『今日の一冊』by 大人のための児童文学案内人☆詩乃

大人だって児童文学を楽しみたい、いや、大人こそ読みたい。
ハッとする気づきのある絵本や児童文学をご紹介♪

インドの印象が変わる!?『モンスーンの贈りもの』

2017-03-21 19:00:03 | インド文学


『モンスーンの贈りもの』ミタリ・パーキンス作 永瀬比奈訳
鈴木出版 318頁 2004年(原書初版)2016年(翻訳初版)小学校高学年から


これは好き!!!
瑞々しい、こういう児童文学に出会うと嬉しくなってしまう

≪『モンスーンの贈りもの』あらすじ≫
インド生まれの母とアメリカ人の父をもつカリフォルニアの15歳の少女ジャズ。
背が高くて体格がよいことに強い劣等感を抱いているところに、幼なじみに恋してることに気付いてさらに苦しむ。
弟は慈善家で素晴らしい母に似ているのに、自分は全然似ていないこともコンプレックスだったところに、自分の慈善活動において裏切り行為を受け、ジャズの心はちぢこまっていた。
ところがある夏、母が育った孤児院のあるインドのプネで、一家はひと夏をすごすことに。
自分の仲間だと思っていた父の変化、お手伝いのダニタとの友情、盲目の幼児マヤとの交流、カタックという踊りや、やさまざまな経験を経て成長していくジャズ。
モンスーンの魔法、そして、ジャズの秘密。さわやかな秀作!


時代は現代。なので、メールもあるのに、プネでは接続環境が悪くて、幼なじみのスティーブとは時間差がある手紙でのやりとりなんです。これがいいんだなあ。ギリギリ手紙世代の私は、自分の留学時代思い出してキュンキュンしちゃいましたよー(笑)。手紙には画面上では伝わらない思いが乗っかる気がするんです。ブログやネット記事では乗っからない思いが、書籍には乗っかるように

【ここがポイント】
・劣等感を抱いてる人に読んでほしい!
・人種差別&アイデンティティについて考えさせられる
・10代でも自分で小規模ビジネス立ち上げるところにワクワク
・異文化交流(食べ物美味しそう)&友情がさわやか
・幼なじみとの恋の行方にキュンキュン(少女漫画的?)


どのポイントもね、それほどドラマチックに書かないんです。さらっと。でも、確かに何かが残る、種を蒔いてくれる感じ

例えば人種差別。
ジャズは白人の父に似ていて色が白く、母親やダニタは下層階級であることを示す色黒。
で、一緒にいると母やダニタは使用人と思われてしまうんですね。ジャズはこんなのおかしいと胸が痛みます。でも、“どおしてなのよおおおおおお(怒)”って憤慨するほどでもないのが、かえってチクッと胸に刺さる。

ちなみに原書はこんな感じ↓

 

日本版が一番内容をよく表してるかな。ってか、眼力!!!怖すぎ(笑)。

印象に残ったエピソードはたあくさんあって(食べ物もおいしそう)、とてもこの物語の魅力は伝えきれないのですが、一つ思ったのはこれ読んでインドの印象変わる人多いじゃないかな?ってこと。

インドの印象:汚い・カオス・貧困・物乞いがしつこい・喧騒・警官ですら観光客をだます

っていうイメージの人多いんじゃないでしょうか?・・・私はそう思ってました
でもね、自分自身もマザーテレサの施設にボランティアに行ったとき感じたのですが、インドには祈りにも似た静寂があるんです

『インド古代史』を書いたD.D.コーサンビーは“喧騒の中の静寂”と表現しましたが、まさにそんな感じ。

主人公のジャズは、インドには文化の中心にはおもてなしの心があってー誰もがそれを実践するすべを知っている。と述べています。
インドの美しい心

孤児院を訪ねたとき、小さな男の子が私のバンドエイドを見て(たいした傷じゃない)、“痛い?”と心配そうに聞いて何度も撫でてくれたこと

性的被害にあって狂気に陥ってしまった女性たちが収容されているところで、ある女の子が私の髪に花を挿してくれたこと、そしてくるくる踊ってくれたこと

思い出しました。

ダニタが自力で道を開いていくところは、『家なき鳥』(紹介記事はコチラをクリック。こちらもおススメ!)とも似ていますが、ダニタは雇われるのではなく、自分でビジネスするところがたくましい

慈善家で素晴らしいママのようにはいかないジャズとパパ。でも、パパはジャズより先に一歩を踏み出し、隠れるのをやめます。

「ママみたいなスケールでほかの人の人生に影響を与えられないかもしれないが、ぼくだって変化を起こす何かをしてる。それは自分にぴったりに合ったなにかだ」

ぜひジャズの目を通して見た美しいインドに触れてほしいなあ
そして、自分も自分のやり方で何か行動してみたくなる、背中をそっと押してくれる素敵な物語でした

幸せは自分次第 『家なき鳥』

2017-01-13 22:06:23 | インド文学
 


『家なき鳥』グロリア・ウィーラン作 代田亜香子訳 白水社 176頁 
2000年(原書初版)・2001年(翻訳年) 小学校高学年から


次回の児童文学ピクニックのテーマが『鳥』なので、図書館で目に留まって読んでみた本。インドの香りがしてくるのがたまらなくて、料理しながらも読んでしまいました。私自身のインド経験はたったの10日間(ハマる人は数か月から数年単位で滞在してますからねー)。しかもカルカッタしか行ったことがなく、そのほとんどをマザーテレサの施設でのボランティアに費やしたので、インド滞在経験があるといっていいのかどうか分からないのですが・・・。それでも、混沌とした町にあふれるスパイスの匂い、目の覚めるような色彩、日本では見られない貧富の差、むわっとむせるような熱風&土埃、衝撃の茶色の海、などなどが鮮明に甦ってきて、懐かしい思いでいっぱいに。行くと人生観変わるとよく言われますが、生と死がとても身近になる強烈な国です。そして、喧騒の中に静寂を感じるという不思議な国。

