『今日の一冊』by 大人のための児童文学案内人☆詩乃

大人だって児童文学を楽しみたい、いや、大人こそ読みたい。
ハッとする気づきのある絵本や児童文学をご紹介♪

追悼:ドイツ文学翻訳者上田真而子さん

2017-12-18 18:16:36 | ドイツ文学


『クルミわりとネズミの王さま』ホフマン作 上田真而子約 岩波少年文庫

今日の一冊は、コチラ。実は、まだ読んでないんです。クリスマスが近いし、これから読みたいなあと思っていたところ、昨日17日、こちらの本の翻訳者である、上田真而子さんが亡くなられた、と知りました。たくさんの素晴らしいドイツの児童文学を日本に紹介してくれた上田さん。87歳だったそうです。

もっとも有名なのは、共訳の『はてしない物語』(ミヒャエル・エンデ作)かな。
前回ご紹介した『ひとりだけのコンサート』も上田さんの訳で、たくさんヘルトリングの作品も訳されています。このブログで、ほかにも過去にとりあげたものでは、

『ヨーンじいちゃん』

『おばあちゃん』

『だれが君を殺したのか』

などなど。骨太ものが多く、出会えてよかったと思うものばかり。

もう、上田さんの訳のものが読めないと思うと、とっても残念なのですが、ふとお友だちが
「絵本や児童文学に携わる人は、長生きが多い」
って言ってたこと思い出しました。
確かに!みなさん、おじいちゃん、おばあちゃんになっても元気な現役の方が多い。

子どもの視点、子どもの心を失わないと人は長生きするのかもしれません。

希望を失わない

心が枯れない

からなのかな?


ところで、日本は翻訳大国なんだそう。日本ほど、翻訳文学が入ってくる国はないそうなんですね。児童文学が盛んなイギリスでは、周辺諸国の翻訳ものはとっても少なくて、なぜ?って聞くと、‟We have our own”って答えが返ってくるそうです。自国に優れた物語がたくさんあるから、わざわざ翻訳ものは必要ない、と。

う~ん、確かに私も日本のもので素晴らしい物語に出会えると、とっても嬉しい。でも、異国の香りを感じたり、異国なのに考えてることや思いには共感できることに驚かされたり。翻訳文学も宝物だなあ、って。

たくさんの宝物をくれた、上田真而子さん、ありがとうございました。

大黒柱が失業!家庭崩壊の物語

2017-12-15 18:14:36 | ドイツ文学


『ひとりだけのコンサート』(1998年)ペーター・ヘルトリング作 ‎ 上田真而子訳 偕成社


今日の一冊は、バッハのパルティータをBGMにどうぞ

家族って、親子のきずなってなんだろうと問い直す作品
、とあるのですが、これは大人になりきれてない現代の大人の物語であるように思う。
いつの時代も子どもたちのほうが、まっすぐに物事を見る目が備わっているよなあ。ヘルトリングの作品は、現実を淡々と描いているものが多く、安易な希望や救いはなかったりするのですが、とても現代という時代をよく描いていて、考えさせられます。

主人公は3か月後に誕生日を控えた12歳の女の子フレンツェ。


■ 大黒柱が失業!さあ、どうする?


父親のヨハネスは、失業してしまうんですね。それが、ただの失業ではなくて。友だち数名と一緒に立ち上げた会社が、他の会社に吸収合併されることになった際に、ヨハネスは侮辱された上に解雇されてしまうのです。それを家族に言えないヨハネス。まるで出勤しているかのように毎朝同じ時間に出て、帰宅する。日本でも、大リストラ時代に、家族に言い出せなくて、スーツ着て毎日公園に通う旦那さんたち、いましたよね

母親のマムスは、夫が何かに深く思い悩んでいる様子を気にしていて、心を開いて話してほしいと思っているのに、話してもらえない。この母親ね、悪い人じゃないんです。だって、実は解雇されてたという話をフレンツェ経由で知ったとき、こう言うんですよ。

「恥ずかしいと思ってるにちがいないわ、あの人。そんな必要はぜんぜんないのに。あの人、ひとりでいきているんじゃなのよ。」

すごい!!!なんて、素晴らしい妻!私こんな風に言えないなあ。喝入れちゃう
ヨハネスは、古いタイプの人間で、夫に収入がなくて妻が儲けてくるというのは我慢がならない。なので、失業がバレた後は、夫婦喧嘩が絶えないんですね。こんな素晴らしい考えをしてくれる妻なのに。ヨハネスの、バカバカ!

