『今日の一冊』by 大人のための児童文学案内人☆詩乃

大人だって児童文学を楽しみたい、いや、大人こそ読みたい。
ハッとする気づきのある絵本や児童文学をご紹介♪

雪の夜は時空を超えて

2018-01-22 22:53:26 | イスラム世界


『月夜のチャトラパトラ』(2009年)新藤悦子著 講談社


関東は初雪ですね。我が家の子どもたちは、お椀を持って外に飛び出していきました(笑)。そして、戻ってきてメープルシロップをかけて、美味しい美味しいと。大草原の小さな家ローラシリーズの『大きな森の小さな家』思い出すなあ。

「どんよりと低くたれこめた雲から、はらはらと白いものが舞いおりてきた。この冬はじめての雪だ。」(P.7)


雪が深々と降る今夜ご紹介するのは、こんな一文から始まるトルコのカッパドキアが舞台の『月夜のチャトラパトラ』。優しい気持ちになれるファンタジーです。

以前も『青いチューリップ』のときにも書きましたが、私ね、日本人が外国舞台の外国人主人公の物語を書くのって違和感覚えてたんです。でも、新藤さんが書くとすーっと入ってくる。こちらの物語は、なんとトルコ語に逆翻訳されたんだとか。でもね、息子が兵役に取られて、村の女性がふさいでる場面は、トルコ語版ではカットされているそうです。兵役にネガティブな印象抱かせてはいけないから・・・。

さて、物語。チャトラパトラという何ともかわいらしい響きは、トルコ語で〈でたらめにしゃべる〉という意味なんだとか。主人公カヤ(12歳)にしか見えない小人たちがの名前です。カヤが住んでいるのは洞窟ホテル!もうそれだけで、ワクワク。そして、出てくる食べ物にもワクワク(笑)。ブドウの果汁を煮詰めて作ったペクメズ、そして、ペグメズを入れて飲むチャイ・・・ああ、飲んでみたい。ペグメズには不思議な力があるんですよ。

そんな観光オフシーズンの洞窟ホテルに泊まっているのは、日本人画家のヨーコとフィンランド人の若き考古学者ミッコ。ミッコは、世界に三冊しかない本がこのホテルにあると聞いて、やってきます。一体それはどんな本なのでしょう?チャトラパトラの秘密とは?カヤの秘密とは???

すんなりと時空を超えて、別の国へと連れて行ってくれる物語。カッパドキアならありうると思わせてくれる。日常の延長線上にあるファンタジー。

ところで、物語の中にね、みんなでマントゥと呼ばれるトマトソースで煮込んだ小さな水餃子のようなものを作る場面があるんです。雪で、行くはずだった探索ができなくなり、何か代わりになるイベントを・・・ということで、宿の女主人が思いついたのが、みんなでマントゥを作ること。水餃子のようだれど、小さく小さく作るマントゥ。こういう場面が何とも言えずいいんです。共同作業って、心の距離が縮まる。みんなで作るの楽しそう!

さてさて、何回も書きますが、そんな素敵な物語を書かれた新藤悦子さんを2月25日(日)に鎌倉にお呼びしますよ~!ぜひぜひ、観光がてらいらしてください!!
一部はNPO主催なので無料。二部は少人数限定なので、迷ってる方はお早めに♪

【第一部】
『イスラム世界を物語る - 絵本・児童文学から見る暮らしと文化 -』
13:00-15:00@鎌倉市中央図書館多目的室 参加費無料

※ こちらは、私も所属している図書館とともだち・鎌倉主催なので無料です!

