Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)側根形成におけるジャスモン酸シグナルとオーキシン生合成のクロストーク

2015-02-09 22:57:58 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis ERF109 mediates cross-talk between jasmonic acid and auxin biosynthesis during lateral root formation
Cai et al.  Nature Communications 5, Article number:5833

doi:10.1038/ncomms6833

シロイヌナズナenhanced drought tolerance 1edt1 )変異体は、ホメオドメイン転写因子HOMEODOMAIN GLABROUS 11HDG11 )が恒常的に強発現することで根系がよく発達して乾燥耐性に向上が見られる。中国科学技術大学Xiang らは、edt1 変異体の根ではエチレン応答因子109(ERF109 、At4g34410)の発現量が高いことを見出し、ERF109について詳細な解析を行なった。ERF109 はAP2ドメインを1つ有したERFファミリー転写因子をコードしており、ジャスモン酸によって発現誘導されることが知られている。通常の条件下においてERF109 は根端部と側根の基部で非常に弱く発現しているだけだが、メチルジャスモン酸(MeJA)処理をするとシュートと根において発現量が劇的に増加し、特に主根の根端部よりも基部側の領域、中心柱、側根原基、側根の先端と基部で強い発現が見られた。erf109 機能喪失変異体は野生型よりも単位根長あたりの側根原基数が少なく、逆に35SプロモーターでERF109 を恒常的に発現させた系統(35S-ERF109 )では側根原基数が有意に増加していた。erf109 変異体の主根長は野生型と同等であったが、35S-ERF109 系統は主根が短く、この傾向はMeJA処理をしても変化しなかった。erf109 変異体の側根数は野生型と同等であったが、35S-ERF109 系統では側根数が増加していた。野生型ではMeJA処理によって側根数が増加したが、erf109 変異体では増加が起こらなかった。これらの結果は、ERF109 は側根形成に対して正に作用することを示している。35S-ERF109 系統は、胚軸が長く、根毛が長くなっていた。また、成熟葉は、葉長が長くなり、葉幅が狭く、下向きに湾曲し、葉柄が長くなった。これらの表現型はオーキシン量が増加した際に見られるものと類似していることから、シュートと根のオーキシン含量を調査したところ、erf109 変異体のオーキシン含量は野生型よりも低く、35S-ERF109 系統は野生型よりも高くなっていた。さらに、オーキシンシグナル伝達に関与するマーカー遺伝子(IAA14IAA19 )や側根形成のマーカー遺伝子(LBD16 )の発現量に変化が見られた。よって、ジャスモン酸によって発現誘導されたERF109 はオーキシン生合成を高め、これが根の形態に変化をもたらしているものと考えられる。オーキシンの生合成や輸送に関与する遺伝子のプロモーター領域にERF転写因子の結合するGCC-boxがあるかを探索したところ、アントラニル酸合成酵素αサブユニット遺伝子(ASA1 )とYUCCA2YUC2 )遺伝子のプロモーター領域にGCC-boxが存在し、両遺伝子の発現量はerf109 変異体で減少、35S-ERF109 系統で増加していた。また、ERF109はGCC-boxを介して両遺伝子のプロモーター領域に結合することが確認された。野生型植物において両遺伝子の発現はMeJA処理によって増加したが、erf109 変異体では変化が見られなかった。yuc2 変異体でERF109 を恒常的に発現させると、根の表現型はyuc2 変異体と35S-ERF109 系統の中間となった。よって、YUC2 はERF109のターゲットの1つであり、ERF109は根の形態に影響する他の未知の因子にも影響しているものと考えられる。以上の結果から、ERF109はジャスモン酸シグナルとオーキシン生合成との間を仲介することで側根の成長を制御していると考えられる。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする