おとのくに♪♪

生徒さんのピアノレッスンで感じたこと、考えたこと、コンサートの感想などポツポツ綴っています。

「最後の秘境 東京藝大 」おススメです!

2020年01月28日 | 書籍紹介
この本の存在を以前からご存知の方もいらっしゃると思いますが、私は今年知りました・・

この本には音楽学部と美術学部両方の学生さんの話がたくさん出てきます。
専攻によって人種も様々。
音楽でも楽器によって特徴があるものですが、美術も専攻によって随分特徴が異なるようで興味深いです。

音楽学部のピアノ以外の楽器の学生さんの話が私には新鮮で、自分の中で曖昧な感覚でいたことをはっきりと言ってくれているのがとても勉強になっています。

詳しく書くわけにはいきませんが、バロック楽器を勉強されている学生さんの話で印象的だったことを少し。

「今の楽器は音程が取りやすかったり、・・中略・・進化して、合理化されているんです。バロック楽器はその点・・中略・・楽器が助けてくれません。自分の息で頑張って調整しなければならないことが多いです。でもその分、出せる音色の柔らかさが全然違うんです」

もうひとつ、ああこれだ・・と私がスッキリしたこと。

「バロック音楽は作曲家の感情でも、演奏者の感情でもなく、曲の感情」
「演奏するときは生きたものを出さなきゃって思います。その音楽が最も輝ける形で、生きた状態で生み出したいんです」

私はピアノを習う前からバロック音楽が好きでした。ピアニストになりたいと思ったことはありませんが、オルガニストになりたいと思ったことはあります。
ピアノが上手くなったらオルガンを習えるものかと思っていましたが、いつまで経ってもその時が来ることはなく、あれは特別に選ばれた人しかできないものなんだなと思うようになりました。

バロック音楽にある熱のようなものを生徒に伝えることがいつもうまくいかず、人が持っている感情とは違うエネルギーが何なのかよくわかりませんでした。

この学生さんの「曲の感情」という言葉。
これだ!と思いました。曲自体が持っている感情、エネルギー。そう捉えて良いのだと思いました。

楽器が助けてくれないという話も、なるほどと思いました。

電子ピアノは合理的に作られた楽器で誰が弾いても同じ音で弾けます。
しかしアコースティックピアノはそうはいきません。音は自分で作るのです。
そのために身体の使い方をレッスンで教えているのです。耳が一番の先生です。

楽に弾けてしまうことからは得られないものがアコースティックピアノにはあります。
耳と感性と感覚と頭脳を磨き、研ぎ澄まし、少しでも美しいもの、本物に近付こうとすること。

藝大の教授が「私たちは音楽の末端でしかない。けれど、その末端は本当に美しくなければならない」とおっしゃったそうです。

電車で読んでいてジ~ンときました。

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作曲もあります 生演奏編 1

2020年01月26日 | 不思議な音の国
作った本人に弾いてもらいました。

おそらくテレていたのだと思います。
演奏の前に変な顔、弾き終わってからも変な顔。

撮り直そうと試みましたが弾いている最中まで集中を欠いてきたので、最後まで録画できたのは1回目の演奏だけでした。

弾き方云々は全く出来ず仕舞いでしたが、初めて合わせた記念です。

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倍音

2020年01月22日 | 書籍紹介
「最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常」を読んでいます。

美術学部(美校)と音楽学部(音校)、それぞれの話が書かれています。
著者の奥様は藝大美術学部に通う学生さんだそうです。

この中で音楽創造環境科に通う口笛世界一に輝いた学生さんがこのような話をされています。

「口笛は基本的に倍音が出せません。・・中略・・これ、機械的に作った倍音なしの音です」
スマートフォンからその音を出し、「こういうブザーみたいな音です。凄く味気ない音なんですよね。サイン波っていうんですけど。口笛はどうしてもこういう音になっちゃうんです。単調で、高音寄りで・・・聞き手としては長時間聴きづらいんですよ」

倍音が出せないのは、どれくらい大きな欠点なんですか?

