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茨木のり子(1926-2006)「存在」(『歳月』2007、所収):いきものの愛とは、「透明な気と気が触れあっただけのような」ものだ!「いきものはすべてそうして消え失せてゆく」!

2023-02-14 20:14:05 | 日記
  「存在」     茨木のり子

あなたは もしかしたら
存在しなかったのかもしれない
あなたという形をとって 何か
素敵な気がすうっと流れただけで

わたしも ほんとうは
存在していないのかもしれない
何か在りげに
息などしてはいるけれども

ただ透明な気と気が
触れあっただけのような
それはそれでよかったような
いきものはすべてそうして消え失せてゆくような

《感想1》ひとりの女性の詩人の最晩年の詩。愛する人(「あなた」)と《この世》で出会えたという出来事についての喜びの詩。愛する「あなた」はすでに亡くなった。やがて「わたし」も死に消え去るだろう。だが「あなた」と「わたし」が「消え失せてゆく」ことが、ふたりの出会いを《無効》にしない。「透明な気と気が触れあった」ことはおそらく確かだ。「それでよかった」!
《感想2》愛する「あなた」とは何か?あなたとは「素敵な気」だ。それが「あなたという形」をとって《この世》に出現した。だが「形」は消え去る。「あなた」は《この世》(物世界)に属す身体としては「存在しなかった」のかもしれない。だが「あなた」は「形」のない「透明な気」として確かに存在した。「すうっと流れた」!
《感想3》「わたし」もやがて消え去る「形」にすぎない。今は「何か在りげに息などしてはいる」わたしも、物世界に属す身体としては実は「存在していないのかもしれない」。
《感想4》いきものの愛とは、「透明な気と気が触れあっただけのような」ものだ。でも「それはそれでよかった」のだ。「いきものはすべてそうして消え失せてゆく」。
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