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モーパッサン『マドモアゼル・ペルル』(1886):虚構だがロマンチックな愛の物語だ!あきらめきり黙って悲劇の犠牲者となっていたので、当の本人たちにさえも気づかれていなかった悲劇!

2019-08-16 07:17:36 | 日記
(1)
父の親友だったシャンタル氏(56歳)に、御公現祭の日(※東方の3博士が幼な子イエスを訪れた日、1/6)、私(ガストン)は毎年、招待される。私が子供の頃から、年に一度その日、父に連れられシャンタル家に行った。
(2)
シャンタル家には、台所の鍵を預かっているペルルさん(マドモアゼル・ペルル)がいた。シャンタル夫人はペルルさんを連れて年に何度か、パリ市内に買い出しに出かける。
(3)
シャンタル氏は教養がある誠実な人だ。娘二人は清楚で美しい。
(4)
その年も私(ガストン)は御公現祭の日、シャンタル家の夕食に呼ばれた。デザートには、御公現祭用のケーキが運ばれてきた。切り分けられた私のケーキの中に陶製の小さな人形があった。「ガストンが王様になった!王様万歳!王様万歳!」とみんなが言った。
(5)
シャンタル氏が「さあ、女王様を選ばなくちゃいけないよ」と言った。私はお嬢さんの内の一人を選んで、結婚の話に進んだりするのが嫌だった。私は豆粒ほどの陶製の人形をペルルさんに差し出した。みんなはびっくりしたが、私の思いやりや慎重なやり方に気付き、割れんばかりの拍手で「女王様万歳!女王様万歳!」と言った。ペルルさんは「だめですよ・・・・わたしなんか・・・・」と仰天し体を震わせた。
(6)
それまで私はペルルさんのことを気にも留めないでいた。シャンタル家のみんなは、ペルルさんにやさしく接していた。彼女は、使用人以上の存在だったが、親戚の婦人ではなかった。私はペルルさんの顔をしげしげと眺めた。彼女は40歳ぐらい(41歳)だったが、わざと老けた格好をしていることに気付いた。私は目が覚める思いがした。ペルルさんには、素朴で自然な優雅さがあった。
(7)
ペルルさんの額には二筋の深いしわがあった。それは長年の悲しみのせいのように思えた。青く美しい両の目はつつましやかで優しい。顔全体が上品だった。私はにわかに、シャンタル夫人と較べてみた。ペルルさんの方が、上品で気高く堂々としているように見えた。
(8)
ペルルさんは、この家の人たちから好かれていた。夕食が終わって、シャンタル氏が葉巻を吸う時間となった。シャンタル氏(56歳)と私(25歳)は玉突き室に行った。私は「ペルルさんはご親戚の方なんですか?」と尋ねた。シャンタル氏は私の顔をしげしげと眺め、「君知らないの?お父さんから聞かなかったの?」と言った。「聞いてません」と私は答えた。
(9)
シャンタル氏が話し出した。今から41年前のちょうど王様祭りの日だった。ぼく(シャンタル氏)は15歳だった。当時、僕らはロユイ=ル=トールの町の城壁の上の家に住んでいた。大家族で、父と母、叔父と叔母、兄貴が二人、従姉妹が4人。その中の一番若いのと、やがて私は結婚した。今じゃ生きているのは3人だけで、ぼくと女房と、マルセーユに住んでる女房の姉だけだ。
(10)
その夜、野原で犬が吠えているのに気づいた。雪が休みなく降り続いていた。その時、庭の通用門で鐘が鳴った。みんな不安になり召使に見に行かせたが、誰もいなかった。犬はまだ吠えていた。そしてまた通用門の鐘が鳴った。叔父がステッキを武器に再び召使と通用門に行った、だが「誰もいない」と叔父が戻ってきた。そして三度目の鐘がなった。「正体を突き止めなくちゃいけない」と一番上の兄が言った。犬は相変わらず城壁から100mのあたりで鳴いていた。鉄砲と空気銃を持ち、父、叔父、18歳と20歳の兄たちが、カンテラを手に出発した。
(11)
大きな黒い犬がいた。犬は獰猛でなく、むしろ、みんなをそばに引き寄せることができ満足しているようだった。父が犬の頭を撫でた。その時、犬が小さな馬車の車輪につながれているのが分かった。それはおもちゃの馬車のようなもので、全体が三重にも四重にも毛布で包まれていた。その中になんと赤ん坊が眠っていた。ぼくらは驚きのあまり、口もきけなかった。
(12)
父は心が広く、そしてやや感激しやすい質(タチ)の人間で、「哀れな捨て子よ。君を家族の一員としよう」と言った。「きっと道ならぬ恋から生まれた子だ。母親がうちの通用門の鐘を鳴らしに来たのだ。御公現祭の夜を選んだのも、幼な子イエスにあやかるためにちがいない」。家に連れて戻ると、赤ん坊は女の子だった。産着の中に1万フランもの金貨が入っていた。父はそれを「その子の持参金にする」と言って貯金した。
(13)
こうして赤子は養女になり、シャンタル家で育てられた。彼女は最初、クレールと呼ばれ、かわいらしく、やさしい、そして素直な子に育った。母は几帳面で、格式を重んじる人だったので、幼いクレールを自分の子同様に扱ったが、立場を明確にすることにこだわった。それで物心つくようになると、母は生い立ちを語って聞かせた。クレールは自分の立場を不思議なほどよく理解した。
(13)-2
クレールは可愛らしいやさしい子で、心からの感謝の気持ちを見せ、おどおどするほどまでに忠実な態度を示した。父などはついほろりと涙ぐむことがあった。母も「まあ、この子は本当にペルル(真珠)だよ」と言った。こうしてあの人は、ぼくらにとってマドモアゼル・ペルル、ペルルさんとなった。
(14)
ここまで語った後、シャンタル氏は言った。「18歳の頃(※シャンタル氏33歳)、あの人は本当にきれいだった。非のうちどころがなかった。可愛くて・・・・やさしくて・・・・けなげで・・・・あでやかな娘だった。」(※シャンタル氏は、秘かに、自分自身にも隠していたが、実はマドモアゼル・ペルルを愛していたのだ!)
