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★みんなニコニコ古墳を造ったと描く自由社版-扶桑社版からの改悪<13>

扶桑社から絶縁された「新しい歴史教科書をつくる会」が自由社という出版社から出した教科書が、扶桑社版を大部分コピーしつつ、コピーしなかった部分で自虐的に改悪している―という連載をお届けしています。読者の皆様からの膨大な情報提供メールが整理しきれなくなってきたので、主なものをページ順に並べ替えて紹介しています。今回は古代国家の形成から鎌倉時代までです。
 
「自由社版は秀吉の朝鮮出兵を侵略と書いていない」と大嘘を流布して恥じない「つくる会」理事、小山常実(→連載11)は著書『歴史教科書が隠してきたもの』で「文化史の部分こそ、自由社と扶桑社との最大の違いである」としていますが、まさに自由社版の欠陥は文化史に集中しています。
 
<p28>「前方後円墳の分布」の地図の説明で「近畿地方に多く見られることがわかる」とあるが、地図を見ると関東にも九州にも多く、学習上不適切。
<p29>「古代の鏡2 狩猟文鏡」の写真。トリミングが不自然。上の鏡の写真のように全体を出せばいいのに。
<p30>「歴史へゴー! 古墳はどうやって造ったの?」のイラストで、古墳築造に従事している人たちがニコニコしている

下にある本文に「かつては、その工事は民衆を各地から強制的に集め、酷使したと考えられたが、近年の学説では、あれほどの規模の仕事を強制だけで進めたとの解釈には無理があるとし、『もともと近畿などには集団が一体となって行動する伝統があり、古墳づくり自体に“まつり”のような意味があったのでは』との見方も出ている。(読売新聞の記事から要約)」とある。
引用元の読売新聞の記事はこれ(昨年1月31日付夕刊)。

仁徳天皇陵を手をつないで取り囲もうというNPO法人の企画を取り上げたコラムで、学術記事ではない。確かに近年、認知考古学という分野でそのような学説もあるが、強制労働かどうかという問題と重労働であるということは別の話。力仕事のときは険しい顔をするものだ。このイラストは暗黒史観の裏返しでしかない。
<p32>
楽浪郡の側注。「平壌(現在のピョンヤン)付近を中心とした地域」とあるが、平壌がピョンヤンになったんじゃなくて、平壌の朝鮮語読みがピョンヤン。扶桑社版の「現在の平壌(ピョンヤン)付近を中心とした地域」が正しい。(→連載1
<p42>和銅開称の写真説明。「独自の銭銘(文字に彫った貨幣の名前)を持ったのは中国についで、東アジアで2番目だった」。文字通り不必要な注記である。それより、和銅開称がさくいんにないので引くことができない。
<p48>扶桑社版にある阿倍仲麻呂の名前が削られている。(→連載2
<p48~49>単元のタイトルが「飛鳥・白鳳・天平の文化」、小見出しが「白鳳・天平の文化」となっているが、白鳳文化の事例や写真が全く掲載されていない。これでは意味がない。「この時代の文化を白鳳文化とよぶ」の後、改行がないまま天平文化の説明に入っているので、紛らわしい。
<p49>「校倉づくりの構造」とあるが、p56、57は「神殿造」、p83は「書院造り」で、表記が不統一。
<同>「東大寺には法華堂の不空羂索観音像や日光・月光菩薩像、戒壇院の四天王像…など、いずれも美術的にきわめてすぐれた仏像が納められた」とあるが、これだと日光・月光菩薩像は法華堂に納められたように読める。しかし、この2体は法華堂の当初像ではなく、客仏(後からお堂に入れられた仏像)で、造像の経緯はよく分かっていない。戒壇院の四天王像も、おそらく日光・月光と一具の作品で、もともと戒壇院にあったわけではない(創建当初の戒壇院像は銅造)。扶桑社版は「残されている」と記述している。また、記述の順序としても、扶桑社版のように阿修羅像を先に記載するほうがふさわしい。作られた時代がほかの像より明らかに先。通常、教科書は古い順に作品を紹介するものではないか。
<p52>「法隆寺回廊の柱」の写真説明。伊東忠太の「法隆寺のエンタシスのギリシャ起源論」で説明されている。「日本はシルクロードの終着点」と強調したいのだろうが、今これを支持する建築史の研究者はまずいない。(→連載5
<同>序文の扉にもあるが、扶桑社版があえて載せなかった廣隆寺の弥勒菩薩半跏思惟像=朝鮮の仏像を掲載している。(→連載5
<p53>「阿修羅像」の写真説明。「天平ボーイ」はふざけすぎ。
<p55>「ここがポイント!」の「①権威としての摂関政治」は意味不明。全体的に「ここがポイント」がちっともポイントになってない。
<p56>単元のタイトル「密教の伝来と国風文化」。密教は「伝来」ではない。最澄、空海が留学してもたらしたもの。明治時代に西洋近代思想が「伝来」したなどと言わないのと同じ。
<同>扶桑社版にある菅原道真の名前が削られた。「つくる会」は扶桑社版だけに菅原道真が載っていることをセールスポイントにしていたのに。(→連載2
<同>国風文化を説明するのに「中国文化の強い影響を受けながら」とか、日本の風土や習慣「にも」合わせたと、独自性を否定している。「つくる会」とは、こういう記述を避けながら執筆することを旨とする団体だったのでは? 国風文化の説明として、中国文化の影響を強調する言い草を耳にしたことがない。平安文化は中国の影響下にあったが、国風文化はその影響以外の部分で勃興したものを総称する言い方である。しかも、国風文化が太字になっていないのは自由社だけ。(→連載5
<p56~57>本文と「ここがポイント!」に「神殿造」とあるが、p49は「校倉づくり」、p83は「書院造り」で、表記が不統一。
<同>「女手」「大和絵」「屏風」「桓武天皇」「祈祷」などはルビが必要。「桓武天皇」はp54にルビが振られているが、初出でなくとも、ここはルビが必要。
<p57>金剛峯寺を金剛峰寺と表記している(さくいんも)。この表記をする教科書は自由社だけ。
<同>平安時代の単元なのに、鎌倉時代の作品である空也上人像の写真が掲載されている。
<p58>「平等院鳳凰堂」の写真説明。「阿弥陀堂を中央に、めでたい鳥である鳳凰が左右に翼をひろげた姿を模している」とあるが、鳳凰堂は鳳凰を模して建てられたわけではない。江戸時代になって、鳳凰の形をしていることや、屋根の上に鳳凰の棟飾りがあることから鳳凰堂と呼ばれるようになった。
<同>「鳥獣人物戯画」の写真説明。「1000年前に動物たちの、こんな楽しい表情を描き分ける才能の持ち主がいたのだ」とあるが、鳥獣人物戯画は12世紀の作品で、甲巻・乙巻以外は鎌倉時代とされているので、1000年前は明らかに間違い。古くて900年前。
<p58~59>「妙なる」「陸奥」「可憐」「相撲」などはルビが必要。
<p59>重要な歴史用語である「末法思想」が出てくるが、さくいんにないので引けない。
<p72~73>「華美を押さえて」は「華美を抑えて」の誤記。「宋の文化に影響され」として、南大門と三十三間堂を同列に扱っているが、南大門は宋の影響を受けた「大仏様」(だいぶつよう)という様式だが、三十三間堂は「和様」(わよう)であり、同列に扱うのは不適当。(→連載5
<p73>「摩和羅女像」の写真説明。「千体仏を囲む」は「千体仏の前に立ち並ぶ」とすべきだ。
<同>鎌倉彫刻を「たくましさだけでなく、内面の強い意志がにじみ出るような作風が好まれ」とまとめるのは間違い。それまでの仏像にたくましさがあったと読める。平安後期の仏像はまさに優美・繊細・円満な作風で、たくましさこそ鎌倉仏のひとつの特徴だ。さらに言えば、鎌倉彫刻を語る際に「写実」という言葉が出てこないのはおかしい。また、当時このような作風が「好まれた」と言い切るのも間違い。慶派は南都仏師と言われたくらいで、あくまで傍流からの反乱だったわけで、文化的中心地である京都では円派、印派など、より穏やかな作風がむしろ好まれていたと考えられる。
<同>「鴨長明の『方丈記』や吉田兼好の『徒然草』という、あきらめの境地をつづった随筆の名作が生まれた」。鎌倉文学を「無常観」でくくるのはいいにしても、方丈記、徒然草が「あきらめの境地をつづった」はひどすぎる。「あきらめの境地」が必要なのは「つくる会」首脳。
<同>
「貴族のあいだでは、新しい和歌のかたちを生み出そうとする機運がおこり、藤原定家らによって『新古今和歌集』まとめられた。この中にも武士の身分を捨てて僧になり全国を巡りながら無常的な和歌をよんだ西行の作品が光る」。「この中にも」は文章としておかしい。
<同>「絵画では『平治物語絵巻』のような戦のあらすじ」。絵画なのに「戦のあらすじ」とはひどい表現。「戦」はp68で「いくさ」とあり不統一。
<p75>扶桑社版にある「悪党」の記述が削除されている。重要な歴史用語であり、これでは受験に通らない。(→連載8
 
