皮膚呼吸しか知らない蛙

アスペルガー症候群当事者が、2次障害に溺れることもありながら社会に適応していく道のりを綴っていきます。

発達検査結果アセスメント事例 - 序論 -

2008-11-30 02:23:47 | ウェクスラー知能検査

児童の発達検査におけるWISC-Ⅲの解釈と、成人が実施に至るWAIS-Ⅲの解釈は、解釈の仕方、目的が根本的に異なると個人的には思っています。

発達検査におけるWISC-Ⅲの解釈は、児童の困難となっている主訴への対処法を、種々の要因から仮定し、保護者、教育者、支援員、主治医、心理士などが共通認識のもとにサポートしていくためのアセスメントであり、当事者ではなく保護者が理解できることが求められていると思います。

この序論では、アセスメントレポートのあり方、見方を、Kaufman(1994)やLichtenberger(2004)が提唱しているフォーマットを参考に考えてみます。


<例題(架空の人物像を書き込んでいます)>

・対象児

“小学校通常学級”に通う3年生男児。検査時年齢8歳4ヶ月。
通級・特別支援級・通級・特殊学級など、現状の学習環境を明確に表記。
各検査の影響因を確認する際の一要素となり、全体に反映する。


・主訴
4歳時に高機能自閉症の診断を受けている。通常学級にてスタートしたが、短い時間にしか集中できず、学習面では書きとり、文章題ができない。こだわりが強く、切り替えが難しいためか集団行動が苦手である。自分の思い通りにならない時はパニックを起こす。

この主訴に対する対処法を探るのが発達検査アセスメントの目的であり、教育者・保護者がそれぞれの視点から、客観的に分析することが望まれます。
“書きとりが苦手”と保護者が感じていても、実は“書きとりは出来るが、板書を書きとることが嫌い(ほかの意味がある)”ということもありますので、問題点として目につくところ・頻繁に指摘されるところを簡潔かつ明瞭に書くことが望まれる。


・概要
アセスメントレポートの概要ですので、レポート作成者は一貫した仮説、経過、指導方針を簡潔且つ明瞭に記載。
閲覧者は児童の状態を大まかに把握する判断材料として捉えることを求められる。
ただし、あくまで概要であり、実際の支援の際には「指導方針」「指導結果」「今後の課題」などを参照することが望まれる。


1.背景となる状況
①家庭環境
父親、母親、祖母、本児、2歳の妹の5人家族。父親は会社員。母親は専業主婦。父親は仕事に忙しく、養育は母親任せ。母親は教育熱心。母親は、本児が何度言っても言うことを聞かないことが多く、また祖母の介護、第二子の育児もあり精神的身体的に疲れている。妹は本児のパニックを怖がり、あまりなついていない。

背景となる情報は、WISC-Ⅲ検査結果を解釈し主訴への対処法を考察する際のベースとなる。
重要な項目としては、「学校での記録」、「教師・保護者の面談内容」、「対象児の特徴的行動観察記録」などが挙げられます。この際、「母親によれば・・・」というように誰の視点からの情報であるかを明確にしておくと、より具体的な解釈に結びつけることが出来るようになるので、明確にしておくことが望まれる。

②生育歴及び問題の経過
1)乳児期
出生時、乳児期の身体発達に問題なし。
2)幼児期から小学校入学時
1歳半の時に保育園入園。母子分離をしぶらない子だった。他児とうまくいかず、本児のために加配の保母がついた。2歳時検診で言語の遅れと多動を指摘、3歳児検診では親子関係がよくないと指摘された。小学校入学後すぐに集団不適応が目立ち始めた。

発達の過程で注目すべき要点のみ記載。言語・視覚・聴覚・感覚・運動の問題、主な疾患など。
不登校、園・学校生活での指摘、困難経験について。
医療、療育、特別支援教育、教育相談などの援助サービスを受けた経験について書く。
低出性体重児(超・極含む)は神経学的予後、精神遅滞、脳性麻痺、中枢性疾病の罹患率が高いという学術論文もあります。
難産、出生後の難病等も大きな要素です。
ここに書かれる内容が医学的に疾病と判断するかどうかの重要な要素の1つになる。

③指導開始時までの学習や行動の状態
1)学校での様子
授業中に離席が目立つ。周囲に合わせることができず、遊びのルールを破るなど勝手な行動をとる。友達とのトラブルが多く担任から叱られることが多いが、プライドが高く、自分の行動を抑制されるとパニックを起こし、窓から飛び降りようとするなど危険行為に及ぶこともある。
学習面では計算、理科が得意。板書をノートに書き写すことがなく、ノートはいつも白紙。日記は毎回書いてこない。
図工・体育は苦手。教室移動がある際には、着替え、準備、移動に介助が必要。

対象児の行動を出来うる限り多くの場面で観察し、記録する
基本的にここに書かれる事柄は「集団場面」での行動であることが多く、心理検査時の「一対一場面」での行動との比較対照にもなる。
交友関係、教師(大人、立場上うえの人)との関係、学習に対する自信などが焦点となる。
学習面で様々な困難が認められる場合は、各教科における「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」それぞれの状態を記載。
算数の九九が出来ない。足し算でも繰り上がり算が出来ないなどの詳細が記録されていると対応策が立てやすくなる。
行動面、運動面に困難が認められる場合は、個別に詳細を書くことが望まれる。
教師・支援員にかなりの負担がかかることが容易に予測できるため、なかなか難しい記載事項。

2)家庭での様子
整理整頓が難しく、使ったものはそのままで片づけられない。
未提出の提出物を出したなどと嘘をつくことで母親から叱られることが多い。
母親が忙しくしていることもあり、手伝い・妹の面倒をよく見るが、予期しない出来事、自分の思い通りにならないとパニックを起こす。

最近の対象児の家庭での様子について書く。家庭で楽しそうにしていることや子育ての苦戦などを書く。
学校での言動・行動と家庭内の一貫性・異質性は場における臨機応変さ、使い分け参考になる。
また一貫して褒められ経験がないなどという要素も重要な因子となる。

3)行動・感情などの特徴
電車の系統に非常に興味を持っている。自由時間には駅や線路沿いに頻繁に行き電車を眺めることを楽しんでいるようである。感情はあまり出さないが、パニックを起こすと攻撃的になる。触れられることを過度に嫌がる。

対象児のこだわり、感覚にたいする過敏・鈍感さ、感情抑制力、喜怒哀楽の表出・表現方法、他者との距離や親への愛情欲求など、解釈の際の重要な要素となる。

4)最近、対象児に何が起こったか
父親の仕事が忙しく、ほとんど顔を合わせることがなくなった。以前は対象者を連れて外出していたが、全くなくなった。
母親は接する際にどうしても叱ることが多く、自分からはあまり話さなくなった。

対象児の問題の援助が“今”求められているかについての情報があれば、有用である。進学、転校、帰国、転居、身内の死、病気や葛藤、保護者の離婚、一緒に暮らすようになった家族や親族、友人関係の変化、受験など。
対象者にとって心因的変化要因となることは記載する。



対象児が心理検査や心理相談に至るまでに、これだけの資料を用意するのは相当難しいことだと思います。
実際の現場でこの様なことが行われているかどうかは分かりませんが、本来アセスメントを目的とするのであれば、きちんと支援者が情報の共有が出来るよう進めていって欲しいものです。



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