【第二部】
『作家・新藤悦子さんと過ごすイスラムの食と織物の夕べ』

10名限定で新藤さんと食を囲みながら過ごすプレミアムな夕べですよ~。とっても、贅沢な時間!こんな機会めったに持てないので、これは早く予定押さえておいてくださいね。

場所は鎌倉市内の某所(参加者に直接お知らせします)。
17:00-20:00(参加費:4,500円)でトルコ家庭料理のミニ料理講習会付きです。

ご興味のある方は下記問い合わせフォームからお願いします↓

大人のための児童文学

価値観がガラガラと崩れていく

2017-12-19 19:01:44 | イスラム世界


『となりのイスラム 世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代』(2016年)内藤正典著 ミシマ出版

今日の一冊はコチラ。物語ではなく、中学生以上向けのイスラム解説本です。JPIC読書アドバイザーの宿題の一つに “書評”があるのですが、こちらの本を選びました。

これ、すごくイイです!!!イスラムの歴史から、なぜ今西欧社会でこれほどまでに衝突が起こっているのかが、とても分かりやすい言葉で書かれています
しかも、机上の空論ではなく、著者の内藤氏が実際にイスラムの世界に足を何度も運び、彼らの声を直接聞くという、徹底したフィールドワークに基づいているんですね。だから、他のイスラム解説本とは一線を画し、説得力が違うんです。

とはいえ、日本人にとってイスラムと言っても馴染みがない人がほとんどですよね。2020年の東京オリンピックに向けて、イスラム教徒の人たちが食べられるハラルフード対応に追われているらしいとか、なんだかテロが続いて怖いぞ、くらいの認識の人が多いのが現実じゃないでしょうか?

多くの日本人にとっては、まだまだ身近ではない。(一部の視野の狭い人たちは、ここぞとばかりにモスクに脅迫状を送ってりもしたようですが
自分に関係ない、差し迫った問題じゃないと思ったら、こういう本手に取らないだろうなあ。ほかに読む本いっぱいあるし。

それでも!!!
強くおすすめする理由は、自分がいかに偏見に満ちたフィルターを通じて物事を見ているかに気付かされるから。自分が当たり前だと思ってた価値観や常識がガラガラと音を立てて崩れているから(これ、相当ショックです)。
そして、何よりも、相容れない価値観の人との共存の道が描かれているからなんです。相容れない価値観の人との共存・・・実は家庭や職場、学校などすべての人間関係にも通ずるものなんじゃないかな、って。だから、読んでほしいんです。

先日、トランプ大統領がエルサレムを首都認定しましたね。
まっっっっっっっっったく、このアホーーーー!!!!!って憤りましたが、それをほとんど報道しない日本のマスコミも終わってるな、って。第三次世界大戦につながる可能性もあるのに。

もう西欧の価値観が世界を支配し、啓蒙できるという考え方は幻想なんだ、ということがこの本を読むとよく分かる。
この本読んだら、キリスト教とイスラム教に対する印象が逆転する人も出るかもしれません(私はそう)。

なぜ、平和なはずのイスラムから、『イスラム国』という“病”が生まれてしまったのか。こちらから、歩み寄り理解しなければ平和への道はない。
まず、価値観の違いをきちんと認識し、相手をリスペクトして受け入れる。
神から離れることで「自由」を獲得していった西欧社会、神の下にあることで「自由」を得るイスラム世界。

平行線のように見えるけれど、共存って可能なんです。だって、昔のイスラムはユダヤ教ともキリスト教とも兄弟関係にあって、友好関係にあったんですもん。以前もおすすめした、こちらもあわせておススメ↓



読了後は、なんとなく怖いと思っていたイスラム世界が、身近に感じられることでしょう。
自分の物の見方をもう一度考え直すきっかけになる良書です。


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弱者だから見える世界

2017-11-10 14:47:49 | イスラム世界
 



今日は、あわせてよみたいコチラの二冊。同じ作者&翻訳者による同じテーマのもので、登場人物にも同じ名前がありますが、続き物というわけではありません。シュクラーンは子ども時代の物語(小学校高学年から)、『もうひとりの息子』は大学生の物語(中高生から)なので、読む順番としては、シュクラーンからのほうがいいかも。

