自閉症の女の子に音の読み方を覚えてほしいと思い、「アルフレッドレッスンブックA」を使った話です。
この教本は5線を使用する前の段階が長く作られています。
丸の動きを見て弾いていきます。
そしていよいよ音を読む段階に入ると、ヘ音記号の「ファ」から始まります。
ヘ音記号の書き始めがファの音であるからですが、彼女に何度かそのことを説明するとわかってくれました。
内心そこまでは大丈夫だろうと思っていました。
しかし、そこから先は期待していませんでした。
ところが、ノートにファの一つ上の音を書き、「これ何?」ときくと、あっさり「ソ」と答えました。
そしてもう一度ファを書くと、それも「ファ」とあっさり答えました。
調子に乗り、もう一つ下の音を書いてみましたが、それはすぐには答えられませんでした。
毎回行っていたハンドサインでドレミの順番を「ソソソ、ファファファ、〇〇〇、レレレ」と歌って見せると「ミ」と答えました。
かなり誘導的でしたが、彼女が音を読んだ。信じられませんでした。
翌週、もう一度同じことをしてみました。
しかし、ファもソもミもわからなくなっていました。誘導しても適当な音を言うだけでした。
落胆しました。
その日はノートに同じ音に同じ色を塗る宿題を出して終わりました。
ただ、以前の彼女でしたら、興味がなければ適当に答えることさえしませんでしたので、これは進歩なのです。
2週間後、彼女は復活し3つの音を自らの力で読みました。
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結論としては、音を読むことは不可能だろうと思っています。
「あいうえお」の五十音が組み合わさり言葉になるように、「ドレミ」の音が組み合わさり音楽になることが理解できなければ、何のために音を読むのか意味が解らないので、この抽象的な図形のようなものを読もうとは思いません。
また、2~3個の音が読めたとしても、いつも読めるわけではなく、音を読める日を待っていてはあまりに時間がかかりすぎます。
その間に身に付けられるであろう、聞き覚えや歌に時間を割いた方が余程良いと思います。
彼女にとって必要なことは、ピアノが一人で弾けることではなく、音楽経験を通して人とコミュニケーションを取ること、自分以外の人間の存在を認識すること。
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どこまでのことが出来るだろうと色々と試みる時間が、私には1年必要でした。
自閉症者はこだわりが強く、パターン化したものを見つけ出すのが得意です。しかし、不規則なものに対しての対応は困難に思います。
瞬間的に数がわかったり、形がわかったりという特徴があり、それをどうにか音を読むことに活かせないかと探ってきました。
何度も試してはやり直しを繰り返した結果、この結論に達しました。
自閉症児のレッスン経験がたくさんある先生は、すぐに方針を決められたのかもしれません。
ただ、同じ子供は一人としていないであろうこと、その時の気分で出来る出来ないにたいへん落差があること、年齢が上がると気持ちの成長に合わせて、以前出来なかったことでもそれを受け入れる気持ちになり出来るようになることがあります。
決めつけて進めることはするべきではないと思いますが、私の一つの結論として、音の読み方に関しては困難であろうと思います。
もしやるとしたら、初めから音楽本来の姿のまますることです。
五線の線や間に丸を書く練習などせずに。
様々なことが順を追ってしようと計画立てても、受け入れる気持ちになる時とそうではない時に落差があり、ひとつの線につながるのに時間がかかり過ぎるので、結局つながらないのです。
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実は、10年くらい前に大人の生徒さんで自閉症の方がいらっしゃいました。
お仕事を休職中で時間があるのでピアノのレッスンに通うと。ピアノは初めてではなく、ご経験がありました。
ご本人が楽譜を用意され、これを使いたいと持って来られました。その楽譜は音名が全てふられていました。私も音の読みがこの生徒さんに必要なことではないと思いましたので、それを使いました。鍵盤の位置を知ることと、5本の指を使うことが出来れば、知っている曲はリズムも取れるのでこのように音楽を楽しめるのだな、とその方を見て思いました。
レッスンスケジュールのカレンダーを渡した時に、レッスンが休みの日に❌を付けただけでお渡ししましたら(本当はレッスン有りの日には⭕も付けるのです)、「ここ、丸書いてもらえます?こういうの、ちょっと駄目なんで」と遠慮ぎみに言われました。
症状が軽いと思っていたので、生徒さんが多いと⭕を書く作業が負担で省略してしまったのですが、こういうのはやはり彼にはいけなかったのだと反省。
仕事に復帰できる体調になったので、ピアノレッスンと両方は出来ないと退会されました。
私は前後に生徒さんがいて知らなかったのですが、他の先生からこの生徒さんがお母様と一緒にいらしていて、教室の向かいに映画館があるのですが、そことの間にある椅子でいつも待っていらっしゃると聞きました。
私のレッスンの時には一度もお姿を現されたことがないのですが、色々と気遣ってそうされていらっしゃるとことが察せられました。そして、こうしてずっと静かに見守られていらっしゃるのだと知りました。