(つづく)

連載一覧
★安重根を取り上げ志士と称える自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<上>
★自由社版教科書で菅原道真も乃木希典も消えた-扶桑社版からの改悪<中>
★特攻隊を「自殺攻撃」と貶める自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<下>
★進化論から始まり部落史を詳述する自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<4>
★自由社版 そんなに支那が 好きですか-扶桑社版からの改悪<5>
★スクープ!『日本人の歴史教科書』表紙はタイのガラクタ-扶桑社版からの改悪<6>
★「ポツダム宣言様ありがとう」の自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<7>
★悪党のくせに(笑)悪党を書かない自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<8>
★藤岡信勝会長、独禁法に違反してませんか?-扶桑社版からの改悪<9>
★乃木大将削除を開き直る「つくる会」理事-扶桑社版からの改悪<10>
★秀吉の朝鮮出兵を「侵略」と書く自由社版-扶桑社版からの改悪<11>
★自由社版「ラスコーの壁画」はニセ写真だ-扶桑社版からの改悪<12>
★みんなニコニコ古墳を造ったと描く自由社版-扶桑社版からの改悪<13>
★錦の御旗で威圧したと書く自由社版-扶桑社版からの改悪<14>
★ナチスのユダヤ人迫害を消した自由社版-扶桑社版からの改悪<15>
★編集趣意書から「太平洋戦争」史観の自由社版-扶桑社版からの改悪<16>
★石原慎太郎を載せても都教委は採択しないぞ自由社版-扶桑社版からの改悪<17>
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★自由社版「ラスコーの壁画」はニセ写真だ-扶桑社版からの改悪<12>

「週刊金曜日」7月17日号によると、9日に扶桑社版教科書を継続採択した栃木県大田原市教育委員会の蛭田真透委員長は、記者会見で「扶桑社版を再び採択できて、男子の本懐だ」と述べたそうです。
 
扶桑社から絶縁された「新しい歴史教科書をつくる会」が自由社という出版社から出した教科書が、扶桑社版を大部分コピーしつつ、コピーしなかった部分で自虐的に改悪している―という連載をお届けしています。「つくる会」会員を含む読者の皆様から膨大な情報提供メールをいただき、整理できなくなってきましたので、主なものをページ順に並べ替えて紹介することにします。今回は第1節「日本人のあけぼの」までです。インチキ写真も判明しました。
 