テルアビブ・・・その響きはどんな印象でしょう?
‟以上、テルアビブからお伝えしました”
緊迫した様子でニュースのレポーターが報道している、そんなテレビでの記憶しか私にはありませんでした。なんだかコワイとこ・・・そんな印象。この物語の背景となっている時代も、やっぱり緊迫していて、アラブ人とユダヤ人がピリピリ敵対し合っています。イスラエルと聞くと、離れたところに感じますが、これ中国、韓国と日本の関係に置き換えて読むこともできるんじゃないかな、と思った二冊でした。


■ 知っていると実感する、は違う


個人的には、ユダヤ人迫害の歴史のほうは、結構読んでいたので、その同じユダヤ人がアラブ人を迫害していることにビックリでした。いや、知ってたんですよ、知識としては。パレスチナオリーブオイルとか買ってたときもあって、いかにアラブ人が迫害受けてるか、って色んなところで読んで知っていたハズなんです。でも、実感としてなかったのか、物語として読むと改めて驚きました。

作者のドリット・オルガッドさんは、ナチス政権時にドイツに生まれイスラエルに移民してきたユダヤ人。ユダヤ人とアラブ人の根深い対立を、それぞれの立場から客観的に描けていて、とてもバランスの取れた方なんだなあ。だから、物語がどちらかの正義に立ってるわけではなく、押しつけがましくないんです。それぞれの立場があって、それぞれの理由があるということが、よく理解できる。


■ 世の中を救うのは弱者!?


シュクラーンのほうは、アルゼンチンでの裕福な暮らしを捨てて、イスラエルに移住したお医者さん一家の話。ユダヤ人コミュニティの中なら、アルゼンチンにいたときのように、肩身の狭い思いをしなくていいだろうという両親の決意とは裏腹に、影で同じユダヤ人からいじめられる子ども。移民の子の苦労が伝わります。

そんな中、唯一自分によくしてくれたのが、逃げた先にいたアラブ人のハミッドなのでした。ガブリエルは、彼の友情がありがたくてありがたくて、その後も探すのですが、アラブ人と仲良くしたがるユダヤ人なんていないので、ハミッドも躊躇します。民族対立って一体なんだろう?ガブリエルは、いじめられていた弱者だったからこそ、曇りのない目で見れたのかも。

『もう一人の息子』のほうは、アラブ人に息子を殺されて以来精神を病んでしまった老女が、自分の下宿希望で訪ねてきたアラブ人の医学生を、なぜか自分の息子と思い込み、二人の間に温かな交流が生まれる話。物語が苦手な夫でも、サクサク読めました!ただ表紙が手に取りづらいかも・・・?原作はこんな感じ↓



ちなみに、同じタイトルの映画がありますが、この本はその映画の原作ではありません。↓



映画のほうは、アラブ人とユダヤ人の赤ちゃん取り違え事件。我が子として育てて来た子どもが、敵の子どもだったら?という同じようなテーマを扱っていて、こちらも見てみたい!

どれにも共通しているのが、偏見なく見れる目を持っているのが、弱者という立場の人なんですよね。女性や子ども、社会から疎外されてる人に多い気がします
。一口に子どもといっても、ガブリエルをいじめる子たちは強者なので、目はバリバリ曇っているけど。自分が強い立場にいるときは、偏見メガネかけずして、世の中を見れないものなのかもしれない。そういう意味では、最強なのは弱者。

世の中を救い、平和に導くのは弱者なのかも。そんなことをこの二つの物語を読むと思わされます。

希望がないと感じたら、これ読んで!

2017-10-17 12:47:23 | イスラム世界


『イクバルの闘い 世界一勇気のある少年』(2004年)フランチェスコ・ダダモ作 荒瀬ゆみ子訳 鈴木出版
Storia deiIqbal,2001

今日の一冊は、大スキ!鈴木出版の‟この地球を生きる子どもたち”シリーズから。このシリーズはホントおすすめです

こちらは、児童労働という重い重いテーマで、中身も暗いし、読んでいて胸がぎゅーっとなります
それでも!!!読んでほしいと思うのは、何か自分にもできるのではないか、という希望や勇気をもらえるから。こんなにヒドイんですよ!?どうしてくれます!?っていう批判めいていたり、責め立てるようなことはありません。

