『今日の一冊』by 大人のための児童文学案内人☆詩乃

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本が苦手な子にも・異文化理解

2017-10-05 18:02:33 | 日本文学


『ヘンダワネのタネの物語』(2012年)新藤悦子著 ポプラ社

先日ご紹介した『ディダコイ』は、結構本好きの人じゃないと読みづらいかなと思うのですが、活字が苦手な子でも、割とすんなり読めるのでは?と思うのが、今日ご紹介するコチラ。


«『ヘンダワネのタネの物語』あらすじ》

サッカーが得意なクラスの人気者、イラン人のアリと、絵ばかり描いていて、「ヘンな女子」といわれる直。
5年生の同級生の二人が、アリの家の事情で、直の叔母のリコの家に、直と弟の暖と一緒にひと晩あずけられることになります。
普段は人前でイランの話を絶対にしないアリですが、芸術家のリコや、アリを慕っている暖たちと過ごす時間の中で、イランの料理や、母親の実家のこと、イランの国中を旅している叔父のことを話し始め、そして、「ヘンダワネ(イランのスイカ)には、秘密をとじこめ、その夢を見せる力がある」といって、タネにかくした秘密の話―叔父が見た遊牧民のふしぎなギャッベ(じゅうたん)織りの話―を聞かせてくれます。
直は初めて聞くイランの話に強くひきつけられるのと同時に、アリがイランへの本当の気持ちをかくしていることに納得できず、アリに自分の気持ちをぶつけますが、アリの激しい反発に合い……。(ポプラ社HPより転載)



クラスに外国人の子がいても、珍しくない時代に日本もなってきたと思います。特に車産業はじめとした工業が盛んな地域では、アジアや南米地域からの子どもがどっと増えたとか。外国人の子たちはクラスの人気者になるか、逆にイジメの対象になるか二極化する傾向にあるように思います。
以前ご紹介したコチラ(その時の記事はこちらをクリック)↓



この主人公の女の子愛は、クラスメートのタイ人の女の子に優しく接することができなかったことに罪悪感を覚えて、クラスに居続けること自体が苦しくなってしまうのです。最初は、人気者だったタイからの女の子。でも、次第に日本語が通じないと分かるとみんなは離れていってしまうのです。日本人って‟みんな同じ”が好きだから・・・

一方、今回の『ヘンダワネ』に出てくるイラン人のアリは、日本語もサッカーも上手で、クラスの人気者。でも、そんな彼にも秘密があるんですね。以下ネタバレ含みますので、自分で読みたい!という方はここまでで


アリは日本語が下手なお母さんを邪険に扱うんです。恥ずかしいって。でも、本当は本当は、自分もイランのことが大好きで、でも日本に馴染むためにはその気持ちを押し込めて押し殺さなければ、クラスの人気者にはなれないと思い込んでたんですね。思い込んでるというか、実際そういう風潮ありますからね・・・。
イランのこと話したらヘンだと思われないか心配。だから話せない。とても、リアリティがある。本当の気持ちを押し込めていると、人ってこんなにも苦しいんだなあ、ということもよく分かる一冊。

でもね、直と直の弟暖、そして二人の叔母のリコはみな興味津々で聞いてくれたから、アリは開放されるんです。アリの作ってくれたイラン料理のおいしそうなこと!串焼きにサフランピラフ、塩ヨーグルトとキュウリのサラダ(こちらは、アラビアンナイトのときに新藤さんご自身が作ってくださいました!)

ヘンダワネのタネの秘密や、遊牧民がギャッベ(絨毯)を織るところのファンタジックな描写もまたいいんだなあ

話がさらっと終わってしまって、ちょっと物足りない、もっと話を深めたりしてもらいたい!という気持ちもおこるけれど・・・でも、こういう異文化理解は本が苦手な子にこそ手に取ってもらいたい。だから、これはこれでいい気もします。
自分とは違うバックグラウンドを持つ子の理解に、ひと役買ってくれそうな物語です

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