『今日の一冊』by 大人のための児童文学案内人☆詩乃

大人だって児童文学を楽しみたい、いや、大人こそ読みたい。
ハッとする気づきのある絵本や児童文学をご紹介♪

課題図書『ホイッパーウィル川の伝説』

2017-08-23 08:37:54 | ファンタジー:アメリカ


『ホイッパーウィル川の伝説』(2016年)キャシー・アッペルト&アリスン・マギー共著 
吉井知代子訳 あすなろ書房

MAYBE A FOX,2016

今年度2017年の中学生の部の課題図書。
課題図書は毎年、う~ん、となってしまうのですが、これが選ばれたことはちょっと驚き。身近な人を亡くすというテーマがよかったのかしら?

【『ホイッパーウィル川の伝説』あらすじ】

ヴァーモントの神秘の森でくりひろげられるスピリチュアル・ファンタジー。
12歳の姉のシルヴィは、走るのが大好きな学校一のランナー、11歳のジュールズは、石に惹かれる「石ガール」。幼い頃に母親を発作で亡くした仲良し姉妹には、パパ憲法と呼ばれるパパとの約束があった。そのうちの一つが、奈落の淵には近づかないこと。でも、その危険な場所は、願いごとをかねてくれるかもしれない〈願い石〉を投げ込む特別な場所でもあって・・・。
ある雪の朝、ジュールズの目の前から森へと走り出したシルヴィは、そのまま姿を消してしまいます。奈落の淵の前で、不穏な足跡だけをのこして……。シルヴィの秘密とは?ふしぎな力を持つキツネ「セナ」の物語と、ジュールズの物語が交差し、やがて一つになる幻想的な物語。



表紙絵に惹かれたのと、作家二人による合作のスピリチュアルファンタジー、とちょっと異色なこともあって、前々から興味はあった物語。日本版の表紙イラストは伊藤彰剛さんによるもので、物語の世界観がよく現れてると思う。原書はこちらだもの↓



とてもとても悲しくて切ないお話です。でも、お涙頂戴をねらってるわけでもないところがいい。
‟どうして?なぜ!?”という激しさや怒りもあるけれど、それよりも印象に残るのは、心の奥底にズンと沈み込むような静かな悲しみ。

でもね、大自然そして人智を超えた大きな存在に包み込まれているせいか、凛とした美しさと透明感がある。悲しいのだけれど、人間関係だけで終わってないの。もっともっと大きなものの中に点として存在する人間、めぐる魂。輪廻転生的なものなので、日本人にはしっくりくるんじゃないかしら。

エルクとピューマの関係ももっと描いてほしかった、という思いもありますが、想像の余地を残しておいてくれたのかもしれません。
身近な人の死は、遅かれ早かれだれにでも訪れるもの。そして、悲しみも逃れられないもの。亡くなった人の魂が時には、そばに寄り添っていてくれることを知ることは、大きな慰めになるのではないでしょうか。
ぜひ、一度読んでおきたい一冊です。石好きさんにもおすすめ!

しかし、なあ
これで読書感想文はキツいなあ。元々読書感想文書かせるってこと自体に疑問を感じているのですが、こういう物語に関しては特にそう思う。ぱっと感想が出てくるようなもんじゃないんだな。それぞれが、何かを感じて、長い時間をかけて温めていくような類の物語なのです。

だからね、ネットで『ホイッパーウィル川の伝説』感想文攻略、とか感想文書き方のコツ、っていうサイト見つけるたび、げんなり。読んだ人を放っておいてあげて~、という感じ。

森の感じや、以前と同じではいられない帰還兵の複雑な心境、『この森で、天使はバスを降りた』(1996年)という映画をちょっと思い出しました。この映画もおすすめです!↓


スノ-グース

2017-01-14 21:16:15 | ファンタジー:アメリカ


『スノーグース』ポール・ギャリコ作 矢川澄子訳 王国社

今年は暖冬だなあと思ってたら、今日から突然寒波が来ましたね。鎌倉でもちらちら雪が舞ってきて、ちょうど読み終わったこの本の表紙がぴったりな日です(え、ギャリコなら『雪のひとひら』読めって?)。

ポール・ギャリコの本は児童書コーナーにも一般コーナーにも置かれていて、線引きが難しいと言われている作家。『スノーグース』はギャリコの初期の代表作(短編)で、動物との関わりを描いた短編が他に二篇入っています。詩情溢れる美しい文章で綴られ、静かな感動を誘います。純粋な愛、ひたむきな愛。

≪『スノーグース』あらすじ≫
見かけの醜い孤独な画家のラヤダーは、大沼のそばの燈台小屋に住み、野生の鳥たちだけを友だちにひとりっきりで暮らしていた。そこへ傷ついた白いグースを抱いた少女フリスが燈台を訪れ、ラヤダーとひそやかに交流していく。しかし、ある日、ラヤダーはドイツ軍に包囲されたイギリス軍を砲火から救うために、小さなヨットで海峡を渡り、海へと散っていく・・・。


