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DIARY yuutu

yuuutunna toki no nikki

会田綱雄(1914 -1990)「鴨」『鹹湖(カンコ)』(1957、43歳)

2016-12-30 19:44:39 | 日記
 鴨

鴨にはなるなと
あのとき
鴨は言ったか

ノオ

羽をむしり
毛を焼き
肉をあぶって食いちらしたおれたちが
くちびるをなめなめ
ゆうもやの立ちこめてきた沼のほとりから
ひきあげようとしたときだ

「まだまだ
 骨がしゃぶれるよ」

おれたちはふりかえり
鴨の笑いと
光る龍骨を見た

《感想1》
 詩人は、日中戦争の時、上海の出版用紙の配給機関につとめ、目撃者から南京大虐殺などについて聞かされた。
 「この中国に巨大な“悪”をもたらした非道な侵入者のひとり」と、彼は、後に回想する。(「一つの回想」)
 詩人は、心優しい人だった。
《感想2》
 詩は、人にカモにされる鴨の話。
 カモにされた鴨は、「鴨にはなるな」!と、言わなかった。
 なぜか?
 カモになるかどうか、自分には選べないから。
 負け戦(イクサ)が、勝手に、向うからやってくれば、敗者側は、カモにされるしかない。
 勝った側は、「羽をむしり/毛を焼き/肉をあぶって/食いちらした」。
 ところがカモにされ、食い散らされた鴨が言う。「まだまだ/骨がしゃぶれるよ」と。
 鴨の精神を、勝者は、破壊できなかった。鴨は不敵に「笑い」、食い残された背骨が「光る」。
 なぜか?
 勝者である「おれたち」に正義がなかったからである。「おれたち」は“悪”だった。そう詩人は言う。
《感想3》
 詩が出版されたのは1957年。
 戦争経験者の記憶は、今、2016年、消え去りつつある。1945年に20歳だった人は、今、91歳。(詩人自身は、1990年に亡くなっている。)
 「非道な侵入者」日本が、謝罪すべき貧しかった中国は、2010年GDP世界2位となり、豊かになった。そして、今や軍事大国。日本の脅威となった。
 日本or日本人は、中国を恐れつつある。
 今、必要なのは、この詩人に即すなら、「羽をむしり/毛を焼き/肉をあぶって食いちらした」戦争経験者としての詩人の気持ちを、あらためて直視し、生かす道を探すことだと思う。
 問題は、政治的でなく、倫理的である。

《参考》河野仁昭『詩のある日々』(1988年)

 A WILD DUCK

Did a wild duck say at that time that it must not become a wild duck?

No, it didn’t.

We plucked its feathers, burned its hairs, grilled and ate up its meat.
When we licked our lips, and nearly left the side of a marsh where fogs began to prevail at sunset time, we heard the voice, “You can even suck my bones moreover.”
We looked back, and then saw the laugh of a wild duck and its shining backbone.

※ In Japanese, a wild duck means a person who is taken advantage of by others.
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