<全般>活字が扶桑社版より一回り小さく、読みづらい。地紋(背景の模様)の上にある活字は埋没してさらに読めない。ルビに至っては判読不能。(→連載110
<同>ルビについては、特に新規執筆個所において、きわめて杜撰かつ恣意的なルビ付けが行われており、編集者が適当に振ったとしか思えない。学習外漢字どころか、常用外漢字にまで振っていないし、側注と本文のルビの振り分けのルールもまったく分からない。
<巻頭7> 「東シナ海に沈んだ『大和』」。脚注の戦死者等の数の表記が、本文p209には「約」が付されているが、ここではないため、不統一である。
<巻頭8=序文の扉>扶桑社版があえて載せなかった廣隆寺の弥勒菩薩半跏思惟像=朝鮮の仏像がいきなり1ページ大で載っている。p52にもある。どこが『日本人の歴史教科書』なのか。(→連載5
<扉>おもて表紙写真の説明。葛飾北斎の葛が
になっている。この表記は自由社だけ。
<p7~10>「調べてみよう」の題材が東京・日本橋なのは、自由社教科書編集室長だった松本謙一氏(鉄道模型雑誌「とれいん」の元編集主幹)が日本橋生まれだから。その他の個所でも鉄道関係、東京関係の記述が多く、松本氏の趣味が反映されている。東京都教委が作成した調査研究資料によると、自由社版の「東京に関する歴史的事象」の記述個所は突出して多く、バランスを欠いている。
<p10>「富嶽三十六景江戸日本橋」の写真説明。葛飾北斎の葛が
になっている。この表記は自由社だけ。
<p11>「縄文のビーナスとよばれる土偶」の写真説明。「妊」と「娠」の字がくっついている。コンピューター組版では通常このようなことは起こらないはずだが。
<p12~13>地球の誕生、進化論から始まるのは自由社だけ。歴史とは何かが分かっておらず、唯物的だ。(→連載4
 <p13>「人類の進化」のイラストが下手↓

 
<同>「ラスコー洞窟の壁画」の写真として掲載されているもの↓

誰が見ても分かるように、これは白い紙に着色したもので、壁画の写真とは言えない。モノクロ写真やコピーに色を付けて分かりやすくした説明用の図版(要するに塗り絵)か、一から描いた絵のどちらかである。どこから入手したか知らないが、これをラスコー洞窟の壁画の写真として教科書に載せるのは子供たちに嘘を教えるものである。
ラスコー洞窟の壁画の写真とは下に掲げたような写真を言う。

(自由社さん、よろしければこの写真お譲りしますので連絡ください。project-justice@mail.goo.ne.jp
 
<p14>「マンモスを狩る旧石器時代の人々(想像図)」。イラストが下手すぎる↓

 
<p15>「日本人女性とアメリカ先住民ナバホの老女」という写真。日本人はインディアンに近いと言いたいのか。(→連載4
<p16>「縄文時代の集落の生活(想像図)」。イラストがまるで子供の絵↓

 
<p22>「弥生時代の生活(想像図)」。やっぱりイラストが下手。
<p23>「弥生土器」の写真説明。「東京都文京区弥生町」という地名は存在しない。発掘当時は「東京府本郷区向ケ岡弥生町」、現在は「東京都文京区弥生」。
 
自由社版のイラストはいったい誰が描いたのか? 奥付に「さし絵 諸星昭弘」とある。諸星昭弘氏は鉄道模型作家←クリック で、松本謙一氏と一緒にDVDに出演←クリック している。自由社版の編集は松本謙一氏の鉄道オタク人脈で行われたといえる。
 
(つづく)

連載一覧
★安重根を取り上げ志士と称える自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<上>
★自由社版教科書で菅原道真も乃木希典も消えた-扶桑社版からの改悪<中>
★特攻隊を「自殺攻撃」と貶める自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<下>
★進化論から始まり部落史を詳述する自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<4>
★自由社版 そんなに支那が 好きですか-扶桑社版からの改悪<5>
★スクープ!『日本人の歴史教科書』表紙はタイのガラクタ-扶桑社版からの改悪<6>
★「ポツダム宣言様ありがとう」の自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<7>
★悪党のくせに(笑)悪党を書かない自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<8>
★藤岡信勝会長、独禁法に違反してませんか?-扶桑社版からの改悪<9>
★乃木大将削除を開き直る「つくる会」理事-扶桑社版からの改悪<10>
★秀吉の朝鮮出兵を「侵略」と書く自由社版-扶桑社版からの改悪<11>
★自由社版「ラスコーの壁画」はニセ写真だ-扶桑社版からの改悪<12>
★みんなニコニコ古墳を造ったと描く自由社版-扶桑社版からの改悪<13>
★錦の御旗で威圧したと書く自由社版-扶桑社版からの改悪<14>
★ナチスのユダヤ人迫害を消した自由社版-扶桑社版からの改悪<15>
★編集趣意書から「太平洋戦争」史観の自由社版-扶桑社版からの改悪<16>
★石原慎太郎を載せても都教委は採択しないぞ自由社版-扶桑社版からの改悪<17>
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★秀吉の朝鮮出兵を「侵略」と書く自由社版-扶桑社版からの改悪<11>


扶桑社から絶縁された「新しい歴史教科書をつくる会」が自由社という出版社から出した教科書が、扶桑社版を大部分コピーしつつ、コピーしなかった部分で自虐的に改悪している―という連載をお届けしています。これまで、自由社版は朝鮮に配慮していると指摘してきました。上の写真は、自由社版の歴史年表の3ページ目です。なんと、秀吉の朝鮮出兵を「朝鮮侵略」と書いています(扶桑社版の年表は「秀吉、朝鮮出兵」です)。
 
本文じゃなくて年表だから…なんて言わないでください。年表は歴史教科書の命です。これは、うっかりミスではありません。自由社版の年表には確固とした自虐史観の編集方針があるようです。「朝鮮侵略」の前のページには「倭寇が高麗や明を侵す」という記述があります(扶桑社版は「倭寇の出没」です)。大東亜戦争が「太平洋戦争」となっていることは連載の3回目でお伝えしました(扶桑社版は「大東亜(太平洋)戦争」です)。あえて変えているのです。
 
韓国政府は平成13年5月、検定に合格した日本の中学歴史教科書8社について35項目の修正要求を突きつけました。その中に“壬辰倭乱を侵略と書け”というのがありましたが、「つくる会」は今になって受け入れたわけです。
 
