今日は3年をかけてGLOF(Glacial Lake Outburst Flood)の調査をブータンで行なってきたDr.小森JICA専門家にお越しいただき、CSTの土木科学生と教員に対するレクチャーをしていただきました。
きっかけはJICAニュースで先日の日曜(12日)にティンプーで高校生対象にこのレクチャーをやるという情報が入り、それならCSTでもやってもらおうかと学長に相談したところ是非に、ということになり小森さんも二つ返事でOKという事で開催の運びとなりました。
約一時間のレクチャーで非常に充実した内容でした。私の観点で内容をサマリーすると、
1.氷河後退は18世紀末から進行しており、その主な理由は小氷期(14-17世紀)の終了に伴う気温上昇による。
2.古典的な氷河湖のモデルは見直され、新しいモデルでは飽和含水領域と表面湖水の接触により氷河湖が形成される。
3.古典的モデルではモレーン端の部分が最も水深が深く、決壊により全水量流出を想定していた
4.新モデルではモレーン端では水深は浅く、氷河端で水深が深くなる。実測もそれに合致する この場合はモレーン・ダムが決壊しても流出水量は10%ー30%で収まる
5.決壊の可能性はモレーン端のスロープ角が10°以上になると高くなり、衛星写真分析でも裏ずけられた。
6.スロープ角でブータンの全氷河湖の決壊可能性を評価した結果、決壊危険性のある氷河湖は1ないし2湖に絞られる
7.GLOFの発生確率を時系列分析した結果、近年その発生頻度が増加しているとは言えない
結論; ブータンにおけるGLOFは過剰評価気味で、実際の発生可能性は比較的低いと言える
レクチャーの後、小森さん、学長を交え昼飯を食べながら話をしたのですが、今回のプロジェクトはブータン政府のDGM(Depertoment of Giology and Mine)という官庁が仕切っていて、学長の個人的なコメントでは、そこの次長がやや頭が古いタイプで新旧の世代交代が上手く行っていない様な事も言っていました。ただ、小森さんは発表の中でDGMから同行したメンバー達は調査の経験を積むことで非常にスキルアップしていった、とコメントされていました。科学的・客観的な視点というのは、こういう地道な蓄積の上に成り立っていくのでしょう。
100人以上の土木科学生も今日のレクチャーを真剣に聞き入っていました。日本人が3年間で150日以上も高地に分け入り実地調査した事実は、日本がお金だけ出すような支援をしている訳ではない事の強力な実例として彼らの記憶に残ることでしょう。
小森さん、今日は本当に興味深いレクチャー、ありがとうございました。
残り2週間ちょいでもう出張は無いとあきらめてた中で、最後にプンツォリンの工科大に行けて、思わぬおまけ体験ができました。非常に貴重な一日でした。もっと早くからつながりを作っておくべきだったと後悔もしています。
また、学長やSVのTさんともお会いできて楽しかったです。ぜひ今後もキープオンタッチで、よろしくお願いします。
さて、発表内容をまとめていただいて、こちらも頭の整理が改めてできました。
で、以下いくつか、細くの情報を。
・項目2は、名古屋大の環境学研究科の坂井さんの長年の研究による成果です。なぜ氷河湖ができるか、という根本的だけど解明されてなかった問いに対する、現時点での最も進んだ研究だと思います。すごい人ですよー。
・項目5は同じ科の藤田さんの研究成果。この閾値で篩にかかった湖での現地調査や洪水解析、なんかを組み合わせて行く事で、項目6に書いてあるような現時点での実際に危険な氷河湖の評価を、客観的に行えるわけですね。
あ、それから、僕としてはソレホド「権益拡大」や「煙たい」とは思ってません。他の途上国の色んな部局とおなじく、地質鉱山局もこれから徐々に、ものを客観的に見られる目が育って、冷静に「今、何がもっとも重要か」ということが見えるようになっていく、そして、我々はそれを支援しできる良きパートナーである、と認識しております。
ぜひこれからも機会を作って、工科大や他のカレッジにも何かを提供できればと思っております。
貴重な機会をナメサメありがとうございました!!
CSTの学生は素朴な講義の連続で先端の学術研究に触れる機会はあまり有りません。そんな中、昨日の小森さんのレクチャーは非常に刺激的で新鮮な印象を彼らの中に残したと思います。これを機会に研究者の道を選ぶ学生が出てくるかも... と期待しています。
個人的にはアガシー湖崩壊に伴うヤンガー・ドライアス・イベントと人類史との関係に興味があります。最大のGLOFが人類文明を開始させた?とか...
また、面白い話を聞かせてください、ありがとうございました!