『鳴りひびく鐘の時代に』(1985年)マリア・グリーペ作 大久保貞子訳 冨山房
今日の一冊は、東京子ども図書館の『森の読書会』、9月の課題図書二冊目より。
日本では1985年出版ですが、本国スウェーデンでは1965年出版です。
一冊目は前回ご紹介した
『剣と絵筆』だったのですが、
Facebookページでのリーチ数の多さにびっくりしました!名作だけれど、地味だし、きっと伝わらないんだろうなあ、ってどこかで思ってたから。そうしたら、根強いファンの方々がいたみたいで、嬉しいびっくり。これを機に復刊してくれると嬉しいな。
さて、今日の一冊も絶版

。ぜひ図書館で。私自身は、『剣と絵筆』よりもこちらのほうが、のめりこんで一気読みだったので、読書会でみなさんが、‟なかなか感情移入できなかった、誰に共感して読めばいいのか分からなかった”という感想が多かったことが意外でした。
え?え?そうなの??あれ?すっごく読みやすかったのだけれど・・・どうやら私みたいなのは少数派だった模様

。物語がどう展開していくかワカラナイ面白さもあり、個人的には、すごく好きな世界観でした。
『剣と絵筆』同様、文章に重みがあるんですよね。会話にも含蓄があって、もうもう付箋貼りまくりです!
印象的だったのは、東京子ども図書館の人が最後におっしゃってたが言葉(ウロ覚えだけれど)。
‟でも、この物語は、本でしか描けない世界よね。映画やほかのものでは表現できない”
まさに!主人公の心の動き、心と心の通い合い。本でしか表現できない世界が堪能できます

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『鳴りひびく鐘の時代に』あらすじ》
舞台は、星占いや錬金術に人々が夢中になっていた、中世ヨーロッパのとある国。
主人公のアルヴィドはわずか13歳にして王位を継ぐものの、違和感がぬぐえない。不眠症に悩まされ、よなよな読書の世界に没頭していたアルヴィドは、やがて神秘主義にのめりこんでいく。ますます自分が王位についていることが苦しくなっていく日々へ……。
そんなアルヴィドの精神を鍛えるべく、母であるアンナ王妃の出した結論は、結婚させることだった。引退し、占星術にのめりこんでいたヘルメル王は、占星術の予言に従い、妃候補と王に変わってむちで打たれる身代わり役を選び出す。婚約者のエリシフに愛情は抱けなかったが、身代わり役ヘルゲとの間に流れる不思議な友情を通じ、アルヴィドは成長していく。
う~ん、ネタバレしたくないと思うと、あらすじ&魅力を説明しにくい

。それでも、なんとか魅力を探り出してみましょう!
■ 全国のアダルトチルドレンのみなさんよ、お聞きなすって!
さて、主人公アルヴィドの身代わり役として白羽の矢が立つのが、少年ヘルゲ。私生児で母は自殺。絵にかいたような意地悪で、魔女的な祖母と、人格者ではあるものの、世間からは視されている死刑執行人の叔父に育てられています。もうこれだけで、グレてもおかしくない環境!
もうこの祖母がね、きいぃーーーーってなるくらい意地悪なの

。おまえはお情けで生かしてもらってるんだ、恥じを知るなら、さっさとどこかへ行け、死にぞこない!ってののしるんですよ?それもしょっちゅう!
その誕生を願うものが一人もいなかったというヘルゲ

。グレないだけでも、すごいのに、祖母からののしられて、こう思うのです。
死ねばよいと思われていただけだ。でも、生きている。ヘルゲの命は贈り物としてもらったようなものだ。
なんとすてきな贈り物だろう。なんてしあわせなんだろう!
生きることが無意味なはずはない。むだにすごしてはいけない。
生きているのは、ほんとうにすばらしいことだ。
(中略)自分の命は天からの贈り物ーそう思っている者は、おそれはしない。死や、悲しみからも遠い。よろこびこそ、人生の中心だと知っている。
(中略)けれど、きゅうに死がおとずれることだってあるかもしれない。それでもいいさ……その日まではたしかに生きた、と言えるならば。(P.40)
今を生きる!まさに、マインドフルネス、禅、アドラーじゃないですか

。
私の周り、結構アダルトチルドレンがいます。毒親だったり、いい父母だけれど、それでもその父母の言動に傷つき、トラウマ抱えてたり。今の私がこうなっちゃったのは、親のせいだー、ってね。だから、人付き合いがうまく行かない云々、言い訳が続く・・・。
最初は、そりゃ大変だったよね、うんうん、と聞いてるのですが・・・私気が短いので、そのうち「いつまで人のせいにしてるんじゃーい!」とキレたい衝動に駆られます

。もう、みんなー、コレ読んで~(笑)!
■ 仕事に貴賤なし。大事なのはスタンス。
登場人物の中で、私が最も惹かれ、感銘を受けたのが、王の身代わり役ヘルゲの叔父ミカエル。
絞首刑ではなく、罪人の首を切る斬首刑執行人。なり手がいない職業なので、死刑をまぬがれた罪人がなったりするところ、ミカエルは自ら進んでこの職業につき、誇りを持っているのです。
ミカエルの考えでは、一瞬のうちに得られる友情もあり、彼はそれを罪人との間に築きあげるのです。
処刑とは、執行人と当の罪人だけにかかわりのある秘めごとで、他人がわりこむ余地はない(P.52)、というのがミカエルの意見。
ミカエルのまなざしは、司祭のお祈りよりも、はるかに大きな力をもっていた。その目は、いきどおりや非難、悩みや同情とは、いっさい無縁であった。極悪非道の罪人の視線すら受け止めることができたのは、ミカエル自身が超然としていて、正も邪も問題にしなかったからだ。剣で切るという、あたえられた仕事にだけ集中し、名人の域に達していた。(P.34)
驚きました。職業や環境じゃないんです。スタンスというか、自分のあり方が全てなんだな、と。ミカエルの崇高なあり方に、すっかり魅了されてしまいました

。
そのほかにも、アルヴィドとヘルゲの不思議な友情、アルヴィドの婚約者エリシフと身代わり役ヘルゲの禁断の恋、そして、物語は後半にさしかかり、一気に謎解きの方向へ!まだまだ書きたいけれど、長くなるのでこの辺で

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お決まりのごとく、手に取りづらい表紙絵ですが

・・・読み終えた後は、これ以外考えられなくなる、という児童文学あるある。
とても、読み応えのあるTHE☆児童文学でした。最後の言葉も秀逸です

。ぜひ大人にも読んでもらいたい一冊です!