言うまでもなく、「侵略」概念を中世に当てはめて自国を糾弾することに対しては「つくる会」がずっと批判してきました。
 
 あまりにもひどかった歴史教科書←クリック
 トンデモ教科書←クリック
 
前回紹介した「つくる会」理事の小山常実という人は、会報「史」5月号で「教科書は、秀吉の朝鮮出兵を『侵略』として糾弾しながら、朝鮮から陶磁器など多くの文化が伝えられたことを異様なほど大きく扱っている」と他社の教科書を非難しています(小山の著書『歴史教科書が隠してきたもの』にも同じ記述があります)。しかし自由社版こそが秀吉の朝鮮出兵を「侵略」と糾弾し、陶工・李参平のコラムを「異様なほど大きく扱っている」ではありませんか。
▼小山常実の記述(「史」5月号)             ▼自由社版のコラム(p97)
 
 
小山は『歴史教科書が隠してきたもの』で、次のように虚偽を基に他社を攻撃しています。
 
【p30~31】一方では、秀吉の朝鮮出兵に二十世紀の価値観を表す「侵略」というレッテル貼りを行い、秀吉軍の「残虐さ」を際立たせる記述を行う。そして他方では、朝鮮から陶磁器技術などが伝えられたことを異常に強調するのである。
【p44】自由社を除く七社は、朝鮮出兵を「侵略」とする。
【p45】それにしても、七社が朝鮮出兵を「侵略」と位置づけているのはおかしなことである。そもそも、前近代の歴史に「侵略」という二十世紀の価値観をもちこんで断罪することは、歴史学や歴史教科書の立場としては許されないことである。(中略)朝鮮出兵を「侵略」と位置づけることはおかしなことである。
【p101~102】(帝国書院は)特に対韓国・朝鮮の関係では、教育出版とともに韓国・朝鮮を祖国とするような記述を行う最悪の教科書である。(中略)文禄・慶長の役を日本の「侵略」と位置づけている。
【p170】(自由社は)文禄・慶長の役を秀吉の「侵略」とすることもない。
【p180~181】教科書は、秀吉の朝鮮出兵を「侵略」として糾弾しながら、朝鮮から陶磁器など多くの文化が伝えられたことを異様なほど大きく扱っている。

 
よくこんなデタラメが書けるものです。学者としての良心はないのでしょうか。「本文ではないから無視した」という言い訳はできません。小山は序章で「本文はもちろん、注や写真の説明文に至るまで、原始時代から現代までの記述を通読した」と書いて、その基準で他社を批判しています。前回紹介した「つくる会」のホームページでは、写真説明や単元の見出しの下に書いてある文で自由社が扶桑社より優っていると採点しています。日本文教出版は秀吉が「大軍を送り」としているのですが、江戸時代のところに「豊臣秀吉の侵略でとだえていた朝鮮とは、家康のときに国交を回復した」という記述があります。小山はここをとらまえて日本文教出版を「侵略派」にしています。その基準なら自由社は当然「侵略派」です。つまり
 
 「朝鮮侵略」=自由社など8種類  「朝鮮出兵」=扶桑社のみ
 
連載の9回目で紹介した藤岡信勝会長の発言と同様、発行者と一体の編著者グループの理事が虚偽を基に他社教科書を中傷・誹謗する行為は独占禁止法違反の疑いが濃厚です。特に帝国書院は「最悪の教科書」と非難される根拠がインチキなのですから、たまったものではありません。
 
自由社は今回、歴史教科書だけを検定申請しましたが、平成22年度検定(23年度採択、24年度使用開始)の教科書には公民も申請すると表明していて、その代表執筆者に小山常実が決まっています。それで小山は自由社を一生懸命ヨイショしてきたのですが、こんな状況では、歴史も公民も次回検定はないかもしれません。小山は著書を回収して筆を折るべきでしょう。少なくとも、もう教科書問題に口出しする資格はありません。世界日報←クリックにでも書いていればいいのです。
 
さて、小山常実のような小者は別にどうでもいいのです。
 
「つくる会」は「安重根や李参平を載せるのはけしからん」「菅原道真が載っていない教科書は駄目だ」「秀吉の朝鮮出兵は『侵略』ではない」とずっと言ってきたにもかかわらず、それを捨て去ったのです。

「つくる会」首脳はこんな教科書を作っておいて、なぜ会員に謝罪して引責辞任しないのでしょうか。
市販本の表紙の写真が日本の仏像ではなくタイのオブジェだと明らかになった時点で、回収が始まり調査委員会が設置されるものと思っていましたが、回収の気配すらありません。
 
これでもまだ「つくる会」会員たちは自由社版の礼賛を続けるのでしょうか。だとすれば、もはや教科書改善運動ではなく「信仰」の領域です。
 
(つづく)

連載一覧
★安重根を取り上げ志士と称える自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<上>
★自由社版教科書で菅原道真も乃木希典も消えた-扶桑社版からの改悪<中>
★特攻隊を「自殺攻撃」と貶める自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<下>
★進化論から始まり部落史を詳述する自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<4>
★自由社版 そんなに支那が 好きですか-扶桑社版からの改悪<5>
★スクープ!『日本人の歴史教科書』表紙はタイのガラクタ-扶桑社版からの改悪<6>
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★悪党のくせに(笑)悪党を書かない自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<8>
★藤岡信勝会長、独禁法に違反してませんか?-扶桑社版からの改悪<9>
★乃木大将削除を開き直る「つくる会」理事-扶桑社版からの改悪<10>
★秀吉の朝鮮出兵を「侵略」と書く自由社版-扶桑社版からの改悪<11>
★自由社版「ラスコーの壁画」はニセ写真だ-扶桑社版からの改悪<12>
★みんなニコニコ古墳を造ったと描く自由社版-扶桑社版からの改悪<13>
★錦の御旗で威圧したと書く自由社版-扶桑社版からの改悪<14>
★ナチスのユダヤ人迫害を消した自由社版-扶桑社版からの改悪<15>
★編集趣意書から「太平洋戦争」史観の自由社版-扶桑社版からの改悪<16>
★石原慎太郎を載せても都教委は採択しないぞ自由社版-扶桑社版からの改悪<17>

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★乃木大将削除を開き直る「つくる会」理事-扶桑社版からの改悪<10>