本って出会いの時期ってあるよなあ、とつくづく思うのです。多分、この本は学生時代に読んでいたらとても感銘を受けていただろうな。「え、スノーグースみたいな名作な良さ分からないの?それで、児童文学好きとか言っちゃう!?」と言われそうですが、正直“今の”私には内にまで響いてこなかったんですよね・・・。頭では分かるんです。あ、名作だな。本好きにはたまらないだろうな、胸を打つ人たくさんいるんだろうな、って。でも、悲しいかな、字面を追ってるだけで、私自身は心かき乱されるところまでいかなかった。

ところで、絵本版も出ています↓


アンジェラ・バレット絵 片岡しのぶ訳 あすなろ書房

暗くも美しいこの物語の世界観がよく表れている絵本だと思います。翻訳の違いを楽しむのもいいかも。ところがですね、図書館だとどこにこの絵本置かれてると思います???鎌倉の場合は、なんと一般コーナー芸術・漫画の棚です!最初からこの本目当ての人以外には手に取られにくい=出会いにくい場所!こういう分類になるんだ・・・。確かに子どもの絵本の棚に並ぶ本ではないかもしれないけれど・・・うーむ。

心かき乱されるところまではいかなかった、と感じたのですが、不思議なことに時間がたつとジワジワきています。人間の誰もが心の中に持つ、美しい部分に訴えかけてくる物語

クモへの印象が変わる!『シャーロットのおくりもの』

2016-07-18 05:26:40 | ファンタジー:アメリカ


『シャーロットのおくりもの』E.B.ホワイト作 ガース・ウィリアムズ絵 さくまゆみこ訳 あすなろ書房

あまりにも有名だったりするとなんとなく今さら読めない・・・なんてことありません?ん?私だけ?

今回読んだ『シャーロットのおくりもの』もそんな感じの本のうちの一冊。2006年に映画化もされていたので、この物語が1952年(!古っ!)に書かれた古典だと知ったときはなんだかちょっと意外でした。挿絵は『大草原の小さな家』シリーズでおなじみのガース・ウィリアムズですよ~。

≪『シャーロットのおくりもの』あらすじ≫
小さくて弱くてできそこないのブタとして生まれてきたウィルバー。農場の娘ファーンのペットとなり幸せな日々を過ごしていたものの、大きくなってしまったので、知り合いの農場に移されます。そこで友だちになったのがクモのシャーロット。ハムにされるウィルバーを救うため、シャーロットが考え付いたこととは、そして起こった「奇跡」とは・・・。


ブタはともかく、クモにスポットライトが当たるところがユニークだな~、と。クモって苦手な人が私の周りには多くて、ここ鎌倉では巨大な家グモがいっぱいいるので、「うぎゃー!」ってよく叫ばれます。私自身はムカデとゴキはどうしてもダメだけれど、後は・・・慣れました。ゲジゲジなんかは見た目があれなので、「きゃっ!」ってなるけれど、害がないので箒とチリトリでさささっと外に出ていただきます(強くなった、私)。クモも決して得意ではなかったけれど、私の天敵ゴキを食べてくれるという話を聞いて以来、じゃあ、いてもらったほうがよい・・・?なんて目で見れるように。とはいえ、やっぱり好きではありませんでした

そんなクモが活躍するこの物語。何が意外って、クモに気品があることですよ!私教養がないので、勝手にあのグロテスクなイメージから男性をイメージしてたら、そもそもフランスなどでは女性名詞。信憑性が薄いのでプロフェッショナルな人は引用してはいけない、と言われているWikiediaを平気で引用しますと(笑)、もともとギリシア神話にでてくるアラクネーという優れた機織り手の女性が蜘蛛に姿をかえられたのが語源だそう。

ほかの家畜たちがにぎやかでちょっとお馬鹿さんに映るのに対し、このクモのシャーロットは実に品があって、優しくて、なんというか包容力があるというか慈愛に満ちているというか・・・とにかく素敵なんです。まあ、あれだけ素敵なレースを編めるのだから、外見はどうあれ中身は素敵な人(クモ)じゃなければ織れないかも、とちょっと納得。そして、ちょうどこの本を読んでいるとき借りてきていた絵本もクモに関するもので、そのシンクロにもびっくりしたのですが、その絵本は後日紹介しますね。

大人になってから読むとなかなか素直には読めないかもしれません。以前ベジタリアンだった私は、そんな、ウィルバーが殺されないようにって願ってウィルバーが救われたことを喜びながら、今晩も食卓に豚肉が並んじゃうんでしょ・・・!?とつい思ってしまいます

子どもが読めば純粋に感動すると思います。そして、お別れ、死について強烈な印象が残ると思います。核家族化で死が身近でなくなってしまった今の子たちにこそ、この物語は必要かも。私も子どもの頃に出会っていたかったなあ。

