住職の独り言

~ご縁に触れて~

微笑ましい話

2024年08月25日 | 独り言
「父、30年ぶりの飛行機」

「靴、脱がんでええんか?」。苦笑いのCAさんを横目に、父の腕を思いっきり引っ張り機内に乗せる。父は今、30年ぶりに飛行機に乗り込んだ。
 母の長年の夢、北海道・富良野のラ ベンダー畑を見に行く。私たち家族は1年前から旅行の計画を立て始めた。
久しぶりの家族での長期旅行。ガイド ブックを読み込み、お土産リストまで作り、準備は万端。ただ一点、不安な ことがあった。父親が新婚旅行ぶりに飛行機に乗るということだ。

「お父さん、酔い止め飲んだ?」。 私の心配をよそに、窓際に座った父はうれしそうに窓の外を眺めている。 「昔より座席も座りやすなってるわ。
昔、オーストラリア行ったときは大変やったんや」と、新婚旅行の思い出を話し出す。

「まもなく離陸いたします」のアナウンスがあり、機体が宙に浮く。「お 父さん、大丈夫?」と父の横顔をのぞくと、父は子供のように窓の外の景色に夢中になっていた。私と母はそんな 父を見てほほ笑み合う。

「それでな、コアラ抱っこしたときなんやけどな」と、父はまたしても新婚旅行トークに花を咲かせている。母が静かに相づちをうつ。

私は父と母の手を握りながら静かに眠りについた。

(堺市北区 乾夏実 25)





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