「愛はある」
死神は言った。
「だが、愛をほとんどの人間が勘違いしている。人の愛は永遠でも清らな物でもない。ただの人を求める気持ちだ」
死神は言う。
「愛はただの他人への執着だ。
愛にとらわれないないですむなら、他人への関わり方にだけ気を配れば良い。だが、他人に期待し他人を求め、執着するから愛が生まれる。
大好きって気持ちが『愛』なのではない。大好きにこだわる事が『愛』という執着を生むのだ。
人を縛り、自分の思うようにしてほしいと望む心が『愛』なのだ」
死神はさらに言う。
「あんたのお父さんは、家族を愛している。手に入れた家族を無くしたくないから必死に働いている。そのため、不安定なお母さんとも、なんとか共存しようと頑張った。手に入れた家族を失う事が怖いからだ。お父さんが家族を無くしたくないと執着したからこそ、あんたは半分おかしいお母さんと向き合わねばならなくなった。
同時に、あんたもお父さんを愛している。
心のどこかで、お父さんがいなけりゃ自分なんか生きていけないと思っているからだ。お父さんへの執着がいつの間にか、お父さんから見て私とお母さんのどちらが大切かという話に変わって、お母さんと自分との重要性の差という考えになり、やがてお母さんを排除した優越感にすり替わった。
あんたとお父さんは、間違いなく互いに愛し合っている。
思いきりすれ違いで自分勝手だけどね。
互いに相手を無くしたくない。
お父さんにとっては、最後の残された家族。
あんたにとってお父さんは、いてもらわないと自分の生存すら危うくなる相手。
身勝手に求める心、それが愛だ!」