それにしても、クモに対する印象が全く変わってしまいました!以前卵のう(たまごぶくろ)を抱えた巨大なクモが我が家の網戸外側に張り付いていたことがあるんですね。「虫捕る子だけが生き残るのよね?」と理性で興味を持ちつつ、子どものために写メをパシャリ。けれど、感情的には「うう、気持ち悪っっ」が本音でした。しかーし!この本を読み終えた後では、ちゃあんと感情も「おおおお、卵のう」と感動しちゃいそうです(←単純)。

いや、でもすごいですよね。本一冊で見えてくる世界が変わっちゃうんですから!大人の小説はあまりにも人間世界に限られ過ぎていて、こうはいかない。やっぱり好きです、児童文学。では、今日はこれから東京に行ってきまーす

『みどりのトンネルの秘密』

2016-07-09 21:19:06 | ファンタジー:アメリカ

『みどりのトンネルの秘密』アラン・W・エッカート作 デイビット・ウィースナー絵 山田順子訳 岩波書店

もう一つの「ナルニア国」をめざす壮大な構想の物語・・・と帯で歌われているとおり、そんな感じの物語です。

≪『みどりのトンネルの秘密』あらすじ≫
フロリダ半島に広がるエバーグレーズ大湿地帯.ラーラとバーナビーのふたごの姉弟はいとこのウィリアムの運転する小型モーター・ボートに乗って、秘密の水路へと入っていく。水面をおおうマングローブの緑のトンネンをぬけると,そこには影がなく太陽が緑色という異世界が。その国に伝わる予言にはラーラとバーナビーのことが歌われ、3人はその国で命をねらわれ、戦いへと巻き込まれていく・・・


確かにナルニアに似たハイファンタジーです。私自身が冒険ものやハイファンタジーがあまり得意ではないので、あまり夢中には正直なれなかったのですが、好きな子は好きなのかな。冒頭の異世界へ入るまでの部分は非常にワクワクします。まずね、子どもだけでボートに乗る!それだけでなんかもうワクワクしてくるんですよね~。他の人たちが気づいていない秘密の水路、マングローブに覆われた緑のトンネルにフクロウ・・・なんて魅惑的なキーワードたち♪

砂浜に子どもたちがたどりつくと、そこには地下鉄の回転木戸とそっくりな緑色の回転木戸があって、そこから異世界へと子どもたちが入ってしまうわけなのですが、そこは影のない国。たくさんのファンタジーの生き物たちが出てきます。予言によると、「血のきずなにむすばれし三人の者、うちそろって来たり」とあり、その三人が現在君臨している残忍な王さまを打ち滅ぼすとあるのです。以下ネタバレになりますので、これから読みたい方は読まないほうがいいかもなので注意↓

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その三人とはじつはラーラー、バーナビー、ウィリアムではなく、ラーラー、バーナビーと残忍なソーキン王の息子であるドウ王子なんですね。へっ!?ウィリアム関係ないのか~い、とツッコミを入れたくなりますが、名わき役な感じです。ラーラは実はこの国の王女でソーキン王に命を狙われたため、ラーラの母親の女王が回転木戸を通って今の現実世界へと逃げてきた・・・ということなのですが、ラーラは自分が王女だという実感がないまま戦いに巻き込まれていきます。『はてしない物語』の直後に読んだから余計にこの辺の流れが物足りなく感じてしまいます。そして、う~ん・・どうも私、この戦いの場面っていうのが全般的に苦手なんですね。男の子が読めば興奮するのかも。

予言ではソーキン王は“むすめの手にある武器”によって滅ぼされる、とあるのですが、結局ソーキン王を倒した武器がなんだったのか、というところはなかなか面白いです。一見現実世界から持ち込んだパチンコかな、と思わせておいて、実はコンパクトのほうなんです。異界メスメリアには映像というものがなく、水面でさえ影をうつさない。生まれてはじめて鏡に映った自分の姿を見て驚くソーキン王。目の中に邪悪なものを見出し思わずそれに対抗する魔王の力が自然とわきあがってきて、我と我が身を滅ぼしてしまうのです。お、お馬鹿・・・でもこの場面はなかなか考えさせられますよ。真実の自分の姿を知ったときのショック・・・『はてしない物語』の第二の魔法の鏡の門でも己の真の姿を見て逃げ出す人続出でしたもんね。

この本も絶版のようですが、それは分かるような気がするなあ。この手の冒険ファンタジーはちまたにあふれ過ぎてしまったのです。ゲームの世界含めて。陳腐なものになっちゃうんですよね
丁寧な挿絵はとても好きです。掲載されている地図は驚くほど本文とは関係がなくてツッコミを入れたくなるけれど。冒険ファンタジーを楽しめる子には小学校4年生くらいからおすすめ。