扶桑社から絶縁された「新しい歴史教科書をつくる会」が自由社という出版社から出した教科書が、扶桑社版を大部分コピーしつつ、コピーしなかった部分で自虐的に改悪している―という連載をそろそろ終わろうかと思っていたら、現在扶桑社版を使っている栃木県大田原市が来春からの2年間も継続採択するという、今さらニュースにもならない情報が飛び込んできました。
 
10日付の産経新聞によると、小沼隆教育長は記者会見で「決定的な違いは使い勝手。自由社版は活字が小さく、読みやすい扶桑社版を選んだ」と語りました。自由社版の活字が小さくて非常に読みにくいことは、連載の1回目でお伝えしましたが、やはり採択に影響が出ました。
 
並べてみるとこんな感じです(左が扶桑社版、右が自由社版)。

活字の大きさも違いますが、用紙も自由社版はくすんだ色です。
 
大田原の扶桑社版継続採択が決まった翌日、「つくる会」のホームページに小山常実という聞いたことのない大学の聞いたことのない教授による「40項目について扶桑社と自由社を比較すれば―『歴史教科書が隠してきたもの』の補足」という文章があわててアップされました。この人の名前は連載の7回目でも出しましたが、「つくる会」の理事で、『歴史教科書が隠してきたもの』という本を書いている人です。この本はなぜか扶桑社以外の8種類の教科書に点数をつけて自由社を持ち上げています。
 
ホームページには扶桑社を外した理由をこう書いています。
<著書の執筆を始めた時には、藤岡会長他の著作権を侵害している扶桑社の歴史教科書が平成二十一年度教科書採択の候補になるとは考えられなかったので、扶桑社を除く八社(旧大阪書籍版は日本文教出版から発行されることになったので、七社八種になった)の教科書を検討した。ところが、文部科学省が作成した平成二十一年四月の教科書目録には、扶桑社の教科書が掲載されていた>
アホか、と言いたくなります。扶桑社版が採択の候補にならないなんて、本気で考えていた奴がいるとは! 著作権侵害は加害者と被害者が逆さまです。
 
扶桑社版が採択の候補になっていたので急遽扶桑社も比較したところ、「市民革命」と「日華事変」で自由社が勝っている…とかなんとか無理やりこじつけていますが、この連載が指摘してきた数々の事実は隠蔽しています。ただ、1カ所だけ反論がありました。
 
<扶桑社版では「日本海海戦」の大コラムで、乃木希典将軍が敵将ステッセルの助命のために尽力した話を簡単に付け加えていたが、自由社版ではこの話は削除された。削除を批判する向きがあるが、道徳や公民の教科書ではなく歴史教科書という性格を考えれば、批判されるべきものではないであろう>
  
「批判されるべきものではないであろう」だそうです。「つくる会」は扶桑社版からの改悪について必ず開き直ると思っていましたが、やはりそうでした。“乃木希典は歴史上の人物ではなく道徳のエピソードの人物にすぎない”“歴史教科書に道徳教育は必要ない”…よく覚えておきましょう。
 
この小山常実という人は『歴史教科書が隠してきたもの』で、自由社以外の教科書について「韓国・朝鮮関係の記述を読んでいると、韓国・朝鮮を特別な『選民』国家とでも思っているかのような記述が散見される」などと批判しています。扶桑社版にない安重根の名前を出して「韓国独立の志士」と書いていることなど、自由社版に散見される「朝鮮配慮」の記述についても採点してくださいよ、小山常実さん!
 
自由社版の「朝鮮配慮」を象徴する記述として、連載の1回目で一部紹介した三・一独立運動をもう一度取り上げます。三・一独立運動をめぐっては、平井修一という、中核派から「保守」に転向した人がネット上に書いている「推奨『日本人の歴史教科書』」という文章で「日本史の負の側面である朝鮮の『日韓併合』『三・一独立運動』への武力鎮圧などについても客観的に紹介されている」と自由社版を擁護しています(ところで平井さん。あなたはあちこちで「小生は1971年9月6日、成田市天浪で機動隊と戦った」と書いていますが、あなたが三里塚で千葉県警機動隊の公務の執行を妨害して逮捕されたのは「9月16日」です。自分の逮捕日ぐらい間違えないようにしましょう)。
 
読者の方からお送りいただいた「内部研究資料 比較検討 平成22年度版中学校歴史教科書」の中から、三・一独立運動の記述検証を紹介します(PDFはこちら)。


自由社版は、柳寛順こそ出てきませんが9種類の中学校歴史教科書の中で三・一独立運動を最も詳しく記述しています。他社の記述の要素を切り張りすると自由社版が出来上がるというわけです。確かに、朝鮮人から見たら「客観的に紹介されている」かもしれません。
 
「韓国・朝鮮を特別な『選民』国家とでも思っているかのような記述が散見される」と言う小山常実さん。あなたは、世界日報のオピニオン欄「ビューポイント」の執筆メンバー←クリック ではないですか。大韓民国こそが選ばれし国だと言っているのは、どっかのカルト宗教ではありませんか?
 
(つづく)

連載一覧
★安重根を取り上げ志士と称える自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<上>
★自由社版教科書で菅原道真も乃木希典も消えた-扶桑社版からの改悪<中>
★特攻隊を「自殺攻撃」と貶める自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<下>
★進化論から始まり部落史を詳述する自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<4>
★自由社版 そんなに支那が 好きですか-扶桑社版からの改悪<5>
★スクープ!『日本人の歴史教科書』表紙はタイのガラクタ-扶桑社版からの改悪<6>
★「ポツダム宣言様ありがとう」の自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<7>
★悪党のくせに(笑)悪党を書かない自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<8>
★藤岡信勝会長、独禁法に違反してませんか?-扶桑社版からの改悪<9>
★乃木大将削除を開き直る「つくる会」理事-扶桑社版からの改悪<10>
★秀吉の朝鮮出兵を「侵略」と書く自由社版-扶桑社版からの改悪<11>
★自由社版「ラスコーの壁画」はニセ写真だ-扶桑社版からの改悪<12>
★みんなニコニコ古墳を造ったと描く自由社版-扶桑社版からの改悪<13>
★錦の御旗で威圧したと書く自由社版-扶桑社版からの改悪<14>
★ナチスのユダヤ人迫害を消した自由社版-扶桑社版からの改悪<15>
★編集趣意書から「太平洋戦争」史観の自由社版-扶桑社版からの改悪<16>
★石原慎太郎を載せても都教委は採択しないぞ自由社版-扶桑社版からの改悪<17>
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★藤岡信勝会長、独禁法に違反してませんか?-扶桑社版からの改悪<9>

