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★みんなニコニコ古墳を造ったと描く自由社版-扶桑社版からの改悪<13>

扶桑社から絶縁された「新しい歴史教科書をつくる会」が自由社という出版社から出した教科書が、扶桑社版を大部分コピーしつつ、コピーしなかった部分で自虐的に改悪している―という連載をお届けしています。読者の皆様からの膨大な情報提供メールが整理しきれなくなってきたので、主なものをページ順に並べ替えて紹介しています。今回は古代国家の形成から鎌倉時代までです。
 
「自由社版は秀吉の朝鮮出兵を侵略と書いていない」と大嘘を流布して恥じない「つくる会」理事、小山常実(→連載11)は著書『歴史教科書が隠してきたもの』で「文化史の部分こそ、自由社と扶桑社との最大の違いである」としていますが、まさに自由社版の欠陥は文化史に集中しています。
 
<p28>「前方後円墳の分布」の地図の説明で「近畿地方に多く見られることがわかる」とあるが、地図を見ると関東にも九州にも多く、学習上不適切。
<p29>「古代の鏡2 狩猟文鏡」の写真。トリミングが不自然。上の鏡の写真のように全体を出せばいいのに。
<p30>「歴史へゴー! 古墳はどうやって造ったの?」のイラストで、古墳築造に従事している人たちがニコニコしている

下にある本文に「かつては、その工事は民衆を各地から強制的に集め、酷使したと考えられたが、近年の学説では、あれほどの規模の仕事を強制だけで進めたとの解釈には無理があるとし、『もともと近畿などには集団が一体となって行動する伝統があり、古墳づくり自体に“まつり”のような意味があったのでは』との見方も出ている。(読売新聞の記事から要約)」とある。
引用元の読売新聞の記事はこれ(昨年1月31日付夕刊)。