あげくの果てに、ヨハネスは妻に暴力までふるって、家を出てしまう。女の人と。ヨハネスは開き直ってマムスに、言うんです。マムスはとびきり冷静な理性と鉄のような落ち着きで彼の神経に触る、と。自分にはあたたかい人間(浮気相手)が必要だった、と。

はいっ!?「ひとりでいきてるんじゃないのよ」なんて、素敵な発言ができるマムスはあたたかい人じゃなくて何なの?ヨハネスにはそれが見えない。変なプライドが邪魔して。妻は手を差し伸べたがってる、でも、握ろうとせず自ら崩壊へと向かう。誰かしらを責めながら。恨みながら。未熟な大人。現代だなあ。


■ 傷つく大人たち&諦めないのは子ども

そして、大人たちはフレンツェの気持ちなんて思いも及ばないのです。自分たちのことに必死すぎて。フレンツェが一番一緒にいてもらいたい時に、「一人にしてくれ」と大人のほうが言っちゃう。・・・でも、私も言っちゃうかも

それでも、フレンツェは諦めない。自分にできることを必死で考えるんです。家族関係を修復したいフレンツェは色々行動に出るのですが、恨み節で行動せずに、昼間っからお酒飲んでるヨハネスとの違いたるや。が、これがことごとく裏目に出てしまって切ないの何のって。めげるな、フレンツェ!ってエールを送りたくなる。

最後のひこ・田中さんがひとりの読者としてフレンツェに宛てた手紙がとてもいいです。これがなかったら、ちょっと暗い気持ちのままになってしまっていたかも。
同じ状況に陥ったら、私ならどうする?と悶々と考えてしまうような物語でした。
ばっちり未熟な大人の部類の私・・・成熟したいものです。


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ジャケ買いですわよ、お兄さん!

2017-07-02 16:59:00 | ドイツ文学


『エーミールと探偵たち』(1962年)エーリヒ・ケストナー作 高橋健二訳 岩波書店

昨日は夕方から東京子ども図書館の読書会へ。
今日の一冊はその課題本から。

≪『エーミールと探偵たち』あらすじ≫
少年エーミールは、田舎からおばあちゃんをたずねる列車の中で、お金を盗まれてしまう。犯人に目星がついていたエーミールは急いで追いかけることに。都会のベルリンの街で、偶然出会った少年たちが協力してくれることになり、みなで知恵をしぼって協力し、犯人をつかまえる大騒動の物語。


■ 読者へのかたりかけは必要か?


私がケストナーにハマったのは小学3年生の頃でした。大好きだったんですけどね、でもケストナー独特のあの読者に語りかける導入部分が苦手で、小学生ながらに「これ、邪魔だな~」と思ってたのを覚えてます

ところが、面白いですね。東京子ども図書館理事を務められている杉山さんは、全国ケストナー選手会(笑)があったなら、優勝できる自信がある!とおっしゃるくらいケストナーが大大大好きなんだそう。ファンレターも書いたくらい。私とは逆で、あの読者に語りかけてくるところがたまらなくて、「私に話しかけてきてくれてるー!」って思ったそう。そんな熱い思いを聞いているうちに、なんだかやっぱりあの語りかけは必要だな、なんて思えてくるから不思議

