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★二宮尊徳の事績を間違っている自由社版教科書-記述検証〈15〉

当ブログを運営する調査チーム「プロジェクトJ」はメンバー第1号が神奈川県在住のため、神奈川の教科書採択の状況にはひときわ関心を持っています。自由社による東京書籍の年表盗用問題は神奈川の教育関係者の間でもかなり話題になっています。
 
横浜市の18区中8区の市立中学校では昨年度と今年度、自由社の歴史教科書を使用していますが、7日付の朝日新聞神奈川版はそのことに全く触れない記事を掲載しました。自由社は朝日新聞にも無視されているのでしょうか。
 
記事は、歴史教科書の本文は各社大差ないが、フジサンケイグループ育鵬社は独自色を出しているとして、次のように書いています。
一方、育鵬社は「日本をもっと好きになる教科書を」「教育から日本を良くする」という明確な目的を掲げる。執筆者はこの方針に賛同する14人。伊藤隆・東大名誉教授を中心に、八木秀次・高崎経済大教授、渡部昇一・上智大名誉教授らが名を連ねる。
親会社の扶桑社は「新しい歴史教科書をつくる会」と共に教科書を出し、00年度と04年度の検定で合格したが、採択率は低迷した。そこで今回は「つくる会」と決別。他社版を研究し、編集部主導で一般書籍の編集手法を持ち込み、分かりやすさを狙ったという。
漫画調のイラストを満載し、章ごとに出来事を要約した絵巻や穴埋め形式のまとめを配置。人物紹介のコラムも多く、勉強が苦手な子の興味を引くあの手この手を凝らしている。
一方で全225ページのうち112ページを割いた近現代で「大東亜会議」に言及。「東京裁判」「昭和天皇」を大きくコラムで扱うなど、他社にない切り口が際だつ。
「扶桑社時代の旧版は『子どもに何を学んでほしいか』の主張が前面に出すぎ、どう学ぶかの工夫が少なかった。教材としての完成度を上げ、採択率を上げたい」と育鵬社の真部栄一教科書事業部長は話す。

さて、神奈川県教委が市町村の教科書採択の参考のために作った調査研究資料を以前紹介しました(★チャンドラ・ボースの名前を削除した自由社版教科書-記述検証〈11〉)。

 
神奈川県ゆかりの二宮尊徳翁が載っているのは育鵬社と自由社版だけです。しかし自由社版は二宮尊徳の事績の重要な部分を間違っています(p131)。
 

書き出しから間違っています。「二宮金次郎(のちの尊徳)は、1787(天明7)年、今の神奈川県小田原市近くの農家に生まれました」とありますが、尊徳が生まれたのは今の小田原市栢山(かやま)で、小田原市内です。「小田原市近く」ではありません。
 
尊徳の生家は小田原市栢山の誕生の地に復元され、→
隣には小田原市尊徳記念館があります。自由社は小田原市民を馬鹿にしているのでしょうか。
 
それから、「8キロ」とすべきところが「8キ口」(片仮名のロではなく漢字の口=くち)になっています。普通はあり得ない誤植です。この教科書は、自由が「白由」、自己が「白己」になっていると、以前お伝えしました(★東北の太平洋岸を水没させた「白由社」版教科書-記述検証〈8〉)。なぜこのようなことが起きたかというと、今回の版を作る際、現行版(平成22年度版)の電子データが使えず、ページをスキャナーで読み取ったため、こんなふざけた誤植になってしまったのです(普通はOCRの変換ミスを人間が直すのですが…。なぜ電子データが使えなかったかについてはいつかお伝えします)。
 
次にこれです。
 
 
えー? 「稲刈りで残った稲穂を拾って」??? 田植えで捨てられた苗を植えたんじゃなかったっけ?
 
富田高慶述『報徳記』より
某年出水の爲に用水堀流出し堀筋變化し古堀不用の地となるものあり。休日に之を開墾し邑民の棄苗を拾ひ集て植付けしに幸にして壹苞餘の實のりを得たり。

自由社版のように「稲刈りで残った稲穂を拾って」と珍説を展開している書物は一つも見つけることはできませんでした。
 
尊徳の生家近くには「捨苗栽培地跡」が残っています。小田原市教育委員会が建てた碑にはこう書かれてあります。

洪水の翌年、捨てられている植え残りの苗(捨苗)を植えつけるため、金次郎が耕したもので、秋にはここから籾1俵余の収穫を得ることができたという。

小田原市教委が作った冊子『二宮金次郎物語』にもこうあります。
この年17さいの夏の初め、道ばたに捨ててあった稲の苗をもったいないと思い、荒れた沼地に植えておいたところ、秋には1俵(60キロ)もの米がとれました。

 
自由社版歴史教科書は小田原市教委の公式見解と違うことを書いているのです。
 
育鵬社は「捨てられていた苗を荒れ地に植え」ときちんと書いています。二宮尊徳の事績を正しく記述しているのは育鵬社だけです。
 
実は自由社版の「稲刈りで残った稲穂を拾って」の記述は2年前に検定に合格した現行版にもあります。横浜市の8区の市立中の生徒は、神奈川の偉人について間違ったことを学んでいるのです。
 
この自由社版の記述は二宮尊徳ゆかりの神奈川県や栃木県はもちろん、全国の教育関係者が受け入れないでしょう。
  
(つづく)
 
※これまでの連載
 ★南京事件への疑問を削除した自由社版教科書-記述検証〈1〉
 ★秀吉の朝鮮出兵を「侵略」に戻した自由社版教科書-記述検証〈2〉
 ★梶山静六を梶山清六と書く自由社版教科書-記述検証〈3〉
 ★内村鑑三も新渡戸稲造も載っていない自由社版教科書-記述検証〈4〉
 ★魏志倭人伝への疑問を削除し、ありがたがる自由社版教科書-記述検証〈5〉
 ★東京書籍の年表を盗用した自由社版教科書-記述検証〈6〉
 ★靖国神社も水戸学も載っていない自由社版教科書-記述検証〈7〉
 ★東北の太平洋岸を水没させた「白由社」版教科書-記述検証〈8〉
 ★陸奥宗光を睦奥宗光!ここが違う自由社版教科書-記述検証〈9〉
 ★国旗・国歌法がただ1社載っていない自由社版教科書-記述検証〈10〉
 ★チャンドラ・ボースの名前を削除した自由社版教科書-記述検証〈11〉
 ★脳死臓器移植への疑問を書かない自由社版教科書-記述検証〈12〉
 ★そもそも扶桑社を盗用している自由社版教科書-記述検証〈13〉
 ★年表盗用市販本をHPから削除した自由社版教科書-記述検証〈14〉
     
育鵬社や自由社版の記述について情報を募集しています。
 project-justice@mail.goo.ne.jp
 
※自由社の現行版(平成22年度版)の記述については、こちらから順次ご覧ください。
 ★安重根を取り上げ志士と称える自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<上>
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