『今日の一冊』by 大人のための児童文学案内人☆詩乃

大人だって児童文学を楽しみたい、いや、大人こそ読みたい。
ハッとする気づきのある絵本や児童文学をご紹介♪

それって、ストリートチルドレンになるほど?

2017-11-01 12:09:34 | アフリカ文学


『路上のヒーローたち』(2008年)エリザベス・レアード作 石谷尚子訳 評論社
The Garbage King(2003), Elizabeth Laird



今日の一冊はコチラ。
ぜひ学校図書に置いてもらいたいな、と思うテーマ。とても、読みやすい文体で、グイグイと引き込まれて一気読みだったのですが、なんせ379頁と分厚いので、本好き向き。

先日ご紹介した『ただいま!マラング村』は、小学校中学年から読めますが、同じような内容でもっと詳細に書かれているのが『路上のヒーローたち』。
前者はタンザニア、後者がエチオピアという違いはありますが、ストリートチルドレンの話という点で共通。こちらは、読み応えがあるので、中高生以上、大人向き。


■ 深刻なテーマながら、明るい気持ちになれる!

ストリートチルドレンと聞くと、影にはマフィアとか組織ぐるみの悪い大人たちが立ちはだかっているし、それだけでなんだかもう、無力感で暗い気分になってしまう。だから、この手のものは読みたくない、なんて人も多いのでは?確かに、闇の勢力には、キィーってなります。なるんですけど・・・。

でもね、こちらは作者のまなざしが温かいためなのか、アフリカの大地にある生命力のなせるわざなのか、過酷な状況の中でも明るさやエネルギーがあるんです。作者が、ストリートチルドレン問題を世の中に訴えよう!という姿勢ではなく、一人一人の生きようとしている子どもたちにフォーカスしているからなのかな。だから、この問題に全く興味のない人にも、響くと思うんです。


■ それでも気高く生きる

主人公のマモと姉のティグストは最貧困層といってもいい暮らしだったのです。でも、そんな彼らでさえ格下に見て、ああはなりたくないと思っていたのがストリートチルドレン。

しかし、ストリートチルドレンのギャングたちの中にも、盗みはゼッタイにしないと誓いを立てているグループがあることは、私自身も初耳でした。盗みという犯罪を犯すか、プライドはズタズタになるけれど、物乞いの道を選ぶか。究極の選択。マモを仲間に入れてくれたグループには、リーダーのミリオンという子がとても立派で、決して盗みを許さないのです。で、物乞いでとってきた分は、グループ内みんなで分かち合う。思わず、ミリオンに惚れそうになります(笑)。

このグループにいる子たちは、親や家族の愛を知らない子たちばかりなのです。クセのある性格の子はいますが、もっとねじ曲がって育ってもよさそうなものなのになあ。それでも、与えられた状況の中で、せいいっぱい気高く生きている。愛を知らないことを言い訳にしたりしない。この子たち、スゴイ!!!


■ お金があれば幸せか?


貧困で何がツライって、自分で生きる道を選べないこと。本当に経済的に保障されているのって大事なんだなあ、ってしみじみ思います。

だから、もう一人の主人公といってもいい登場人物ダニが、裕福な家庭から家出してきたことは、ストリートチルドレンの彼らには信じられないことなのでした。いや、私だって思いましたよ。そんな理由で家出!?それって、ストリートチルドレンになるほどの悩みか?これだから、おぼっちゃんの甘ちゃんは、ってね。

でもでも、客観的には甘いと思われようとその子にとっては大問題なのです。
よくね、不登校の子に「世界には、学校に行きたくても行けない子がたくさんいるのに・・・!」って言葉かけちゃいません?いや、かけたのは過去の私ですけど。そんな理由で?という理由で学校に行けなくなった長男(当時小3~4年)を見て、もうイライラしました。自分がどれだけ恵まれているかワカラナイなんて、悲しい、とかね

だから、ダニの父親がイライラする気持ちも分かる。でも、ダニにとっては、ストリートチルドレンになったほうがマシなくらい大問題だったのです。人には理解してもらえない悩み、苦しみ。これ抱えてる日本の若者多いんじゃないかな?

だからこそ、この本は学校図書に置いてもらいたいなあ、って思いました。勇気のもらえる一冊です

親子で考えたい、ストリートチルドレン問題

2017-10-13 12:15:17 | アフリカ文学


『ただいま!マラング村 タンザニアの男の子のお話』(2013年)
ハンナ・ショット作 佐々木田鶴子訳 徳間書店


今日の一冊はコチラ。ストリートチルドレンって、インドとか東南アジア諸国に多い印象でしたが、アフリカにもいるんです。この物語はなんと実話!で、2014年の小学校3,4年生の課題図書。課題図書いいのないな~、って毎年思うのですが、これはなかなかよかったです

字も大きめで、大人なら30分で読めちゃいます。話も中学年向けにシンプルにしてあるし、淡々と進むのだけれど、ズンと心に響くものがあるのです。実話の持つ力かな?アフリカの大地の持つ明るさなのかな?いや、過酷なんですよ、見る人が見たらかわいそうなお話なのですが、悲劇に陥っていないところが、個人的には好きでした。お涙ちょうだいしようとしていないところ。

主人公のツソはタンザニアのキリマンジェロのふもとにあるマラング村というところに住んでいます。お父さんは病死、お母さんは蒸発してしまって、おばさんの家にお兄ちゃんと一緒に居候させてもらっているのですが、このおばさんが、まあ意地悪なの!おばさんも生活に余裕がないので、何とも言えない感じなのですが・・・。

そこで、兄ダウディと弟のツソは家出をするのです。このとき兄8歳、ツソはわずか4歳!
わ~、うちの次男、三男と同じ年ではないですか。てくてくてくてく、長くて熱い熱い道のりをずーっと歩くのです。でもって、お兄ちゃんと人混みの中ではぐれてしまったツソは4年ほどストリートチルドレンとして生きていくんですね。その後、道で出会ったシスターたちの車に隠れて乗り、シスターたちの寄宿舎で暮らしていくことになります。

個人的にグッと来たのは、シスターたちの子どもを拒否しないところをみて、ある感情がツソの身体の奥からこみあげてくるところ。人って小さい頃に受けた愛情はどこか身体に沁みついているんだなあって。もう一つは、寄宿舎でロイという子から怒鳴られて出て行ってしまうところ。ロイもそんなにツソを傷つけるつもりはなかったから、落ち込んでしまう。そして、ツソが帰って来たときみんなの「お帰り!」の声に、鼻の奥がツーンとしました

ツソの人生はとてもドラマチック。本当にこんなことがあるの?って。でも、それをさらりと書いている。ツソは恨んだりしない。誰かを責めるような気持ちを持ってない、とても気持ちのいい子。でもでも、書いてないだけで、本当はもっともっとつらいこと、寂しかったことあったよね?書いてないだけに、そういうことにもかえって思いを馳せることができるような気がします。
爽やかな読了感があるとともに、自分にも何かできないか、と考えさせられる。親子で読みたい一冊