扶桑社から絶縁された「新しい歴史教科書をつくる会」が自由社という出版社から出した教科書が、扶桑社版を大部分コピーしつつ、コピーしなかった部分で自虐的に改悪している―という連載をお届けしています。新規参入の自由社を中心に、来年春から使われる中学校歴史教科書を客観的な事実に基づいて比較するというこの連載を行わせていただいているのは、①自由社が自由な論議のために教科書を市販してくれた②検定申請を見送って現行版を継続発行している他の7社8種類の教科書は、全国の教科書販売店で買うことができる―という条件のおかげです。子供たちが使う教科書はどれがふさわしいか、採択期間中に自由に議論し、インターネットで発信できることは大変望ましいことです。
 
しかし藤岡信勝会長。あなたは違います。あなたは自由社版教科書の代表執筆者です。教科書採択の公正確保を定めた独占禁止法や文部科学省の指導の制約を受ける当事者なんです。
 
月刊誌「WiLL」8月号や「チャンネル桜」の番組で他社の教科書を批判し、しかもその中に、例えば「教育出版が取り上げている姜という人物は日本史広辞典にも載っていない」などという虚偽が含まれていることは、独禁法や文科省指導に反しているのではありませんか?
 
チャンネル桜の番組はこれです。司会も自由社版執筆者の高森明勅「つくる会」理事ですから、違法なら“共謀”関係です。

以下、この連載の本題である「扶桑社版からの改悪」に触れつつ、藤岡・高森発言の違法性の有無も検証します。
  
藤岡「大阪書籍ってのは実はもう倒産してですね、日本書籍新社というところが買い取っているんですけど」
 
いい加減なことを言っています。大阪書籍の版権を譲り受けた(企業を買い取ったのではありません)のは日本書籍新社ではなく日本文教出版です。藤岡会長はよほど日本書籍新社に思い入れがあるようです。日本共産党と親密とされる日本書籍からたくさん本を出していますからね。←クリック

藤岡「(東京書籍と旧大阪書籍の)東西の2大教科書にですね、共通するのは、あの、明治時代のですね、特に日露戦争などで日本の国を守った重要な人物が消えちゃってると」
 
自由社版は扶桑社版に載っている乃木希典を削りましたけど…(→連載の2回目)。日露戦争で日本の国を守った重要な人物を消したのは自由社版です。あなたの持っている表より、こっちのほうが分かりやすいです(読者の方から送られた内部研究資料より)。
 
高森「日本の独立に貢献した人物が落ちてるということですね」
藤岡「その通りです、ええ。これはもう大変深刻な話ではないだろうかというふうに思うんですね」

 
大変深刻なのは自由社版ですよ。日本の独立に貢献した乃木希典を消して、「韓国独立の志士」として安重根を載せているんですから(→連載の1回目)。韓国の言い分ではなく教科書の立場として「韓国独立の志士」と書いているのは自由社だけです(内部研究資料より)。

 

藤岡「これ何と読むかっていうことですね。浅川巧さんの隣ですね。これはアテルイと読みます。アテルイと。で、これはあの、えー、奈良時代の後期にですね。あの、東北地方の蝦夷の酋長で、で、えー、坂上田村麻呂に、えー、降伏して、斬首されたとされている、ま、人物、えー、ですね。でー、朝廷にまあ、あの、抵抗したと、という、そういうまあ人物ということに、ま、なるんですけども、この人物がですね、えー、各社、ま、教育出版のように、こういう大きく取り上げてるのは、あのお、教育出版だけですけど、人物名としてはですね、後でも出てきますが各社取り上げてる」
 
アテルイは自由社版にも載っています(p54)。しかも朝廷が助命嘆願を無視して無慈悲だと印象づけています。

この記述は扶桑社版をコピーした部分です。古代史ですから高森明勅理事の執筆個所です。担当執筆者の高森理事と代表執筆者の藤岡信勝会長が話しているのに、自由社版にアテルイが載っている(1ページ以上でないにせよ)事実に言及していません。なぜそこを隠して教育出版を攻撃するのでしょうか。教育出版は確かにとんでもない自虐教科書です。しかし批判の仕方がフェアじゃありません。
 
藤岡「それで、えー、それ、じゃーですね、あの、ま、わが自由社はどうかって、下見ていただきますとお」
 
「わが自由社は」と言って、つくる会と自由社が一体であることを認めています。まあ、そもそも「つくる会」と自由社は同じビルの2階をパーティションで仕切って同居しています(→1月30日付エントリー)。
 

藤岡「教育出版のあそこは、どうしても、あの、ワープロの文字が出ないので、えー、手書きに、失礼しました。『かんこう』と読みますがね」
 
姜は「かんこう」ではなく「きょうこう」です。朝鮮語読みは「カンハン」。難しい字じゃないから普通にパソコンで出ますよ。生姜の「姜」ですから。音読みは「かん」じゃなくて「きょう」です。
 
藤岡「これは、あの、秀吉の朝鮮侵略のときに、連れて…」
高森「朝鮮侵略というのは教育出版の記述ですね」
藤岡「教育出版の記述ですよ。あの、きょ、こういうふうに書いてるんですから。朝鮮侵略のときに連れて来られた学者と。こういうことになってるんですねえ」
高森「あの、朝鮮出兵で日本に来たというだけで、歴史教科書に名前をとどめちゃったわけですね

藤岡「とどめちゃったわけですねえ」
 
自由社版には、朝鮮出兵のときに「捕虜にしてつれかえり、自分の領国の発展に利用した」として、李参平のコラムが大きく載っていますけど、どう違うんでしょうか?(→連載の1回目
 
