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★自由社版教科書で菅原道真も乃木希典も消えた-扶桑社版からの改悪<中>

扶桑社から絶縁された「新しい歴史教科書をつくる会」が自由社という出版社から出したコピー教科書の、コピーじゃない部分を検証する連載の2回目です。前回、自由社版が扶桑社版になかった安重根や李参平のような朝鮮人の名前を登場させていると紹介しましたが、一方で、扶桑社版に出ていた日本の大事な歴史上の人物を何人も削除しています。
 
扶桑社版が2度目の検定に合格した平成17年、読売新聞は5月26日付社説でこう書いて扶桑社を援護射撃しました。「現行の8社の中学歴史教科書のうち、扶桑社以外の7社の教科書には菅原道真、二宮尊徳、東郷平八郎といった人物についての記述がない」。扶桑社版だけに菅原道真の名前があることは初版本以来の「つくる会」のセールスポイントでした。
 
ところが…。

<自由社版>894(寛平6)年に遣唐使が廃止された。(p56)
<扶桑社版>9世紀に入ると唐がおとろえたため、894(寛平6)年、菅原道真の意見を取り入れ、朝廷は遣唐使を廃止した。(p56)

 
自由社版はあっさり菅原道真の名前を削ってしまいました。“支那から学ぶものなどもうありません”という進言が日本独自の文化を発展させたんじゃなかったのでしょうか。
 
それから、同じく扶桑社版にある阿倍仲麻呂(p48)、岡倉天心(p175)も自由社版では消されています。岡倉天心の名前が出てこないのは中学歴史教科書9冊中、自由社だけです。繰り返します。自由社版には、あの岡倉天心が載っていません。
 
岡倉天心が載るべき自由社版の「明治の文化の花開く」の単元(p175)には「大和田建樹が作詞した『鉄道唱歌』は」云々の記述があります。岡倉天心が載っていないのに、なぜ大和田建樹なのか…。文科省が公表した「著作編修関係者名簿」によると、自由社版の文化史の部分を執筆したのは松本謙一という人だそうです。どういう人か調べてみると、自由社の教科書編集室長だったそうです。学者でも教員でもなく、鉄道オタク雑誌の編集を長年やっていました。それで「鉄道唱歌」なのです。どうしても大和田建樹を載せるなら、「天に代りて不義を討つ…」の「日本陸軍」や「吉野を出でてうち向ふ…」の「四条畷」の作詞者だと書いてほしいです。「神社右翼」の私たちとしては。でもその前に岡倉天心だと思います。
 

<自由社版>森鴎外、島崎藤村らの文筆家はつぎつぎに作品を発表した。(p175)
<扶桑社版>また森鷗外は、ヨーロッパ文学を紹介し、(p174)

 
同じく松本謙一氏執筆の「明治の文化の花開く」の単元です。森鷗外をあえて「森鴎外」と表記しています。写真説明と「明治時代の文学者と代表作品」の表、歴史年表、さくいんも「森鴎外」になっています。かつてはJIS漢字に「鴎」しかなかったため、パソコンで打つと「森鴎外」になってしまうと、論議になっていましたが、活字媒体でわざわざ「森鴎外」にしているということは、何か特別な意味があるのでしょう。扶桑社も含めて中学校の歴史教科書で森鷗外を「森鴎外」と表記しているのは自由社だけです。おそらく、小学校や高校、国語なども含めても自由社だけでしょう。子供たちに「森鴎外」で覚えろというわけです。自由社が日本語をどう考えているかがよく分かります。
  
前回、自由社版の活字が小さくて読みづらいと書きましたが、「つくる会」の会報「史」5月号に松本謙一氏がその理由を書いていました。活字を小さくしても行間を開けたほうが乱視の子供も読みやすいと言っています。どう見ても読みづらいですが…。文化史担当ということは、阿倍仲麻呂が載るべき飛鳥・白鳳・天平文化のページ(p48)も菅原道真が載るべき国風文化のページ(p56)も松本謙一氏の執筆なのでしょうか。いずれにせよ、自由社版教科書が成功するか失敗するかのキーパーソンはこの松本謙一という人のようです。
 

<自由社版>女子英語塾(現在の津田塾大学)(p176)
<扶桑社版>女子英学塾(現在の津田塾大学)(p176)

 
津田梅子のコラムです。自由社教科書編集室長だった松本謙一さんにお尋ねしたいのですが、津田塾大学の前身が「女子英語塾」となっています。このページはここ以外そっくり扶桑社版をコピーしていますが、扶桑社版の「女子英学塾」をわざわざ「女子英語塾」に変更したのはなぜでしょうか? 津田塾大学のホームページでは「女子英学塾」になっていますが…。
 

<自由社版>世界の海戦史上、これほど完全な勝利を収めた例はなかった。(p171)
<扶桑社版>世界の海戦史上、これほど完全な勝利を収めた例はなかった。なお、同じく日露戦争で活躍した陸軍大将の乃木希典は、戦後、敗れたロシアの将軍の助命のためにさまざまな努力をいとわなかった。明治の日本にも、敗者の名誉を重んじる武士道は生きていたのである。(p169)

 
日本海海戦のコラムの最後にあった乃木大将に関する記述をすっぽり削除したため乃木大将の名前がなくなってしまいました。日本書籍新社の教科書にさえ載っている乃木大将を消すとは、さすが、乃木愚将論の司馬史観を持ち上げる藤岡信勝先生です。やってくれます。
 
自由社版の「昭和天皇のお言葉」というコラム(p227)はとてもいいと思います。でも「天皇制度の廃棄に賛成するかもしれない」という西尾幹二先生(昨年9月28日付エントリー参照)が執筆する教科書では読みたくありません。しかも参考文献には「半藤一利」「保阪正康」の名前があるではないですか。この2人に「秦郁彦」を加えた「3H」は西尾先生がいつも批判している歴史家ですよね。
 
(つづく)

連載一覧
★安重根を取り上げ志士と称える自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<上>
★自由社版教科書で菅原道真も乃木希典も消えた-扶桑社版からの改悪<中>
★特攻隊を「自殺攻撃」と貶める自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<下>
★進化論から始まり部落史を詳述する自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<4>
★自由社版 そんなに支那が 好きですか-扶桑社版からの改悪<5>
★スクープ!『日本人の歴史教科書』表紙はタイのガラクタ-扶桑社版からの改悪<6>
★「ポツダム宣言様ありがとう」の自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<7>
★悪党のくせに(笑)悪党を書かない自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<8>
★藤岡信勝会長、独禁法に違反してませんか?-扶桑社版からの改悪<9>
★乃木大将削除を開き直る「つくる会」理事-扶桑社版からの改悪<10>
★秀吉の朝鮮出兵を「侵略」と書く自由社版-扶桑社版からの改悪<11>
★自由社版「ラスコーの壁画」はニセ写真だ-扶桑社版からの改悪<12>
★みんなニコニコ古墳を造ったと描く自由社版-扶桑社版からの改悪<13>
★錦の御旗で威圧したと書く自由社版-扶桑社版からの改悪<14>
★ナチスのユダヤ人迫害を消した自由社版-扶桑社版からの改悪<15>
★編集趣意書から「太平洋戦争」史観の自由社版-扶桑社版からの改悪<16>
★石原慎太郎を載せても都教委は採択しないぞ自由社版-扶桑社版からの改悪<17>
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