晋三首相が8%の引き上げを決断した昨秋に突きつけられたものだ。あれから1年である。政権と国会が一連の課題に成果を見せてはじめて、景気と増税についての議論も説得力を持つ。
国民は財政再建の重要性を理解し、社会保障の充実を願い、家計への重荷を覚悟のうえで4月からの増税をのんだ。しかし、政府や国会が問題への対応をこれ以上先延ばしにするなら、国民には負担増というマイナスしか残らない。
予定通りに引き上げるか、延期かを安倍政権が判断するのは12月になるという。その判断のゆくえにかかわらず、国民の覚悟に応えるため、あと1カ月あまりの間、政権と国会が課題にしっかり取り組むことが与えられた責務である。
消費税増税の原点は、社会保障制度の充実に向けた財源を確保しつつ、借金が1000兆円を超えて先送りが許されない国の財政再建を進めることだ。
毎日新聞はかねて、法律に定めた通り消費税率を10%に引き上げ、財政の余裕度をもう一段高めることが、将来につけを回さず、次世代への責任を果たすうえで欠かせない、と主張してきた。安心でき、持続可能なものに移行するため、社会保障制度は10%を前提に動き出している。
来春から年金のマクロ経済スライドが始まり、受給額は年々少しずつ減っていく。特に基礎年金の減額が大きく、国民年金の受給者や困窮者への対策が課題となる。こうした人の救済のため、10%時に生まれる財源で「福祉的給付制度」を創設する方針だ。引き上げを先送りすると、この制度は日の目を見ない。
女性の就労を促し、保育所不足の解消を目指す新制度は年間7000億円の予算だが、消費税10%を先取りする形で始まっている。足をすくわれれば、政権の看板である「すべての女性が輝く社会」がかけ声倒れに終わる。
緩んだ財政規律を改め、むだを削る姿勢を明らかにすることは、消費増税と表裏一体だった。増税は、歳出削減とセットになって大きな効果と納得感を生み、国内外の信頼につながるからだ。
ところが実際はどうだろう。
15年度予算編成に向けた各省庁の概算要求は、前年度の要求額を大きく上回る過去最大の101兆円になった。「成長戦略」「地方創生」といった大義名分の下、目いっぱいまで要求を膨らませたからだ。
◇軽減税率は不可欠だ
国の財政が危機的状況と聞いて、国民は負担増をのんだが、これではだまし討ちではないか。安倍政権には歳出の膨張に歯止めをかけようとする姿勢が、昨年から現在にいたるまで、まるで感じられない。経済的弱者に配慮する政策はどうなったのか。私たちは、増税で強いしわ寄せが及ぶ低所得層への効果的な対策を繰り返して求めてきた。
その一つが、食品など生活必需品の税率を低くする軽減税率の導入だ。また新聞、書籍についても欧州各国のほとんどが「知識には課税しない」との考えで、税率をゼロや数%に抑えている。
自民、公明は5月までに「基本的な考え」をまとめる方針だったが、いまだに入り口の議論が続いている。自民が中小企業の事務負担の増加などを懸念しているためだ。
だが、8%時に軽減税率が導入されていれば、政府・与党が気にかける消費落ち込みは軽かったに違いない。長期的な視点に立てば事務負担よりも、弱者への配慮や消費の勢いの持続性が優先されるのは明らかである。議論にかまけず、すぐに制度設計に取り組むべきだ。
税を議論する際、前提となるのは政府と国民との信頼関係だろう。
自民、公明、民主の3党が2年前に約束した衆院の定数削減は事実上、棚上げされている。加えて小渕優子経済産業相による極めて不可解な政治資金問題が出てきた。いずれも信頼を損ねる要因だ。
国民は、増税だけを押しつけられ、その見返りともいうべきものはほとんど手にしていない。痛税感をやわらげる将来への展望や安心感は持てないままである。これでは何のための増税か、わからない。