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★安重根を取り上げ志士と称える自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<上>

扶桑社から絶縁された「新しい歴史教科書をつくる会」が扶桑社の了解なしに自由社という出版社から出した中学校歴史教科書『新編 新しい歴史教科書』が市販されました。扶桑社版との比較検討会を行ったところ、重大な改悪が行われていることが判明しましたので中間報告を緊急連載します。
 
まず自由社版の第一印象ですが、扶桑社版より活字が小さくなり読みづらくなっています。コラムなどでカラー刷りに埋没している字はますます読めません。ルビに至っては判読不能です。
 
そして内容ですが、巻頭の特集などを変えているため扶桑社版と若干印象は違いますが、ざっと見て8割以上が扶桑社版からのコピーです。しかし扶桑社版の記述をあえて変更した部分で歴史観にかかわる改悪が行われています。コピー教科書なのにわざわざ変更している部分ですから、意図を持った記述変更です。
 

<自由社版>韓国服の伊藤博文 伊藤は首相を引退後、1906年に日韓協約による初代韓国統監として赴任した。1909年満州視察の途中、ハルビン駅で韓国独立の志士、安重根に射殺された。(p172)
<扶桑社版>韓国服の伊藤博文 伊藤博文は1906年に初代韓国統監として赴任したが、1909年ハルビンで暗殺された。(p170)

 
「扶桑社版には安重根の名前が載っていない」と左翼から批判されていましたが、なんと自由社は素直に受け入れたのです。しかも「韓国独立の志士」と説明しています。ご丁寧に「アンジュングン」と朝鮮読みのルビが振ってあります。そして、名前を載せなかった扶桑社版が「暗殺」としていたのを、わざわざ「射殺」に変えています。
 
安重根が「志士」…朝鮮人から見ればそうでしょう。でも、伊藤博文は「維新の志士」でしょ? 坂本龍馬や高杉晋作を「志士」と書かずに、安重根だけが「志士」ですか。ほう、そうですか。
 
「暗殺」か「射殺」かについては、櫻井よしこさんのブログが自虐教科書を批判した文章を引用しておきます。「まず伊藤博文が『射殺』されたという記述のおかしさに気付く。政治的立場やイデオロギーの違いによる殺害行為は『暗殺』である。射殺と書けば、犯罪者やヤクザ同士の抗争と同じような意味合いになる。伊藤博文の死の位置づけとしては、政治的意味合いをこめて暗殺と書くべきではないか」
 
前回のエントリーで、自由社の役員が安重根を持ち上げていることに触れましたが、その思想は教科書記述にしっかり反映されていたわけです。これで、今夏の採択の対象となる中学校歴史教科書9冊のうち、安重根の名前が載っていないのは東京書籍と扶桑社だけになりました。東京書籍さえ載せていない安重根を、自由社は載せているのです。
 

<自由社版>朝鮮に出兵した大名たちは優れた技術者や学者などを捕虜にしてつれかえり、自分の領国の発展に利用した。その中には陶器をつくる陶工もいく人もいて、彼らによっての朝鮮の陶器技術が指導され、その地の特産物となった。鍋島家(佐賀)がつれかえった李参平もその一人だが、(p97)
<扶桑社版>(なし)

 
時代はさかのぼって、豊臣秀吉の朝鮮出兵のところに「陶祖 李参平」というコラムが登場しました。この場所は扶桑社版では「秀吉とフェリペ2世」のコラムになっています。扶桑社版も側注の有田焼の写真説明で陶工について触れていますが李参平の名前はありません。
 
藤岡信勝会長が親しい長谷川潤さんは「正論」平成9年9月号で、大阪書籍の教科書が李参平を取り上げていることについて次のように書いていました。「『李参平』なる聞きなれない人物名を採り上げ(『東書』も同様)、『陶祖李参平』なる写真を掲載している。そして、『秀吉の朝鮮侵略のさい、多くの朝鮮人陶工が日本に連行され、李参平もその一人でした』と、大東亜戦争中のいわゆる『朝鮮人強制連行』を連想させる意図的表記を行っている。この記述は、歴史を四百年溯及し、侵略者たる日本を断罪しつつも、文化的優越国たる朝鮮が、わが国に多大な恩恵を与え給うたかを生徒に印象づける効果を狙っている」。愛国的教育者、長谷川潤先生は自由社版を見て嘆いていることでしょう。
 
李参平の名前が聞きなれないというのは言い過ぎですが、既存の自虐教科書が、李参平を取り上げることによって「日本は昔から朝鮮人を強制連行していたんだ」と子供たちに刷り込む意図を持っていることは確かです。
 
