林檎乃「とほほ・・・。」ブログ

林檎乃麗の「とほほ・・・。」な日常を綴っています。 

踊り子

2010-07-09 | 日記
僕が初めて彼女と会ったのは、路線バスの中だった。
彼女は目的地で降りようとしていたが、
どうやってバスを止めたらいいか分からず、
運転手に向かって何かを叫んでいた。
しかしその言葉は聞いたことのない外国語で、
誰もその意味を理解していなかった。
僕は彼女に向かって「降りるの?」と身振り手振りで訊いてみた。
彼女は激しく頭を振った。
そこで僕は「次ぎ停まります」のボタンを指さして押してあげた。
ボタンを押すと車内の全てのランプが付く。
彼女は僕に何かを叫んで慌てて降りていった。
何日か後にも、同じバスの中で彼女と会った。
彼女は“次ぎ停まります”のランプを指さして、
「ナンデ、ミンナニ知ラセル必要アル」と片言の日本語で言ってきた。
少しは日本語が話せるらしい。
このことがきっかけで、彼女と話をする様になった。
彼女は“サンタ・バリュ”という名前で、24歳のダンサーだった。
カラーコピーされたチラシには3人の踊り子が写っていた。
何処の国かは分からないが、その3人の中に、
中東のセクシーな衣装を身につけた彼女の姿があった。
でも、そのチラシは怪しげな店のものだった。
彼女が合法的に入国してきているのかも分からないし、
何故、僕と親しくしているのかも分からない。
仲間からは「危険だからあの女はやめろ!」と云われたが、
猜疑心とは反比例する様に、
端整な顔立ちと自由奔放な振る舞いに、ますます惹かれていった。
ある時、彼女は紙煙草が切れたので一緒に探して欲しいと云ってきた。
それはアラビア文字が刻まれた怪しげな包み紙で、
池袋サンシャインや東京駅のタバコセンターにも、
葉巻専門店にもその紙煙草は置いていなかった。
彼女は「日本ハオカシイヨ」と怒っていたが、
それも合法的に輸入されているものなのか分からなかった。
途中の商店街で“親子絵画コンクール”の募集のポスターがあった。
彼女はそれを見つけると、勝手に応募用紙に記入し始めた。
母親の欄に自分の名前を書き、子供の欄に僕の名前を書いた。
“24歳の母親の息子が36歳の訳ないじゃないか”と思ったが、
それでも応募用紙は受理されてしまった。
彼女は黒い野良猫を見つけると、「アレヲ描クヨ」と云ったが、
彼女の声が大きく、何かを叫んでいる様に聞こえたのか、
野良猫は慌てて逃げてしまった。
しかしこの紙煙草を一緒に探した日から、彼女は忽然と姿を消してしまった。
彼女に見せられたチラシの店も探したが、見つからなかった。
今でもバスに乗って「次ぎ停まります」のボタンを押す度に、
何かを叫んでいた彼女のことを思い出す。

※これは林檎乃麗が見た夢を文章化したものであり、
実在のベリーダンスダンサー、紙煙草、
親子絵画コンクールとは一切関係ありません。
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