『今日の一冊』by 大人のための児童文学案内人☆詩乃

大人だって児童文学を楽しみたい、いや、大人こそ読みたい。
ハッとする気づきのある絵本や児童文学をご紹介♪

涙すら出てこない辛さ

2017-10-23 16:54:33 | オセアニア文学


『ナム・フォンの風』(2003年)ダイアナ・キッド作 もりうちすみこ訳
あかね・ブックライブラリー


台風すごい風でした!というわけで、風つながりで今日の一冊はコチラ↑

ナム・フォンとは、ベトナム語で、『香り高い南風』という意味。
1975年のベトナム戦争終わる前後にボート・ピーポルと呼ばれた難民たちが発生しました。このお話の主人公ナム・フォンもそんなボート・ピープルのうちの一人で、オーストラリアにやってきます。作者のダイアナ・キッドさんは、移民の子どもたちに英語を教えたことが影響して、この物語も生まれたようです。小学校高学年からとありますが、100頁くらい、字も大きめで、主人公の語りなので読みやすい


■ 本当にツライと涙も出ない

この物語の主人公ナム・フォンは、移民先のオーストラリアでクラスメイトにどんなに話しかけられても、しゃべらないんです。笑いも泣きもしない。英語が理解できないわけではなく、心の中では答えてるのです。で、この原書のタイトルがONION TEARS↓



ナム・フォンはベトナム料理屋さんで住み込みで働いているのですが、玉ねぎ(ONION)を大量に毎日切るときには、涙(TEARS)が滝のようにドバドバ出るんです。でも、悲しいこと思い出したり、思いっきり泣きたいときもあるのに、そんなときは涙が出てこないんですね

人って本当にツライ経験をすると、どこかで感覚を閉じてしまうことがある。泣きたいのに泣けない。再びナム・フォンが泣けるようになったとき、ナム・フォンは同時にしゃべれるようになります。ナム・フォンの場合は、突破口となったのは学校の先生でしたが、この先生のさりげなさがまたよかったんですよねえ。ナム・フォンが自分から心を開くまで待つ。


■ 日本人だからこそ読みたい


日本には、難民も来ないし、移民も欧米諸国と比較すると少ない。だからこそ、こういうことがあるんだ、ということを物語で知っておきたいなあと思います。絶版ですが、学校図書には置いてほしい一冊。

ただ、個人的に一つ残念だったのは、ナム・フォンの心の中の語り口調。ちょっとお上品すぎるというか、夢見る乙女口調なのです。そう、村岡花子訳の『赤毛のアン』を読んでるかのよう。

○○なの。○○かしら?○○わ。○○よ。

・・・伝わるでしょうか?ナム・フォンは貧しい田舎の出なので、どちらかというと口調は『大草原の小さな家』のローラのほうのイメージなんだけどなあ。もしかしたら、そういう口調は、今の子には読みづらいかもしれません。読んだ子に感想聞いてみたいな。

とはいえ、ナム・フォンが涙を取り戻し、声に出して言葉を言えるようになるところは感動的です。世界には、色んな人たちがいること、知っておきたいです

本が苦手な子にも『秘密の島のニム』

2017-08-22 11:32:02 | オセアニア文学


『秘密の島のニム』(2008年)ウエンディー・オルー作 田中亜希子訳 あすなろ書房

夏って、なんだか島に行きたくなる。
というわけで、今日の一冊はコチラ!絶版のようですが、まあ、そうなるだろうなあ。本好きさんよりも、本が苦手な子が読むのにいいかもしれません。

ジュディ・フォスターが主演していた『幸せの1ページ』という映画の原作でもあります。



【『秘密の島のニム』あらすじ】
ニムは“秘密の島”におとうさんとたった二人で暮らしています。島がどこにあるのか、誰も知らず、地図にものっていないし、島のまわりには、サンゴ礁の迷路がはりめぐらされているので、ほかの人は近づくことができません。ところが、ある日、プランクトンの研究で出かけたジャックがトラブルに合い、ニムは思いがけず長く一人で島に置き去りに・・・。
そこに、現れた救世主がニムが大好きな冒険作家アレックス。実は引きこもりだったアレックスは、ニムを救うべく実際の冒険の旅に出ます。



自然と共生する島の生活は面白そう!映画のほうはまだ見ていませんが、映像で見てみたくなります。
アレックスとニムはメールでやりとりするところが現代的で現実的。軽い読み聞かせにもいいかも

ただね、大人が読むとちょっと物足りない。ニムの母親の命を奪った観光船の乗組員たちが、アレックスの物語を聞いて、そろって涙したり、悪者扱いが分かりやすすぎて、ちょっと漫画的というか子どもだましに感じてしまう

同じく無人島でのサバイバル生活を描いたものならば、実話を元にしたこちらが大人にはおすすめ↓




『青いイルカの島』
(以前書いたレビューはコチラをクリック

雨の日に聞きたい:昔と今をつなぐ『ヒットラーのむすめ』

2017-08-01 16:50:29 | オセアニア文学

『ヒットラーのむすめ』(2004年)ジャッキー・フレンチ作 さくまゆみこ訳 
北見葉胡訳 鈴木出版
 Hitler's daughter(1999) by Jackie French

午前中とはうって変わって、午後から鎌倉はすんごい雨です!警報出てます!