高森「しかもこれ、かなり特殊な人物ですから、一般の歴史事典とか人名事典にもなかなか出てこないような人物じゃないかと…」
藤岡「そうなんですよ。2000ページ以上のね、えー、日本史コウジエンっていうのにも出てこないような」
高森「はいはい、山川の日本史広辞典ていうと」
藤岡「山川のね。有名な」
高森「これ、一冊の歴史事典だと、恐らく一番詳しい事典だと思うんですよ」
藤岡「それに出てこない」
高森「それが中学校の教科書に」
藤岡「それが中学校の教科書に出てくる」
高森「いや、ひどい話ですね」
藤岡「も、ちょっと、常軌を逸してますね、ええ」

(中略) 
高森「要するに、学界でさえも大きく取り上げられていない、ましてや一般の社会ではですね、ほとんど知られていない人間が」
藤岡「専門的な辞書にも出てこない」
高森「それを教科書では特筆大書されて」
藤岡「そうですね、ええ」
高森「1ページぐらい解説があったり。ちょっと異常ですね」

 
姜が山川出版社の日本史広辞典に載っていない? いえ載っています(p610~611)。

第1刷からずっと載っています。「かんこう」で引くから見つからないんです(笑)。載っていないというのは全くの虚偽です。
 
中学の歴史教科書に姜を載せる必要はないというのは同意します。私たち一般市民が「教育出版は反日・自虐教科書だ。採択してはいけない」と言うのは自由です。しかし藤岡信勝会長(および高森明勅理事)、あなた方は自由社版の執筆者です。公正取引委員会による「教科書業における特定の不公正な取引方法」(教科書特殊定指定)は規制緩和によって平成18年に廃止されましたが、発行者が編著者に他社または他の教科書を中傷・誹謗させる行為は、引き続き公正取引委員会告示「不公正な取引方法」の第15項(競争者に対する取引妨害)に該当し、独禁法第19条に違反するとされています。文科省も同様の内容の指導を行っています。
 
 文部科学省「特殊指定廃止後の対応について」←クリック
 文部科学省「教科書採択の公正確保」←クリック
 
有名な事典にも載ってないという虚偽に基づいて「ひどい話ですね」「常軌を逸してますね」などと他社教科書を非難するのは、客観的な事実に基づく比較ではなく、独禁法や文科省指導が禁ずる編著者による他社教科書に対する中傷・誹謗ではないでしょうか。
 
藤岡信勝会長は同じように「WiLL」8月号で、柳寛順について「広辞苑にも出てこない人物」と言っています(p259)。こちらは岩波書店の国語辞典ですね。「○○にも載っていない用語や人物が出ている」という批判の仕方は、一般人が言っている分にはいいのですが、執筆者が言うと自分にはね返ってきます。例えば自由社版にある楠本イネ(p174)や向井千秋(p179)は広辞苑に載っていません。
 
藤岡信勝会長の歴史用語の基準は日本史広辞典(山川出版社)と広辞苑(岩波書店)らしいので指摘させていただきますが、その2つの書物は李参平について次のように説明しています。
 
 日本史広辞典(山川出版社)「佐賀藩の家臣に従って来日し」
 広辞苑(岩波書店)「文禄・慶長の役の際、朝鮮から渡来」
 
自由社版が書くように「捕虜にしてつれかえり」つまり強制連行だとは書いていません。岩波書店より自虐的なのが自由社版教科書なのですね。
 
藤岡信勝会長はチャンネル桜でもWiLLでも「中学教科書に登場する一般的とは考えにくい人物」が全社合計で25人いると言っていて、WiLLで「開いた口がふさがりませんよ」と非難しています(p259)が、そのうち自由社版には、アテルイ(p54)、李舜臣(p97)、李参平(p97)、シャクシャイン(p107)、安重根(p172)の5人が載っています。9種類の教科書から25人抽出して5人載っているのですから、かなりの数です(扶桑社は李参平、安重根以外の3人です)。

このフリップ、自由社版に安重根が載っていることを隠しています。
 
嘘で固めた自画自賛と他社批判には「開いた口がふさがりませんよ」。藤岡信勝会長。焦っているのは分かりますが、他社批判は自分でやらずに、当事者じゃない人に原稿を渡してやらせなきゃ駄目です。でも、もう手遅れです。
 
(つづく)

連載一覧
★安重根を取り上げ志士と称える自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<上>
★自由社版教科書で菅原道真も乃木希典も消えた-扶桑社版からの改悪<中>
★特攻隊を「自殺攻撃」と貶める自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<下>
★進化論から始まり部落史を詳述する自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<4>
★自由社版 そんなに支那が 好きですか-扶桑社版からの改悪<5>
★スクープ!『日本人の歴史教科書』表紙はタイのガラクタ-扶桑社版からの改悪<6>
★「ポツダム宣言様ありがとう」の自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<7>
★悪党のくせに(笑)悪党を書かない自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<8>
★藤岡信勝会長、独禁法に違反してませんか?-扶桑社版からの改悪<9>
★乃木大将削除を開き直る「つくる会」理事-扶桑社版からの改悪<10>
★秀吉の朝鮮出兵を「侵略」と書く自由社版-扶桑社版からの改悪<11>
★自由社版「ラスコーの壁画」はニセ写真だ-扶桑社版からの改悪<12>
★みんなニコニコ古墳を造ったと描く自由社版-扶桑社版からの改悪<13>
★錦の御旗で威圧したと書く自由社版-扶桑社版からの改悪<14>
★ナチスのユダヤ人迫害を消した自由社版-扶桑社版からの改悪<15>
★編集趣意書から「太平洋戦争」史観の自由社版-扶桑社版からの改悪<16>
★石原慎太郎を載せても都教委は採択しないぞ自由社版-扶桑社版からの改悪<17>

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★悪党のくせに(笑)悪党を書かない自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<8>

扶桑社から絶縁された「新しい歴史教科書をつくる会」が自由社という出版社から出した教科書が、扶桑社版を大部分コピーしつつ、コピーしなかった部分で自虐的に改悪している―という連載は、情報提供メールが止まらず(きのうも3通頂きました)、まだ終わりません。ありがとうございます。
 
