鴨
鴨にはなるなと
あのとき
鴨は言ったか
ノオ
羽をむしり
毛を焼き
肉をあぶって食いちらしたおれたちが
くちびるをなめなめ
ゆうもやの立ちこめてきた沼のほとりから
ひきあげようとしたときだ
「まだまだ
骨がしゃぶれるよ」
おれたちはふりかえり
鴨の笑いと
光る龍骨を見た
《感想1》
詩人は、日中戦争の時、上海の出版用紙の配給機関につとめ、目撃者から南京大虐殺などについて聞かされた。
「この中国に巨大な“悪”をもたらした非道な侵入者のひとり」と、彼は、後に回想する。(「一つの回想」)
詩人は、心優しい人だった。
《感想2》
詩は、人にカモにされる鴨の話。
カモにされた鴨は、「鴨にはなるな」!と、言わなかった。
なぜか?
カモになるかどうか、自分には選べないから。
負け戦(イクサ)が、勝手に、向うからやってくれば、敗者側は、カモにされるしかない。
勝った側は、「羽をむしり/毛を焼き/肉をあぶって/食いちらした」。
ところがカモにされ、食い散らされた鴨が言う。「まだまだ/骨がしゃぶれるよ」と。
鴨の精神を、勝者は、破壊できなかった。鴨は不敵に「笑い」、食い残された背骨が「光る」。
なぜか?
勝者である「おれたち」に正義がなかったからである。「おれたち」は“悪”だった。そう詩人は言う。
《感想3》
詩が出版されたのは1957年。
戦争経験者の記憶は、今、2016年、消え去りつつある。1945年に20歳だった人は、今、91歳。(詩人自身は、1990年に亡くなっている。)
「非道な侵入者」日本が、謝罪すべき貧しかった中国は、2010年GDP世界2位となり、豊かになった。そして、今や軍事大国。日本の脅威となった。
日本or日本人は、中国を恐れつつある。
今、必要なのは、この詩人に即すなら、「羽をむしり/毛を焼き/肉をあぶって食いちらした」戦争経験者としての詩人の気持ちを、あらためて直視し、生かす道を探すことだと思う。
問題は、政治的でなく、倫理的である。
《参考》河野仁昭『詩のある日々』(1988年)
A WILD DUCK
Did a wild duck say at that time that it must not become a wild duck?
No, it didn’t.
We plucked its feathers, burned its hairs, grilled and ate up its meat.
When we licked our lips, and nearly left the side of a marsh where fogs began to prevail at sunset time, we heard the voice, “You can even suck my bones moreover.”
We looked back, and then saw the laugh of a wild duck and its shining backbone.
※ In Japanese, a wild duck means a person who is taken advantage of by others.
鴨にはなるなと
あのとき
鴨は言ったか
ノオ
羽をむしり
毛を焼き
肉をあぶって食いちらしたおれたちが
くちびるをなめなめ
ゆうもやの立ちこめてきた沼のほとりから
ひきあげようとしたときだ
「まだまだ
骨がしゃぶれるよ」
おれたちはふりかえり
鴨の笑いと
光る龍骨を見た
《感想1》
詩人は、日中戦争の時、上海の出版用紙の配給機関につとめ、目撃者から南京大虐殺などについて聞かされた。
「この中国に巨大な“悪”をもたらした非道な侵入者のひとり」と、彼は、後に回想する。(「一つの回想」)
詩人は、心優しい人だった。
《感想2》
詩は、人にカモにされる鴨の話。
カモにされた鴨は、「鴨にはなるな」!と、言わなかった。
なぜか?
カモになるかどうか、自分には選べないから。
負け戦(イクサ)が、勝手に、向うからやってくれば、敗者側は、カモにされるしかない。
勝った側は、「羽をむしり/毛を焼き/肉をあぶって/食いちらした」。
ところがカモにされ、食い散らされた鴨が言う。「まだまだ/骨がしゃぶれるよ」と。
鴨の精神を、勝者は、破壊できなかった。鴨は不敵に「笑い」、食い残された背骨が「光る」。
なぜか?
勝者である「おれたち」に正義がなかったからである。「おれたち」は“悪”だった。そう詩人は言う。
《感想3》
詩が出版されたのは1957年。
戦争経験者の記憶は、今、2016年、消え去りつつある。1945年に20歳だった人は、今、91歳。(詩人自身は、1990年に亡くなっている。)
「非道な侵入者」日本が、謝罪すべき貧しかった中国は、2010年GDP世界2位となり、豊かになった。そして、今や軍事大国。日本の脅威となった。
日本or日本人は、中国を恐れつつある。
今、必要なのは、この詩人に即すなら、「羽をむしり/毛を焼き/肉をあぶって食いちらした」戦争経験者としての詩人の気持ちを、あらためて直視し、生かす道を探すことだと思う。
問題は、政治的でなく、倫理的である。
《参考》河野仁昭『詩のある日々』(1988年)
A WILD DUCK
Did a wild duck say at that time that it must not become a wild duck?
No, it didn’t.
We plucked its feathers, burned its hairs, grilled and ate up its meat.
When we licked our lips, and nearly left the side of a marsh where fogs began to prevail at sunset time, we heard the voice, “You can even suck my bones moreover.”
We looked back, and then saw the laugh of a wild duck and its shining backbone.
※ In Japanese, a wild duck means a person who is taken advantage of by others.