展開も早くて、とおっても面白いのですが、現代っ子たちが読むにはどうかなー?ケストナー特有の語りかける導入部分で、つまづく子が多いと聞きました

が!!!導入を飛ばしたり、逆にA4サイズに引きのばして登場人物紹介をお教室でブックトークとしてやると、手に取る子が出てくるそう。手渡す人が必要なんだなあ、としみじみ


■ ジャケ買いしたくなる表紙のかっこよさ


印象的だったのは、参加者の中で、ザ☆文学青年って感じのワンレンの青年の一言。
「表紙見たとき、わ、かっこいいなあ、と思って」
と。この黄色!池田香代子さん訳の少年文庫版では味わえない良さ。同じ絵なんですけどね、装丁が違うと印象がこんなにも違う。ちなみに少年文庫版はこちら↓



課題図書として指定された、高橋健二さん訳では背表紙は布張りで、絵がバーンと主張されているんですね。デザインを勉強しているお嬢さんがいるという方も、やはりお嬢さんが「これ、かっこいい!!!」と言っていたそうです。
そう、CDで言えばジャケ買いしたくなる、買って飾りたくなるような表紙!!!原書は1929年出版だからレトロなのもいいのかしら?

こういう本って読まなくても、手元に置いておくだけでもいいんです、なぜか。いい本に囲まれてるだけで、まるでいい“気”のようなものに包まれる(あやしい言い方だけど)。


■ 読み手の思いで魅力倍増


今回初めて、ケストナーを読んだという方は、大感激してボロボロ涙を流したそうです(いや、泣くような本ではなく痛快本なのだけれど)。でも、その方がどの場面でぐっときたかという説明を聞いていたら、こちらまで泣きそうになりました。
そしてね、その方、まだ読んでいないケストナーの名作がたくさんあって、これから読めると思ったらワクワクする、って言うの。子どもの本だけれどね、何歳になって出会ってもいいんです。何度同じ本に出会ってもいいんです。感動が違うから。

個人個人の思いを聞くと、読み終えた本がさらにいっそう魅力を増すから不思議
子どもの本には、ある種の魔法があるな、って思います。作り手の思いだけでなく、読み手の思いも乗っかっていく・・・。
みなで感想をシェアする読書会の素晴らしさも、また体感したひとときでした

シリア攻撃、今こそ読みたい『片手いっぱいの星』

2017-04-13 20:34:25 | ドイツ文学
Most Shocking Second a Day Video


上記の動画、とてもショックですが、一度は見てみるのおすすめです。
3年前にNGOセーブ・ザ・チルドレンが作成したものですが、これ見たときは衝撃でした

なぜって???

私、自分はシリアの人たちに対して偏見ないほうだと思ってたんですよ。でもね、シリア難民の人たちを見ても、この動画見たときほどのショックは正直覚えなかったんです。先進国の子どもに同じことが起きているほうが、ショックを受ける、というのはどういうこと・・・!?

そんな自分に衝撃でした

アメリカがシリアを攻撃しましたね。でも、シリアの一般市民たちはそれを快く思っていないとか。そんな今こそ読みたい一冊がコチラ↓



『片手いっぱいの星』ラフィク・シャミ作 若林ひとみ訳 岩波書店


パン屋の息子で、後を継ぐように言われているものの、ジャーナリストとしての道を模索する少年の話です。物語の舞台は1960年代。けれども、悲しいかな、言論の自由なしなど今もさほど状況は変わらないかも

短めの日記形式で書かれているので、すき間時間にサクサク読み進めます

暗い苦しい時代だけれど、物語全体に流れている空気はとても爽やかで。ダマスカスの路地やコーヒーの香り、土煙、異国の香りが手に取るように感じられるのも楽しい

日本の昭和初期を彷彿させるような下町人情?肝っ玉母さんがとってもイイんですよね~
男尊女卑の社会にあっても、女性の強いこと強いこと!毅然としていて、その態度に感動
外出禁止令が出るなか、葬式の行列が機関銃も持った兵士に出くわすのですが、そのとき、サリームじいさんの娘さんは、黒いブラウスを破き、こう叫ぶのです。

