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★特攻隊を「自殺攻撃」と貶める自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<下>

前々回前回にたくさんの反響ありがとうございます。扶桑社から絶縁された「新しい歴史教科書をつくる会」が自由社という出版社から出したコピー教科書の、コピーじゃない部分を検証する連載の最終回です。今回は満州事変以降を取り上げます。
 

<自由社版>「満州、漢、朝鮮、日本、モンゴルの5つの民族が共存共栄する土地である」という意味。しかし、日本人は、そのリーダーが日本であるのは当然だと勝手に決めていた。日本との関係ばかりでなく各民族間の利害も対立することが多く、現実は理想にほど遠かった。(p197)
<扶桑社版>(なし)

 
満州事変のところの「五族協和」の側注です。1回目で紹介した三・一独立運動の記述に続いて、自虐ぶりに驚かされます。五族協和なんて理想にすぎなかったとわざわざ書いているのです。ここの執筆者に黄文雄さんの『満洲国は日本の植民地ではなかった』(ワック出版)を読むようお薦めします。あれ、黄文雄さんって、この自由社版教科書の市販本に寄稿してるじゃないですか。そこには満州国は「王道楽土」だったと書いてますよ。こっちを中学生に教えるべきじゃないでしょうか。
 

<自由社版>(鈴木貫太郎は)のちに首相となって太平洋戦争を終戦に導いた。(p198)
<扶桑社版>(なし)
 
<自由社版>太平洋戦争は最初どのように戦われたか?(p205)
<扶桑社版>(なし)
 
<自由社版>太平洋戦争(年表6)
<扶桑社版>大東亜(太平洋)戦争(年表5)

 
昭和16年12月12日の閣議決定通りの「大東亜戦争」または「大東亜戦争(太平洋戦争)」と表記しているのが扶桑社版の特徴ですが、自由社版では新たに書き加えた部分で「太平洋戦争」のみの表記とし、歴史年表も「太平洋戦争」に変えてしまいました。活字が小さく目立ちませんが、根本的な歴史認識にかかわる改悪です。
 

<自由社版>日本軍も、戦争中に侵攻した地域で、捕虜となった敵国の兵士や非武装の民間人に対しての不当な殺害や虐待をおこなって多大な惨禍をのこしている。(p214)
<扶桑社版>日本軍も、戦争中に侵攻した地域で、捕虜となった敵国の兵士や非武装の民間人に対して、不当な殺害や虐待を行った。(p214)

 
ここは4月15日のエントリーでも書きましたが、検定の結果、扶桑社版になかった「多大な惨禍をのこしている」を自由社が加えました。「多大な惨禍」とは普通、広島・長崎への原爆投下など何万人も犠牲者が出た出来事に使う言葉です。「捕虜となった敵国の兵士や非武装の民間人に対しての不当な殺害や虐待」で「多大な惨禍」はあり得るのでしょうか…。賢明な読者の皆さんはお分かりと思います。この記述からは「南京大虐殺」という言葉が透けて見える仕組みになっているのです。「のこしている」と現在進行形になっているのも「謝罪と補償」を求める口実になってしまいます。
 

<自由社版>4月、アメリカ軍は沖縄本島に上陸し、ついに陸上の戦いも日本の国土に及んだ。(p209)
<扶桑社版>4月、米軍は沖縄本島に上陸し、(p209)

 
「ついに陸上の戦いも日本の国土に及んだ」を加えたために基本的な史実を間違っています。大東亜戦争で日本の国土で最初に地上戦が行われたのは、言うまでもなく昭和20年2月16日に始まった硫黄島の戦いです。硫黄島は日本です。なぜ検定を通ったのでしょう。天皇皇后両陛下は平成6年、慰霊のため硫黄島を行幸啓遊ばされました。東京都も毎年、現地で戦没者追悼式を行っています。硫黄島を無視するようでは、東京都立の学校では採択されないのではないでしょうか。
 
島ついでに、千島列島最北端の占守(しゅむしゅ)島に関するミスを指摘します。大東亜戦争が終わった後の昭和20年8月18日にソ連軍が占守島に侵攻した「占守島の戦い」がありました。占守島を守っていた第5方面軍の司令官は、自由社版にも登場する樋口季一郎中将です。その占守島がp150の「樺太・千島交換条約」の地図に出てきます。

この地図で占守島と書いてあるところは幌筵(ぱらむしる)島です。扶桑社版はきちんと表示しています。「全千島返還」を訴える日本共産党に所属していた人が代表執筆者を務める教科書がこれでは困ります。
 

<自由社版>アメリカの軍艦に体当たりする特別攻撃機 1944年10月以降、追いつめられた日本軍は世界に例がなかった作戦を実行するようになった。爆弾を積んだ飛行機を乗員ごと敵の艦船に突入させる自殺攻撃で、「特別攻撃隊」(特攻)と名づけた。(p209)
<扶桑社版>出撃する特攻隊 戦場でも追いつめられた日本は、飛行機や潜航艇で敵艦に死を覚悟して体当たり攻撃を行う特別攻撃隊(特攻)をつくった。(p209)

 
なんと特攻隊を「自殺攻撃」と表現しています。「自殺攻撃」というのは英語の「suicide attack」の訳語であって、米軍が特攻隊のことを名付けた言葉です。アメリカ人は9・11のときも特攻隊にたとえましたし、イスラム過激派の自爆テロに対しても同じようなことを言っています。つまり「自殺攻撃」とはテロのことなのです。
 
自由社版教科書は、特攻隊員にこのような冷たい言葉を浴びせておいて、何が「日本人の誇り」なのでしょうか。
 
※「上・中・下」の予定でお送りしましたが、情報が相次いでいますので4回目以降を続行します。
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