そもそも李参平は自由社版(李参平の名前を出さない扶桑社版も似たようなものですが)が書くように「捕虜にしてつれかえり」つまり強制連行なのでしょうか? 呉善花さんは『新・地球日本史1』(西尾幹二責任編集)でこう書いています。「韓国では、略奪と『強制連行』という視点からしか朝鮮陶工の渡日を見ようとはしない。地元有田の伝承では、李参平は文禄・慶長の役で鍋島勢の道案内を務め、終戦にともない配下の陶工を引き連れて、直茂に従い日本へやって来たという」。西尾幹二さんって、自由社版の執筆者ですよね。
 
李参平たちは、朝鮮出兵の終結に伴い鍋島直茂から一緒に日本に来ないかと言われて自発的にやって来た。あるいは「道案内をして敵軍に協力した以上、朝鮮に残るわけにはいかないから一緒に日本行きたい」と懇願して来日したというのが史実なのではないですか? 違いますか? 『新・地球日本史』責任編集者の西尾幹二先生。フェリペ2世のことは西尾先生が『国民の歴史』以来こだわってきたことではないですか? 藤岡信勝先生はそこを李参平のコラムに差し替えてしまったのですよ、西尾幹二先生。
 
安重根が志士であるとか、李参平が強制連行されたというのは、明らかに朝鮮の歴史観です!
 

<自由社版>平壌(現在のピョンヤン)付近を中心とした地域。(p32)
<扶桑社版>現在の平壌(ピョンヤン)付近を中心とした地域。(p32)

 
古代朝鮮の楽浪郡の側注です。平壌がピョンヤンになったんじゃなくて、平壌の朝鮮語読みがピョンヤンです。扶桑社版の正しい表記をわざわざ変えたのはなぜでしょうか? 漢字を使わない国に配慮しているのでしょうか? それならいっそのことハングル(チョソングルチャ)で평양と書いたらどうでしょうか。
 

<自由社版>最初は非暴力の集会として計画されたが次第に大規模になったため軍隊までが出動したことでかえって衝突がはじまり、民衆に多くの死傷者が出た。日本国内でも吉野作造、宮崎滔天など、「朝鮮民衆の当然の声」として、この運動に理解を示す知識人があった。(p185)
<扶桑社版>(なし)

 
三・一独立運動の側注です。目を疑いました。朝鮮総督府が武力弾圧したから被害が大きくなったという因果関係を書いている教科書は自虐教科書7冊にも見当たりません。三・一独立運動に理解を示す日本人がいたと書いているのは旧大阪書籍(日本文教出版が継承)だけです。宮崎滔天は辛亥革命を支援した立派な人物かもしれませんが、中学生に何の説明もなくここで名前を出してどうするのでしょう。吉野作造も次のページを見ないと学者だと分かりません。教材の構成としておかしいのですが、そもそも、いったいなぜ三・一独立運動にわざわざこんな説明を加える必要があるのでしょうか。
 
前回までに書いたように「つくる会」一部首脳と自由社は朝鮮半島とコネクションがあるようです。そして当然の帰結として、教科書記述でも朝鮮(韓国、北朝鮮)に配慮しているのでしょうか。
 
自由社版は安重根や李参平のような朝鮮人の名前を登場させる一方で、扶桑社版に出ていた日本の大事な歴史上の人物を何人も削除しています。次回はそれを報告します。
 
(つづく)
 
連載一覧
★安重根を取り上げ志士と称える自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<上>
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★特攻隊を「自殺攻撃」と貶める自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<下>
★進化論から始まり部落史を詳述する自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<4>
★自由社版 そんなに支那が 好きですか-扶桑社版からの改悪<5>
★スクープ!『日本人の歴史教科書』表紙はタイのガラクタ-扶桑社版からの改悪<6>
★「ポツダム宣言様ありがとう」の自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<7>
★悪党のくせに(笑)悪党を書かない自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<8>
★藤岡信勝会長、独禁法に違反してませんか?-扶桑社版からの改悪<9>
★乃木大将削除を開き直る「つくる会」理事-扶桑社版からの改悪<10>
★秀吉の朝鮮出兵を「侵略」と書く自由社版-扶桑社版からの改悪<11>
★自由社版「ラスコーの壁画」はニセ写真だ-扶桑社版からの改悪<12>
★みんなニコニコ古墳を造ったと描く自由社版-扶桑社版からの改悪<13>
★錦の御旗で威圧したと書く自由社版-扶桑社版からの改悪<14>
★ナチスのユダヤ人迫害を消した自由社版-扶桑社版からの改悪<15>
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