(14)-2
その時、私はシャンタル氏に「なぜ、あの人は結婚しなかったんです?」と訊ねた。「あの人は結婚したがらなかったんだよ。3万フランの持参金があったし、何度も求婚されたのに承知しなかった。あの人は、あの頃、淋しそうだったな」とシャンタル氏は答えた。(※マドモアゼル・ペルルは実はシャンタル氏を愛していたのだ!)「ぼくが、従姉妹のシャルロット、つまり今の女房と結婚したのは、その頃だった。6年前から婚約していたのでね。」
(15)
このとき、私は彼(シャンタル氏)の心のなかが見えてきたような気がした。真直ぐな心、何一つやましい所のない人の心が秘めた悲劇!他人に自分の心を告白したことのない人の悲劇!あきらめきり、黙って悲劇の犠牲者となっていたので、当の本人たちにさえも気づかれていなかった悲劇!
(16)
私は大胆にもこう言った。「シャンタルさんこそ、マドモアゼル・パルルと結婚すべきだったんじゃありませんか?」彼は、体をびくっと震わせ、私の顔を見つめて言った。「なぜかね?」「なぜならシャンタルさんは、従姉妹さんよりあの人を愛していたからです。」「従姉妹との結婚を6年も待たせたのは、ベルルさんという人がいたからですよ。」
(17)
シャンタル氏は、突然さめざめと泣きだした。痛ましいが滑稽な泣きようで、目と鼻と口から同時に涙がこぼれだしていた。その時、シャンタル夫人が呼ぶ声がした。私は「辛い思いをさせて申し訳ありません」と言った。「うん・・・・うん・・・・人生には難しいときがあるものだ」とシャンタル氏が答えた。「目にゴミが入ったと言えば、行っても大丈夫ですよ」と私は言った。
(18)
この時、私は、ペルルさんの心も見えたような気がした。この人の、つつましく素朴で献身的な人生が、見通せた気がした。この人もシャンタル氏を愛していた。私は小さな声でペルルさんにささやいた。「さっきシャンタルさんが泣いていましたよ。」「でも、どうしてですか?」「あなたのせいなんです。」「わたしのせいですって?」「そうなんです。昔、どんなにあなたのことが好きだったか、さっき話してくれました。あなたではなくて、今の奥さんと結婚するのがどんなにつらかったかも・・・・」
(19)
ペルルさんの目が、急に閉ざされた。ペルルさんは、椅子から床へ滑り落ち、まるでショールが落ちるように、ゆっくりとくずおれた。私は「誰か来てください!ペルルさんが大変です!」と叫んだ。
(20)
私は帽子を手にするや、逃げるようにシャンタル家を辞した。私は大股で歩き、心は後悔と自責の念でいっぱいだった。しかし「正しいことをしたのかもしれない」とも思った。「彼ら二人は、治った傷の中に残る弾丸のように、あのことを魂の中にしまい込んでいたのだ。」「今では、二人はかえって幸せになったのではあるまいか。」「かつての苦しみをしみじみ思い出すにはまだ間に合うのだ。」
(21)
やがて来る春の夕べ、二人はこらえにこらえたつらい苦しみを思い出し、手を取り合い手を握り合うかもしれない。そして一瞬のうちに蘇ったこれら二人の死者たちに、あのもの狂おしい陶酔、聖なる感動が投げ与えられかもしれない。「この陶酔によって、二人の恋人は、ほかの人間が一生かかっても受け取れないほどの幸福を、ただ一度のおののきのうちに得るのであろう!」

《感想1》真直ぐな心、何一つやましい所のない人の心が秘めた悲劇。他人に自分の心を告白したことのない人の悲劇。あきらめきり黙って悲劇の犠牲者となっていたので、当の本人たちにさえも気づかれていなかった悲劇。これがシャンタル氏とマドモアゼル・パルルの恋だった。
《感想2》その上、マドモアゼル・パルルは、自分が捨て子である運命を従順に受け入れるしかなかった。彼女は、可愛らしいやさしい子で、心からの感謝の気持ちを見せ、おどおどするほどまでに忠実な態度を示した。彼女はパルル(真珠)のようだった。
《感想3》二人は、こらえにこらえたつらい苦しみを思い出し、手を取り合い、手を握り合うだろうか?そして蘇ったこれら二人の死者たちに、もの狂おしい陶酔、聖なる感動が投げ与えられるだろうか?二人の恋人は、ほかの人間が一生かかっても受け取れないほどの幸福を、ただ一度のおののきのうちに得るだろうか?
《感想4》捨て子の運命を従順に受け入れるしかない美しく可愛らしいやさしい少女と、誠実で真直ぐな心、何一つやましい所のない心を持つ青年の辛く悲しい愛の物語だ。虚構だがロマンチックだ。
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