でも・・・家の中で守られているときは、雨って好きなんですよねえ。雨音聞いてるのが好きなんです。読書日より。こんなとき、物語を語ってくれるストーリーテラーがいたら、雨の日はより一層特別な日になりそう

そんな雨の日に語られたお話が、今日の一冊『ヒットラーのむすめ』

≪『ヒットラーのむすめ』あらすじ≫
雨がふりつづいていたある日、スクールバスを待つ間に、オーストラリアの少女アンナがはじめた「お話ゲーム」は、「ヒットラーのむすめ」の話だった…。もし自分がヒットラーの子どもだったら、戦争を止められたのだろうか?もしいま、だれかがヒットラーと同じようなことをしようとしていたら、しかもそれがぼくの父さんだったら、ぼくはどうするべきなのだろうか。(BOOKデータベースよりそのまま転載)


前々から気になっていたこちらの物語。ヒットラーと聞くだけで、憂鬱になりそうですが、そこに娘が出てきて、この表紙となると、ちょっと雰囲気が変わってきます。思ってたとおり、よかった!!!

舞台は現代のオーストラリア。スクールバスを待つ間の「お話ゲーム」で、空想の話として語られた「ヒットラーのむすめ」の話に、マークとトレーシーはどんどん引きこまれていきます。そして、戦いがカッコイイと思っていて、話に茶々を入れたがるベンを避けて、マークはアンナに話の続きをせがむのです。マークはもはや他人事とは思えず、もし自分の親がそうだったら・・・とやがて考え込むようになっていくのです。

暗いというよりも、どちらかというとちょっと切ない。お父さんから、家庭教師のゲルバー先生からの愛情を欲しているヒットラーの娘ハイジ。でも、自分の胸の中にだけとどめておきます。それが健気で・・・

ハイジは隔離されています。ハイジの存在は秘密なのです・・・顔にあざがあって完璧ではないから。隔離されているので、ハイジには外の状況は全くワカラナイ。それでも、色んなことを感じ、察していく。


【ここがポイント】

・現代っ子たちが、戦争を遠い昔話としてではなく、自分のこととして感じられる仕立て

・戦争の悲惨さよりも、自分だったらその状況でどうしたか、ということに焦点が絞られている

・真剣に悩むマークから質問された、大人たちの対応が考えさせられる

・暗いのではなく、考えさせられる

・小学校高学年から。本が苦手な子でもいけそう。

・大人こそ読みたい!



マークには大体想像がつくのです。そういう状況になったら友だちがどうなっていくのか。
夢の中で友だちは、みなナチスに傾倒しています。それをマークはこんな風に冷静に思うのです。

ボンゾはわくわくするようなことが好きなだけだし、ベンは考えたりしない。それにトレーシーは友だちと同じことをしているのだ……。(P.140)

そう、平和なときは仲良くできた人たちが、人が変わっていってしまうのが戦争。
親だってワカラナイ。マークが質問したときのめんどくさそうに答える場面見ると・・・。

ラストは、もしかしてもしかして、と思っていた通り。不覚にも涙してしまいました
とても、胸に残る物語で、雨の日のたびに思い出すことになりそうです





これはイマイチかな・・・

2017-01-23 21:12:47 | オセアニア文学


『鳥と話したふしぎな夜』K・スコウルズ作 平賀悦子訳 福永紀子絵 文研出版

表紙絵が和風に感じるのは私だけ?文研社さん、原題LANDINGのところをLANDINLGと間違えるのはよろしくない・・・

嵐の日に傷つき、飛ばされてきた大量のマトンバードを祖父と孫娘で作業場小屋に一晩保護するお話。鳥たちの様子が気になり、真夜中過ぎに起き出してきて様子を見に行く孫娘のアニー。すると、なんと鳥たちの言葉(会話)が分かるではないですか!ところが、この話が一向に印象に残らない(私はね)。うーん、うーん、うーん、なんでしょう?作者は学校の先生とのことで、ナルホド、学校の先生から先生が創作したお話を聞いているような感覚です。なんていうか・・・イマイチ物語に入りこめなかったなあ。原書で読めばまたイメージが違ったかしら?↓



鳥たちと会話ができるというのではニルスもありますね。ちょうど子どもたちがニルスのDVDを見ていたのですが、実はまだ本は読んでいなくて。長年読み継がれてきたものにはやっぱり魅力があるんだろうなあ。物語ではなく、本当に動物たちと話せるといえば、ティッピちゃんなんて子いましたね↓



もうすっかり大きくなって、大学では映像を学んだんだとか。ちなみに、小学生女子に人気の動物と話せる少女リリアーネのシリーズはアニメ調の表紙でどうしても読む気になれません・・・