きょうは「悪党」の話です。
 
愛国心は悪党の最後の逃げ場所である。サミュエル・ジョンソン
 
しかし、きょう取り上げる悪党は、愛国心を掲げながら逆のことをしている輩のことではありません。中世に荘園領主や幕府に対抗した武士たちのことです。中学校で習いましたね。
 
最近は楠木正成を悪党だと強調する教科書が出てきています。歴史用語の悪党とは悪人という意味ではないのですが、大楠公を悪党とは恣意的なものを感じます。そこで、9種類の中学校歴史教科書の悪党に関する記述を比較してみました。
 
<自由社>(なし)
<扶桑社>鎌倉後期、荘園をおそって領主や貴族に反抗するものは悪党とよばれた。その中には領地を失った御家人もいた。
<東京書籍>荘園領主の使者を追い出し、年貢をうばう悪党とよばれる武士も登場してきました。
<旧大阪書籍>実権をにぎる北条氏への不満もつのり、幕府の政治や荘園の支配に反抗する者(悪党)も現れて、鎌倉幕府はおとろえをみせはじめました。
<帝国書院>元寇を境に鎌倉幕府の政治が行きづまるなかで、近畿地方を中心に、幕府に従わない武士たちが登場してきました。かれらは集団で荘園や寺社におしいったり、年貢をうばったりしたため、幕府や荘園領主からは「悪党」とよばれました。また、かれらは商品の流通に目をつけ、港湾や関所などで収入を得ようとしました。このような悪党の動きや幕府に対する御家人たちの不満をみて、かねてから政治の実権をとりもどそうと考えていた後醍醐天皇は、執権の北条氏に反発する地方の武士や悪党を味方につけ、幕府をたおす戦いにたち上がりました。1333年、楠木正成らの悪党勢力や、足利尊氏・新田義貞ら東国の御家人の活躍などにより、鎌倉幕府はほろびました。【側注】悪党は、荘園に侵入したり、寺社の宝物をうばったりして、社会の秩序をくつがえそうとしていました。悪党とよばれましたが、現在の悪党とは意味がちがいます。
<教育出版>荘園におし入ったり、年貢をうばったりする武士や商人などの集団(悪党)が各地で出没しましたが、幕府はその取りしまりをうまくはたせず、しだいに幕府の力はおとろえていきました。
<清水書院>しかし、河内(大阪府)の楠木正成をはじめ、各地の武士や悪党とよばれた人びとが、天皇に味方して立ち上がった。
<日本文教出版>近畿地方などでは、悪党とよばれる新興の武士が力をのばし、年貢をうばいとったりしたが、幕府はとりしまることができなかった。
<日本書籍新社>近畿地方などには、年貢をうばったり、荘園領主に武力で反抗したりする者たちがあらわれた。かれらは悪党とよばれ、幕府の支配に不満をもつ武士も多く加わるようになり、幕府や荘園領主をなやませた。朝廷に政治の実権を取りもどそうと考えていた後醍醐天皇は、幕府のおとろえを見て幕府をたおす計画を立てた。楠木正成ら、近畿やその周辺の武士や悪党が味方につき、1333年には、足利尊氏や新田義貞などの関東の有力な御家人も加わり、幕府をほろぼした。

 
楠木正成を悪党と書いているのは帝国書院で、微妙なのは清水書院と日本書籍新社…。そんなことより、自由社だけは重要な歴史用語である悪党を記述していません。
 
自由社版はほかにも、扶桑社版の室町文化の単元にある「足利学校」に関する記述を削ってしまいました。栃木県の教育関係者の皆さん! 世界遺産登録を目指す足利学校を記述しているのは扶桑社、東京書籍、日本文教出版の3種類です。
 
連載の4回目で紹介した通り、自由社版は室町文化の単元でについてどの教科書よりも詳しく書いているのですが、足利学校を落としてしまったのです。ここは松本謙一さんという人の執筆個所です。
 
「和同開珎」「末法思想」「武家諸法度」「川柳」といった重要な用語も、自由社版では索引から漏れているため、引くことができません。
 
ところで、悪党を書いていない自由社版の教科書で学ぶ中学生は、高校受験は大丈夫なのでしょうか?
 
平成20年度開成中学入試問題(昨年2月1日実施)

これは有名中学校の入試問題ですから、中学校に入った人はもう関係ないですよ。大丈夫ですよ。
 
平成21年度新潟県公立高校入試問題(今年3月9日実施)

 
やっぱり大丈夫じゃないようです。
執筆者の皆さんは子供たちにとって、とんだ悪党になってしまいました。
 
(つづく)

連載一覧
★安重根を取り上げ志士と称える自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<上>
★自由社版教科書で菅原道真も乃木希典も消えた-扶桑社版からの改悪<中>
★特攻隊を「自殺攻撃」と貶める自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<下>
★進化論から始まり部落史を詳述する自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<4>
★自由社版 そんなに支那が 好きですか-扶桑社版からの改悪<5>
★スクープ!『日本人の歴史教科書』表紙はタイのガラクタ-扶桑社版からの改悪<6>
★「ポツダム宣言様ありがとう」の自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<7>
★悪党のくせに(笑)悪党を書かない自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<8>
★藤岡信勝会長、独禁法に違反してませんか?-扶桑社版からの改悪<9>
★乃木大将削除を開き直る「つくる会」理事-扶桑社版からの改悪<10>
★秀吉の朝鮮出兵を「侵略」と書く自由社版-扶桑社版からの改悪<11>
★自由社版「ラスコーの壁画」はニセ写真だ-扶桑社版からの改悪<12>
★みんなニコニコ古墳を造ったと描く自由社版-扶桑社版からの改悪<13>
★錦の御旗で威圧したと書く自由社版-扶桑社版からの改悪<14>
★ナチスのユダヤ人迫害を消した自由社版-扶桑社版からの改悪<15>
★編集趣意書から「太平洋戦争」史観の自由社版-扶桑社版からの改悪<16>
★石原慎太郎を載せても都教委は採択しないぞ自由社版-扶桑社版からの改悪<17>
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