仁徳天皇陵を手をつないで取り囲もうというNPO法人の企画を取り上げたコラムで、学術記事ではない。確かに近年、認知考古学という分野でそのような学説もあるが、強制労働かどうかという問題と重労働であるということは別の話。力仕事のときは険しい顔をするものだ。このイラストは暗黒史観の裏返しでしかない。
<p32>
楽浪郡の側注。「平壌(現在のピョンヤン)付近を中心とした地域」とあるが、平壌がピョンヤンになったんじゃなくて、平壌の朝鮮語読みがピョンヤン。扶桑社版の「現在の平壌(ピョンヤン)付近を中心とした地域」が正しい。(→連載1
<p42>和銅開称の写真説明。「独自の銭銘(文字に彫った貨幣の名前)を持ったのは中国についで、東アジアで2番目だった」。文字通り不必要な注記である。それより、和銅開称がさくいんにないので引くことができない。
<p48>扶桑社版にある阿倍仲麻呂の名前が削られている。(→連載2
<p48~49>単元のタイトルが「飛鳥・白鳳・天平の文化」、小見出しが「白鳳・天平の文化」となっているが、白鳳文化の事例や写真が全く掲載されていない。これでは意味がない。「この時代の文化を白鳳文化とよぶ」の後、改行がないまま天平文化の説明に入っているので、紛らわしい。
<p49>「校倉づくりの構造」とあるが、p56、57は「神殿造」、p83は「書院造り」で、表記が不統一。
<同>「東大寺には法華堂の不空羂索観音像や日光・月光菩薩像、戒壇院の四天王像…など、いずれも美術的にきわめてすぐれた仏像が納められた」とあるが、これだと日光・月光菩薩像は法華堂に納められたように読める。しかし、この2体は法華堂の当初像ではなく、客仏(後からお堂に入れられた仏像)で、造像の経緯はよく分かっていない。戒壇院の四天王像も、おそらく日光・月光と一具の作品で、もともと戒壇院にあったわけではない(創建当初の戒壇院像は銅造)。扶桑社版は「残されている」と記述している。また、記述の順序としても、扶桑社版のように阿修羅像を先に記載するほうがふさわしい。作られた時代がほかの像より明らかに先。通常、教科書は古い順に作品を紹介するものではないか。
<p52>「法隆寺回廊の柱」の写真説明。伊東忠太の「法隆寺のエンタシスのギリシャ起源論」で説明されている。「日本はシルクロードの終着点」と強調したいのだろうが、今これを支持する建築史の研究者はまずいない。(→連載5
<同>序文の扉にもあるが、扶桑社版があえて載せなかった廣隆寺の弥勒菩薩半跏思惟像=朝鮮の仏像を掲載している。(→連載5
<p53>「阿修羅像」の写真説明。「天平ボーイ」はふざけすぎ。
<p55>「ここがポイント!」の「①権威としての摂関政治」は意味不明。全体的に「ここがポイント」がちっともポイントになってない。
<p56>単元のタイトル「密教の伝来と国風文化」。密教は「伝来」ではない。最澄、空海が留学してもたらしたもの。明治時代に西洋近代思想が「伝来」したなどと言わないのと同じ。
<同>扶桑社版にある菅原道真の名前が削られた。「つくる会」は扶桑社版だけに菅原道真が載っていることをセールスポイントにしていたのに。(→連載2
<同>国風文化を説明するのに「中国文化の強い影響を受けながら」とか、日本の風土や習慣「にも」合わせたと、独自性を否定している。「つくる会」とは、こういう記述を避けながら執筆することを旨とする団体だったのでは? 国風文化の説明として、中国文化の影響を強調する言い草を耳にしたことがない。平安文化は中国の影響下にあったが、国風文化はその影響以外の部分で勃興したものを総称する言い方である。しかも、国風文化が太字になっていないのは自由社だけ。(→連載5
<p56~57>本文と「ここがポイント!」に「神殿造」とあるが、p49は「校倉づくり」、p83は「書院造り」で、表記が不統一。
<同>「女手」「大和絵」「屏風」「桓武天皇」「祈祷」などはルビが必要。「桓武天皇」はp54にルビが振られているが、初出でなくとも、ここはルビが必要。
<p57>金剛峯寺を金剛峰寺と表記している(さくいんも)。この表記をする教科書は自由社だけ。
<同>平安時代の単元なのに、鎌倉時代の作品である空也上人像の写真が掲載されている。
<p58>「平等院鳳凰堂」の写真説明。「阿弥陀堂を中央に、めでたい鳥である鳳凰が左右に翼をひろげた姿を模している」とあるが、鳳凰堂は鳳凰を模して建てられたわけではない。江戸時代になって、鳳凰の形をしていることや、屋根の上に鳳凰の棟飾りがあることから鳳凰堂と呼ばれるようになった。
<同>「鳥獣人物戯画」の写真説明。「1000年前に動物たちの、こんな楽しい表情を描き分ける才能の持ち主がいたのだ」とあるが、鳥獣人物戯画は12世紀の作品で、甲巻・乙巻以外は鎌倉時代とされているので、1000年前は明らかに間違い。古くて900年前。
<p58~59>「妙なる」「陸奥」「可憐」「相撲」などはルビが必要。
<p59>重要な歴史用語である「末法思想」が出てくるが、さくいんにないので引けない。
<p72~73>「華美を押さえて」は「華美を抑えて」の誤記。「宋の文化に影響され」として、南大門と三十三間堂を同列に扱っているが、南大門は宋の影響を受けた「大仏様」(だいぶつよう)という様式だが、三十三間堂は「和様」(わよう)であり、同列に扱うのは不適当。(→連載5
<p73>「摩和羅女像」の写真説明。「千体仏を囲む」は「千体仏の前に立ち並ぶ」とすべきだ。
<同>鎌倉彫刻を「たくましさだけでなく、内面の強い意志がにじみ出るような作風が好まれ」とまとめるのは間違い。それまでの仏像にたくましさがあったと読める。平安後期の仏像はまさに優美・繊細・円満な作風で、たくましさこそ鎌倉仏のひとつの特徴だ。さらに言えば、鎌倉彫刻を語る際に「写実」という言葉が出てこないのはおかしい。また、当時このような作風が「好まれた」と言い切るのも間違い。慶派は南都仏師と言われたくらいで、あくまで傍流からの反乱だったわけで、文化的中心地である京都では円派、印派など、より穏やかな作風がむしろ好まれていたと考えられる。
<同>「鴨長明の『方丈記』や吉田兼好の『徒然草』という、あきらめの境地をつづった随筆の名作が生まれた」。鎌倉文学を「無常観」でくくるのはいいにしても、方丈記、徒然草が「あきらめの境地をつづった」はひどすぎる。「あきらめの境地」が必要なのは「つくる会」首脳。
<同>
「貴族のあいだでは、新しい和歌のかたちを生み出そうとする機運がおこり、藤原定家らによって『新古今和歌集』まとめられた。この中にも武士の身分を捨てて僧になり全国を巡りながら無常的な和歌をよんだ西行の作品が光る」。「この中にも」は文章としておかしい。
<同>「絵画では『平治物語絵巻』のような戦のあらすじ」。絵画なのに「戦のあらすじ」とはひどい表現。「戦」はp68で「いくさ」とあり不統一。
<p75>扶桑社版にある「悪党」の記述が削除されている。重要な歴史用語であり、これでは受験に通らない。(→連載8
 
(つづく)

連載一覧
★安重根を取り上げ志士と称える自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<上>
★自由社版教科書で菅原道真も乃木希典も消えた-扶桑社版からの改悪<中>
★特攻隊を「自殺攻撃」と貶める自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<下>
★進化論から始まり部落史を詳述する自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<4>
★自由社版 そんなに支那が 好きですか-扶桑社版からの改悪<5>
★スクープ!『日本人の歴史教科書』表紙はタイのガラクタ-扶桑社版からの改悪<6>
★「ポツダム宣言様ありがとう」の自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<7>
★悪党のくせに(笑)悪党を書かない自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<8>
★藤岡信勝会長、独禁法に違反してませんか?-扶桑社版からの改悪<9>
★乃木大将削除を開き直る「つくる会」理事-扶桑社版からの改悪<10>
★秀吉の朝鮮出兵を「侵略」と書く自由社版-扶桑社版からの改悪<11>
★自由社版「ラスコーの壁画」はニセ写真だ-扶桑社版からの改悪<12>
★みんなニコニコ古墳を造ったと描く自由社版-扶桑社版からの改悪<13>
★錦の御旗で威圧したと書く自由社版-扶桑社版からの改悪<14>
★ナチスのユダヤ人迫害を消した自由社版-扶桑社版からの改悪<15>
★編集趣意書から「太平洋戦争」史観の自由社版-扶桑社版からの改悪<16>
★石原慎太郎を載せても都教委は採択しないぞ自由社版-扶桑社版からの改悪<17>
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