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中西進『古代史で楽しむ万葉集』「八 百花繚乱」(その2):「骨太な男―硬骨漢」の山上憶良!「夢想の非現実の世界」に住む高橋虫麻呂!繊細で優美そして情緒的な歌の湯原王!

2021-08-06 16:51:17 | 日記
※中西進(1929-)『古代史で楽しむ万葉集』角川ソフィア文庫(1981, 2010)

(8)-4 山上憶良(660-733):「骨太な男―硬骨漢」!(183-187頁)
H-5  旅人の周辺の人物として、もっともすぐれた作を残したのは山上憶良(660-733)だ。旅人は人麻呂と同世代。ただし人麻呂が活躍したのは白鳳朝だが(人麻呂の歌は689-700の作だ)、憶良は8世紀になって活躍する。(183頁)
H-5-2  憶良は遣唐使から帰るまで無位だった。帰国後、42歳に位を得て、716年(56歳)伯耆守となる。その後、京に帰り721年(61歳)に聖武皇太子の侍講となる。726年頃、憶良は大宰府に下る。旅人が太宰帥として下ったのが726-727年頃で同時期だ。旅人と憶良は数年間、大宰府にともにいた。旅人は730年に帰京、遅れて憶良は732年に帰京した。(183-184頁)
H-5-3  儒学生上がりの憶良は、伯耆守をふり出しに過ごした十余年の国司生活で、ひたすらその職に励んだ。彼はまじめに所管の土地を巡行し、ことに「貧・老・病」に心を配った。(185頁)
H-5-4  天平5年(733年)、憶良の死の近く、重病に沈んだ時の歌がある。
「士(オノコ)やも 空しくあるべき 万代(ヨロヅヨ)に 語り続くべき 名は立てずして」(巻6、978)
士たるものは空しく死んで行ってよいはずはない。後のち万代に語りつがれるような名声も立てずに。(184頁)
H-5-4-2 憶良は言わば「骨太な男―硬骨漢」だった。(185頁)

(8)-5 高橋虫麻呂:「夢想の非現実の世界」こそが、確かな事実だった!(187-191頁)
H-6  旅人・憶良は比較的地位が高い歌人だ。高橋虫麻呂は、宮廷歌人と同じように下級の官人だが、彼らと異なった場で作歌した。虫麻呂は、「高官で最高の文人政治家であった藤原宇合(ウマカイ)」と関係を持った下級官人だった。(187頁)
H-6-2 虫麻呂のほとんどの歌が、大和以外を歌う。虫麻呂は「故郷喪失」の歌人だ。東国赴任に伴う上総・下総・武蔵・常陸の歌、また西の方では河内・摂津・住吉(スミノヱ)の歌がある。(187-189頁)
H-6-3  虫麻呂は「伝説歌人」と言われる。なぜ彼は伝説を詠んだのか?伝説の世界は彼にとって「もう一つの現実の世界」だった。虫麻呂が「浦島伝説」をどう受け取ったか、反歌で次のように歌う。(189頁)
「常世辺(トコヨヘ)に 住むべきものを 剣刀(ツルギタチ) 己(ナ)が心から 鈍(オソ)やこの君」(巻9、1741)
玉篋(タマクシゲ)を開いて常世(あの世、竜宮の世界)に帰れなくなってしまった浦島に対し、「常世に住んでいればよかったのに。自分の気持ちからこうなってしまったのだ。何と間抜けことだ」と虫麻呂は歌う。(※「剣刀」は「己」にかかる枕詞。)(189頁)
H-6-3-2  虫麻呂にとっては「夢想の非現実の世界」こそが、確かな事実だった。(190頁)
H-6-3-3 「虫麻呂は現実のうつろな不安の中で、不安定な情緒をいだいて非現実の中にはいっていった。」そこには「卑官の桎梏をのがれたかった」虫麻呂がいる。「おのが身の栄達など望み得べくもない官位」、さりとて「役人生活を捨てることもかなわない己れ」!(191頁)

(8)-6  湯原王:繊細で優美そして情緒的な歌!(191-193頁)
H-7  先の持統朝で多くの皇子たちが、他に先んじて新風の詩歌を担っていた。次のこの時代の皇族の歌うたは、いっそう優美な風流の中にあった。聖武天皇はその一人であったが(既述)、ここにもう一人、湯原王がいる。湯原王は志貴皇子(シキノミコ)の皇子だ。(191頁)
H-7-2  湯原王の作歌時代は天平前後。父志貴皇子の透明な作風をそのまま継承し、その感情はいっそう繊細で優美だ。(191頁)
「吉野なる 夏実の河の 川淀に 鴨そ鳴くなる 山陰(ヤマカゲ)にして」(巻3、375)
間接性が婉曲さとなって、情緒的な歌をつくっている。「吉野の夏実(菜摘)の川の淀みの所に、鴨の鳴く声が響いている(「なる」は推定)、鴨の姿は見えないが山陰から」。(192頁)
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