《『家なき鳥』あらすじ≫
インドの貧しい家の娘コリーは13歳でお嫁に行くが、義母はコリーをこき使い、ついには「未亡人の町」に捨て去る。逆境を健気に生きる少女の姿を描いて感動を呼ぶ全米図書賞受賞作。
【編集者よりひとこと】
まだほんの少女なのに貧しさゆえにお嫁に行かされ、夫が亡くなったあとは義母にいじめられる……あらすじだけ読めばおそろしく暗く思えるこの物語は、実際に読んでみると不思議なほど明るく暖かな光に満ちている。なぜだろう? まずは主人公コリーの負けん気な性格とユーモアを失わない心。そして彼女を励ましてくれる何人かの良い友達、そして何よりも、コリーが数々の思い出をこめて刺繍する美しいキルトやサリー。最後にはそれが彼女に勇気と幸せをもたらすのだ。(Amazon内容紹介よりそのまま転載)


コリーの結婚は、客観的に見たら、持参金狙いの詐欺!でもねえ、このコリーって子がいいんです。ポジティブなのだけれど、こっちが疲れちゃうようなポジティブさではなく、もっとこう自然に明るい先日感想を書いた『この世界の片隅に』のすずさんみたい(まあ、すずさんほどぼおっとしてるタイプじゃないけれど)。文字が習いたくて習いたくて向上心も強いけれど、かといってガツガツしてる感じでもなく、頑張ってはいるけれど同情を引くという感じでもなく・・・自然体なのがイイ。状況的にはみじめなはずなのに、その中で自分なりの幸せを見出していく。本当の意味で強い子なんだなあ。上記内容紹介で、編集者の方が“負けん気な性格と”と書いているけれど、私はそれは感じませんでした。この子は人と自分比較し、悔しさをバネにして・・・とかそういうのはないんです。負けん気というより芯が強い感じ。自己肯定感が高いんです

例えば、コリーの義父は学校の先生で、義母に隠れてこっそりコリーに読み書きを教えてくれるのですが、息子を亡くし、娘までお嫁に行ってしまうと気落ちして引きこもりみたいになっちゃうんですね。そのとき、コリーは

サッサーが話をしてくれなくなったので、あたしは気にかける相手をさがした。だれも愛してくれなくても、少なくとも愛することはできる。

って、のら犬やオニネズミを手なずける。どうして私だけ!こんなに頑張ってるんだから誰か認めて!って自分で自分を悲劇のヒロインにしない(←これなかなかできないこと!)。コリーってこういう子なんです。性格はちょっと違うけれど、時代や環境の制約に負けないっていう点では、『庭師の娘』も思い出しました。

それにしても、未亡人の姥捨て山である町ヴリンダーヴァンもコリーが保護された「未亡人の家」のモデルも実在だなんてびっくり。「未亡人の家」を運営しているお金持ちの夫人のように、徳の高い人もいるのも事実で希望。コリーが自立して、女性としての幸せも手に入れて、どんどん幸せになっていくラストはとっても爽やか・・・と私は思ったのだけれど、そのラストが気に入らない方もいるみたいで面白い。子どもの本で言いたい放題での意見の違いも面白いのでご覧ください。その土地の風と匂いも私は感じたけどな(雨が降って外で踊る場面が特に好き)。

ただ・・・、一つだけ言わせて。なぜ、タイトルにもなってる、コリーが愛してやまない“家なき鳥”の詩を掲載せぬっ!?気になりますよね



偉大なるインドの詩人、ラビンドラナート・タゴール(上写真↑)の詩から取られたとのことで、実家にあるタゴール著作集を探しまくりました(両親がタゴール同好会出身なもので)。でも、見つけるの大変!結局はネットの力を借りた方が早く見つかったのでありました。最後に転載しておきますね。

わたしは聞く ー 人間の心の無数の声々が
人々の眼には見えずに渡り飛んでいる音を。
その音は おぼろげな過去から まだ花咲かない未来へと飛んでいる。
聞け、自分自身の胸の内に
故郷のない鳥が はばたくのを。
その鳥は 無数の仲間であるほかの鳥たちとともに
昼も飛び 夜も飛ぶ ー
光の中を また暗さの中を
岸べから 未知の岸べへと。
《全存在》の真空に つばさのある宇宙(コスモス)の音楽が こだまして満ちわたるー
「ここではない。ここではない。もっと遠いかなたへ行こう。」

「渡り飛ぶ白鳥」より 片山俊彦訳
『タゴール著作集第5巻』(アポロン社)