「葬列を通しな。撃つんならわたしをやりなよ!」

また、ほかの女たちは道端の石を拾い、

「わたしたちはあんたたちの姉さんや妹や母親だよ!」

と叫ぶ。この気迫。兵士を追い払ったのは、男たちではなく、石を持った勇気ある女たちだったんですよねえ。

語り部でもあるサリームじいさんをはじめ、登場人物たちがみなイキイキとしていて、シリアがぐっと身近になります。内戦だけじゃないんです。そこには、人々が生きているんです。

環境のせいにせず、自分の道を切り開いていく主人公が実に清々しく、シリアに興味がなくても、進路に迷っている人、仕事関係で悩んでいる大人にもおすすめ

また、あわせて読みたいのがコチラ↓



『弟の戦争』ロバート・ウェストール作 原田勝訳 徳間書店

こちらは、湾岸戦争を取り扱ったもので、以前詳しく紹介しました(そのときの記事はコチラ)。
最初に出したセーブ・ザ・チルドレンの動画同様、イラクの人の状況をイギリス人に置き換えることで、戦争について考えさせてくれる名作

なぜ、この物語がイギリスで、子どもの選ぶ賞複数受賞し、子どもたちから支持されているのか。子どもたちは、言葉にしなくても薄々大人の欺瞞に気付いてるからなんですよね。

今この時期だからこそ、読みたい二冊です。

とがった時期に『14歳、ぼくらの疾走』

2017-04-12 09:46:37 | ドイツ文学


週末は家族+里子ちゃん(児童養護施設の子のフレンドホームやってます)で、雨の桜木町へ。

JK(女子高生)の里子ちゃんには、本当は原宿行きたいって言われてたのだけれど、時間の制約もあって横浜どまり。桜木町、名前の通り桜が多い!頭の中に、山崎まさよしの“One more time, one more chance”が流れてくる世代の私。色々思い出すわあ・・・

ランドマークタワーの本屋に入れば、じゃん↓



『英語は3語で伝わります』中山裕木子著 ダイヤモンド社 

仲良しのお友だちの著書が平積み!『世界一受けたい授業』という番組に出たこともあって、週間ベストセラー1位ですって

留学時、いっぱい一緒に楽しいこと、くだらないことした仲間。そして、何より夜中に飲んで食べて一緒に太った食いしん坊仲間(笑)。
彼女見てると、私も色々言い訳しないで、好きなこと突き進んでいこう!って思わせてくれる。分野違えど、常に刺激をくれている大好きなお友だち

さて、大の本好きだった里子ちゃん、高校入ってからは全くって言っていいほど読んでないそうです。でも、それもいいよね。ほかに夢中になるものがあるってことだから

今の彼女の傾向を聞いていてると、素直な文学は今は違うのかなー、って思う。
私自身は苦手だったけど(←自分は苦手なのにすすめるんかいっ)、ちょっととがった時期におすすめなのがコチラ↓



『14歳、ぼくらの疾走:マイクとチック』ヴォルフガング・ヘンドルフ作 木本栄訳 
小峰書店 311頁 2013年(翻訳初版) 中学生から 


現代版ハックルベリーと称されていて、学校では存在感なく、さえない主人公マイクと、破天荒なロシア系転入生チックが車を拝借して旅にでかけるロードムービー的な物語。クレイジーな人たちがいっぱい出てきて、言葉遣いも汚いし、そんなところが私自身は受け付けなくて

でも、きれいな世界に飽き飽きしてたり、ちょっと刺激的なものを欲している時期にはいいのかも。ドイツ児童文学賞、クレメンス・ブレンターノ賞、ハンス・ファラデ賞を受賞。

個人的には著者が自殺しちゃったのも残念なんです。子どもの文学書く人としては、やっぱり生き抜いてほしい思いがあって。
先日紹介した『ロス、君を送る旅』(そのときの記事はコチラ)の作者のようにね。

男子にもおすすめの一冊です。