「他人を非難するなんて簡単な行為だ。口をパクパク動かして肺から息を吹き出せば、罵倒なんかいくらでも湧き出てくる。
それに比べ、2人の勇者は考えこそ足りないかもしれないが、自分の金を使い、自分の足で移動し、自分の手で行動をおこしている。
多数決によっかかって、口だけの人間に勇者を責めることはできないはずなんだが、つい動いちまう口は本人には止められない。言いたい事を言うのだって当然な権利だ。
おばさんは、野良猫に餌をやると猫が増えるから困ると周りから責められる。男は、猫ちゃんを殺すなんて可哀想と周りから罵倒される。
周囲でワイワイ言う連中こそ勝手だよな。
オイオイ、どっちなんだよと思わないか。猫に減ってもらいたいのか、増えてもらいたいのか。
単なるそれぞれの個人的見解による罵倒じゃねぇかとすら思える。
だが、じつはソレが正論であったりするのが、世間の怖い所だ。
ようするに、世間の野良猫への評価を総合しちまえば、『野良猫にはいっさい関わるな』って事で、ソレが結局正しいのかもしれない。
誰も、野良猫に餌をやらないと徹底するなら、野良猫はわざわざ殺すまでもなく自然の摂理で適正な数になるだろう。
誰もカラスになんか餌をやんないのに、カラスが勝手に生きてることからも、それは推測できる」
死神は言葉を切った。私は続きなんか聞きたくもないけど、つい言ってしまう。
「うん」
「勇者も、勇者を非難する者も、個人としては間違っている。
ただ好き勝手な事をして、好き勝手な事を言っているだけだ。
だが、総論として見るなら、非難する者の意見が、じつは正論だったりする。だが、それとて人間がつくった共同体の中でのはなしで、じゃあ、野良猫達にとって何がどうなのかと言えば、どうなんだろう?
野良猫に明確な意志表示はないが為に、人間が勝手に判断して好き勝手にやっているだけで、野良猫からしちゃ人間さえそもそもいないければ、こんな辺境の島国にまで分布する事もなかっただろう。
猫にとっちゃ人間に飼われる事が不幸の始まりだったのかもしれない。
全ては人間の身勝手さが生んだ猫の不幸だ」