«『イクバルの闘い』あらすじ》
パキスタンの絨毯工房で、奴隷のように働いている、見捨てられた子どもたち。誰も夢を見ることをしなくなっていたところに、新しくイクバルという少年が入ってくる。イクバルは機織りの名手。それなのにご主人を転々としているのは問題児だったから・・・。イクバルは恐れない。どんな強大な相手でも立ち向かう。いそんなイクバルの姿に刺激を受け、子どもたちの意識は徐々に変わっていく。ある日イクバルが事件を起こして・・・。
実在した少年を元に描いた勇気と希望の物語。小学校高学年から。

以下ネタばれも含まれますので、自分で読みたい方はここまでで


■ 読了後は心の友に


この表紙!イクバルの深い優しさと、立ち向かう勇気と決意に満ちた目。吸い込まれそうです
ただ、この表紙を見て手に取ろうと思う子は少ないだろうな。手渡さないと読まれない部類かもしれません。ちなみに原書の表紙はこんな感じで、パキスタンの絨毯模様が素敵・・・なのだけれど、この物語を読むとその素敵さの中に悲しさも感じます↓



日本版のほうは、陰鬱な状況を物語るような暗い表紙なのですが、これね、読了後は丹地陽子さんによる、この表紙しか考えられなくなります。イクバルは読者の心に住み着いてしまうんです。同年代の子が読んだら、イクバルは心の友になること間違いなしです。


■ 日本とは無関係?いいえ!

パキスタンの絨毯工場やレンガ工場での過酷な児童労働の状況。日本とは無関係に思うかもしれません。でもね、同年代の子が読んだら共感覚える気がするんです。他の国に比べて、日本って学校生活以外の場が少ない。学校だけが世界になってしまっているから、そこにはまりきれない子は苦しくて苦しくて、息苦しくて自由がないと感じてる子が多い。だから、自死の道を選んでしまったり・・・。

確かに日本の子は、労働はさせられてません。でも、自由のない環境での思考停止。それは、児童労働の世界に通じるものがあるような気がするのです。「自分で考えなさい」と言われるわりには、大人の考えに従い、いい子であることが求められる。集団の中で、はみ出さないこと、空気を読むことが求められる。これでは、感情や思考が鈍くなっていきますよね。


■ イクバルは一粒の麦


イクバルは何度か逃亡を試みますが、警察に駆け込んでも警察すら工場主から賄賂をもらっているので味方ではないんですね。絶望・・・という言葉がよぎりますが、イクバルは希望を捨てません!偶然町で出会った、児童労働解放戦線の人たちのところに逃げ込んで助かるのですが、そこからのイクバルの活躍がただただ、感心するばかり
実話が元なので、イクバル・マシーのことはWikipediaにも詳しく出ています(コチラをクリック)。

自分さえ助かれば、じゃない。身の危険を犯してでも、イクバルは他の子どもたちの解放に奔走するのです。イクバルは児童労働解放の象徴となり有名になってしまったので、マフィアに狙われる。それはもう、ハラハラすることの連続。国際社会から評価を受け、やっと守られた、やっと故郷に帰れた!と思ったところで・・・イクバルは殺されてしまうのです。こんなのってあり?

でもね、そのとき聖書のとある言葉を思い出したんです。

一粒の麦、地に落ちて死なずば、唯一つにて在らん、もし死なば、多くの果(み)を結ぶべし。(ヨハネによる福音書12章24,25節)


悲劇には違いない。
でも、彼の死を通じて、その後何千人のイクバルが誕生した、と言われています。
有名な組織フリー・ザー・チルドレンも、イクバルに感銘を受け、当時12歳で同い年だったカナダのクレイグ少年が立ち上げたもの。イクバルの死は、たくさんの果を結んだのでした。

どんな状況でも夢を見ることができる。希望はある
息苦しいと感じている、日本の子どもたち、大人たちにもぜひ読んでもらいたい一冊です