これ大好き! 『青さぎ牧場』

2016-07-17 08:38:45 | オセアニア文学
 

『青さぎ牧場』ヘブサ・F・ブリンズミード作 越智道雄訳 冨山房

ああああ!個人的にとっっっても大好きな物語が新たに加わりました!こういう物語に出会えると興奮してしまう~。ええ、ええ、もちろん絶版(←どうやら私は絶版のものが好みらしい)で内容は地味だし、すごーくマイナーだから語り合える仲間がいなさそうなんですけどね・・・。どなたか!読んだ方!!!
もしくは、どなたか(そうそう、アナタです。今これ読んでくださっているそこのアナタ)これから読んで~。せめてレビューでも読んで共感しあいたいなあと調べたけれど・・・ほとんど出てこず。ならば海外のサイトへいざ!・・・やはり出てこず。1960年代のオーストラリアが舞台です。


≪『青さぎ牧場』あらすじ≫

3歳で親元を離れ、寄宿舎で育ったため両親の記憶がほとんどないリル。お金だけはあり、高慢ちきに育っていた。ところが、ある日父親の死の知らせが届き、遺産相続の際に初めて自分には祖父がいることを知り、その祖父もまた初めて自分に孫娘がいることを知る。ところが、祖父は貧しい身なりでリルとは油と水。二人に残された土地は実は祖父の生まれ故郷であったので、祖父は歓喜するが、一方のリルはその土地を売りたいと思い、そこでも意見がぶつかり合う。メルボルンを離れ、とりあえずという気持ちでニューサウスウェールズ北部の牧場へ祖父ダスティと旅立つリル。雄大な自然に心を打たれたリルは、ボロボロの家にも手を加えていくうちに徐々にこの場所が愛しいものに変わってくる。あたたかい隣人、同年代の遊び仲間を得たリルは、次第に過去の高慢ちきな少女から、人種差別の偏見のない少女へと成長していく。



ん?どこかでこの流れ読んだような・・・。そう!『秘密の花園』を彷彿させるんです。最初の我がままっぷり、金持ちっぷり、しかし自然に癒されていくところが。こちらのほうは庭ではなく、もっと雄大な自然なんですけどね。こういう内容は個人的にどストライクなんです~

個人的にこの物語に入れ込んでしまうのは、お隣の国ニュージーランドに一年間留学していたことがあったから。国は違えど、共通する感覚もあって・・・。この物語の中では農場の労働力としてはアボリジニーではなく、サモアやトンガなどの暑い気候の中で育って身体が丈夫なポリネシア系の労働者たちカナカ。奴隷的な時代は終わったにも関わらずどことなく残る差別・・・。分かりやすい差別じゃなく、いい人たちからさりげなく出るからこそのショック。

私はニュージーランドの先住民族であるマオリをテーマに文化人類学で卒論を書きたかったので留学したのですが、学校が始まる前にニュージーランド国内を個人旅行しているときにファームステイをしたんです。明るくて素敵な白人のホスト。「何勉強するのー?」と聞かれたので「マオリ」と答えたとたんに顔色が変わったんです。そしていかに彼らが怠惰で非生産的か、あんなの勉強して何になるのかと聞かされて傷ついた思い出があります

その後も私たち一過性の留学生にはとってもよくしてくれるクリスチャンファミリーが、マオリの話になったとたん言動に見え隠れする差別。理性では差別意識を持たないようにしているみたいなのですが、ふと出てきちゃうんですよねえ。

でも、私が知り合ったマオリの人たちはやっぱりみな素晴らしかった!もちろん、酒浸りのダメな人もいるし、映画『ワンス・ウォリアーズ』(暴力性の高い映画なので注意。でも、素晴らしい)や『クジラの島の少女』(DVD買いたいくらい好き)の世界も現実だけれど、私が知り合った人たちはみなマオリとしての誇りが高くて、今思い出しても泣けてくるくらい

私自身も留学して初めて日本人がアジア人という認識を持ち、アイデンティティについてこれほど考えた時期はなかった。それまでは日本は“先進国”というくくりで、アジアよりも欧米と同系列のように錯覚してた自分に気づいて愕然。なので、この物語の主人公のリルが肌の色で色々思い悩む気持ちがよーく分かるんです。この物語に関してはネタバレしたくないので、これ以上内容について書くのは控えますね。

ただ、翻訳も1976年なので少々古いです。“ほうらいしょう”って何ぞや?と思ったらモンステラのことだったり、“あいくちマック”に関しては???三文オペラに出てくるMack The Knifeのことなんですってね。日本では美空ひばりとかが歌ってたらしい・・・って知らんがな~。ピンク色の草だというマテル草も気になります。調べても出てこなかった・・・どなたかー、オーストラリア行った方教えてください

と、重苦しそうな内容に見えますが、リルが労働を通じて心を開いて行く様や、田舎暮らしの様子はとおっても楽しいです。頑固な祖父ダスティと徐々に心通わせていくところもまたいいんですよねえ。そして、食べ物が美味しそう(←最重要事項)。

万人受けはしないけれど、こういう形で人種を考える物語、残っていってほしいなあ。でも、私が好きな本ってお決まりかいっっていうくらい絶版。あ~、古本屋もやりたくなってきました