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論文)側根の傾斜重力屈性の分子機構

2023-12-10 10:43:25 | 読んだ論文備忘録

Antigravitropic PIN polarization maintains non-vertical growth in lateral roots
Roychoudhry et al.  Nature Plants (2023) 9:1500-1513.

doi:10.1038/s41477-023-01478-x

根は重力に応答して成長方向を変化させる重力屈性を示す。この過程は、コルメラ平衡細胞内でのアミロプラストの沈殿による重力方向の検知(デンプン‐平衡石モデル)とオーキシンの不均等分布による上下の細胞での細胞伸長の差(Cholodny-Wentモデル)によってもたらされる。シロイヌナズナの根が屈曲する際のオーキシン不均等分布は、コルメラ細胞で発現しているPINファミリーオーキシン排出キャリアタンパク質、特にPIN3とPIN7の重力に応答した細胞内局在変化によるオーキシン流量の調節によって引き起こされている。一方、側根は通常、重力に対して垂直ではない一定の角度を保って成長する傾斜重力屈性を示す。このような重力方向に対する一定の角度(gravitropic setpoint angle;GSA)は、根が重力に対応して、あるいは重力に逆らって成長反応を起こしていること示している。英国 リーズ大学Kepinskiらは、側根が傾斜重力屈性を示す分子機構の解析を行なった。シロイヌナズナ芽生えをオーキシン輸送阻害剤のNPAで処理し、側根のGSAに対して30度上方もしくは下方に傾斜させたところ、側根は重力方向の変化に対応できず、24時間後も元のGSAに戻らなかった。したがって、側根のGSA決定においてオーキシン輸送が重要であることが示唆される。側根でのオーキシン分布をオーキシンレポーター(DII-Venus、R2D2)を用いて可視化したところ、GSAで成長する側根の上側と下側の間でオーキシンレベルに有意な差がないことが判った。また、TIR1/AFBオーキシ受容体も側根全体で均等に分布していた。GSAより上方に向きを変えた側根(下方に屈曲)では、向きを変えてから90分後に側根の下側にオーキシンがより多く蓄積した。逆に、GSAより下方に向きを変えた(上方に屈曲)場合、側根の上側にオーキシンが蓄積した。これらの結果から、側根のGSAの維持はオーキシン輸送に依存しており、Cholodny-Wentモデルと完全に一致してることが判った。GSAで成長する側根にオーキシンの不均等分布がないことと同様に、側根の上側と下側で非根毛形成細胞の長さに有意な差は見られなかった。下向きに曲がった側根では、下側の細胞は上側の細胞よりも有意に短かく、オーキシンの非対称な蓄積と、その結果生じる根の下半分におけるオーキシンを介した成長抑制と一致する。一方で、上向きに曲がった側根では、下側の細胞が上側の細胞よりも有意に長く、通常のGSAで成長する側根の細胞よりも長かった。したがって、側根を上向きまたは下向きに屈曲成長させても上側の細胞は長さの変化を起こさない。これらの結果から、側根の屈曲成長は主として根の下側の細胞伸長によって制御されており、側根のGSAは下側の細胞の重力応答によって維持されいることが示唆される。側根の屈曲速度は上側も下側もほぼ同じで、角度に依存して屈曲速度が変化し、これはオーキシン不均等分布の程度が反映されていた。通常のGSAにある側根のPINタンパク質の分布をみると、PIN3は、コルメラ細胞の上部と下部の両方の細胞膜に局在していたが、下部細胞膜側がやや多くなっていた。PIN7は明らかに異なるパターンを示し、細胞膜上部側に多く局在していた。GSAの上下に30°ずつ向きを変えたところ、pin3 pin7 二重変異体の側根は、野生型植物の側根に比べてGSAに戻るのが著しく遅れた。また、pin3 pin4 pin7 三重変異体では重力応答がほとんど見られなかった。pin3 変異体の側根は、下方よりも上方への屈曲速度が速く、逆に、pin7 変異体の側根は、程度は低いが、下方への屈曲のほうが早かった。側根が屈曲する際のオーキシン分布の変化とPINタンパク質の局在変化を見たところ、GSAより上方に向きを変える(下方に屈曲)ことにより、PIN3とPIN7は、主根の場合と同様に、主に基底部に局在するように移動した。GSAより下方に向きを変えた場合(上方に屈曲)は、PIN3とPIN7の両方が細胞膜の上側へと移動した。このようなPINタンパク質の局在変化は、角度依存的に起こり、特にGSAの上方に向きを変えて下方に屈曲する側根において顕著であった。PINタンパク質の細胞内分布は、エンドサイトーシスと極性または無極性の細胞膜への再分配を繰り返すことによって制御されている。解析の結果、コルメラ細胞の下側の細胞膜は上側よりもPINタンパク質のエンドサイトーシスが速く、PINタンパク質は上側の細胞膜に長く保持される傾向にあることが判った。PINタンパク質の細胞内分布は、PID/WAGキナーゼ、D6PK、PP2AA/RCN1フォスファターゼ等によるPINタンパク質のリン酸/脱リン酸化によって変化する(リン酸化されると上側、脱リン酸化されると下側)ことが知られている。PID/WAGがターゲットとしているSer残基(S316、S317、S321)をAlaに置換したPIN3 を発現する系統(PIN3S>A:YFP)は側根のGSAが対照よりも垂直になり、Aspに置換したPIN3 を発現する系統(PIN3S>D:YFP)では側根のGSAがより水平になった。そして、rcn1 変異体では側根のGSAが著しく水平となり、ARL2 プロモーター制御下でRCN1 をコルメラ細胞特異的に発現させた形質転換体(ARL2::RCN1)は、側根のGSAが著しく垂直になった。wag1 wag2 二重変異体では側根のGSAがより垂直となった。また、対照(PIN3:YFP)と比較して、PIN3S>D:YFPの分布はコルメラ細胞上部の細胞膜側に有意に偏り、PIN3S>A:YFPの分布は有意ではないが下部細胞膜側にわずかに偏っていた。rcn1 変異体のコルメラ細胞ではPIN3は上部の細胞膜に局在していたが、pid+ wag1 wag2 変異体のPIN3の局在は野生型植物と同等であった。rcn1 変異体の側根はオーキシン処理に反応しなかったが、wag1 wag2 二重変異体の側根は、野生型植物の側根と同様に、より垂直なGSA方向へシフトした。このことは、オーキシンがRCN1依存的な経路で側根のGSAを制御している可能性を示している。解析の結果、オーキシンはRCN1 の発現に影響してはいないが、RCN1の安定性もしくは翻訳に対して促進的に作用していることが判った。ARL2::RCN1 系統やオーキシン(IAA、5F-IAA)処理をした植物の側根では、PIN3は対照と比較して有意にコルメラ細胞下部の細胞膜に局在していたが、PIN7の局在に変化は見られなかった。以上の結果から、側根のGSAは、コルメラ細胞からのPIN3、PIN7を介したオーキシン輸送の上向きと下向きのバランスによって維持されており、GSAの上方または下方に向きが変化した場合の屈曲応答は、RCN1によるPIN3の細胞内局の在変化によって引き起こされる角度依存的に変化する下側のオーキシンの流れと、角度に依存せず一定している上側のオーキシンの流れが相互作用することによって駆動されると考えられる。

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