「うーん…教授には楽器として致命傷だよ、と言われちゃいましたけど・・」

「受話器を取った時のプーって音や、信号機のピヨピヨって音もみんな倍音のないサイン波なんですよね」


サイン波なんて知りませんでした・・
調べてみると三角関数と関係しているようで、サイン、コサイン、タンジェントなんてやりました。遠い昔に・・

これが音に関係しているとは全く知りませんでした。
数学の問題を解くためだけにあるのかと思っていました。

面白そうな論文を見つけました。
私にはチンプンカンプンで読んでもよくわからないところだらけですが・・
http://www.math.sci.hiroshima-u.ac.jp/KOUKAI/text-h18/Sound.pdf

この中にこのようなことが書かれています。

『はっきりした高さを持つ音を楽音、そうでない音を非楽音と呼ぶことにします。楽音には際立った特徴があります。それは波が周期的であるということです。』
『楽音は基準音とその倍音に分解できる。』

倍音がなければ楽音とは言えない、と言うことになるでしょうか。

電子ピアノはピアノの音に似せるために様々な波形を合成しているのだと思いますが、とても雑な言い方をすれば、音の高さを変えたブザーを88個並べたものと言えるかもしれません。鍵盤型ブザー?鍵盤型ピヨピヨ?

こんな言い方をしたら開発者に絶対に怒られますが・・

ピアノはただでさえ血の通った音にするのが難しい楽器なのに、それをはじめから放棄しているのが電子ピアノだと思います。

魂を何とか吹き込もうとイメージやテクニック、精神を総動員させる。気持ちを届けたいと思えばピアノは応えてくれます。

そういうものを知ってほしいと思うのです。

ブザーのプレハブ(間に合わせ)で音楽は感じられません。創造することも出来ません。

音が読めて、リズムが分かって、指がたくさん動かせる。
それは何のためにするのでしょう・・
それだけを教えるために私たちはいるのではありません。

ここのところをもっとピアノ指導者は発信していかなければいけないのかもしれません。何を目的にしているか。

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念のためご確認を

2020年01月20日 | 不思議な音の国
生徒さんに人気のこちらの曲。
Handel's Theme arranged by N. Sokolova


こちらの曲の楽譜はアメリカ以外は発送してもらえないのでダウンロードするしかないのですが、印刷されたものより6倍ぐらい高いのです。

ダウンロードの方が安いのが一般的なように思いますが、なぜかものすごく高くなっているのです。
私が購入したのは初期の頃で、この頃はダウンロードしかなく金額は現在と全く違いました。

いつも不思議に思っておりましたので、曲は紹介できても楽譜はお薦めできずにおりました。

先程イリーナ先生のFBの投稿でこのようなものがありました。

Dear teachers from Europe, Canada and Australia.
Lately, the website was acting a little weird charging excessive S&H fees for the book orders. If it happens with your order, please, let me or Malissa Tong know, so it's fixed. So far, I've been manually refunding the extra charges. Hope, we'll nail it soon!

過度の料金をもらっていた。注文に問題があったら連絡してください。返金します。

といった内容です。
ウェブサイトは修正済みともありました。

このヘンデルの楽譜をダウンロードした先生が、31ドルしたけどこれはどうなのか?と質問がありました。
イリーナ先生はウェブサイトを修正したので確認してみてとのこと。

現在はこちらです。
Natalia Sokolova Fantasia on Handel's La Passacaglia Piano Duet with Studio Licence PDF and play-along - Irina Gorin Piano Tales
$26.95になっております。もしこの金額以上でご購入なさった先生がいらっしゃいましたら、イリーナ先生に連絡された方がよいです。



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アシュケナージ引退

2020年01月19日 | コンサート情報
こんな日が来るとは・・

アシュケナージが引退するとのこと・・
なんかジワジワ悲しくなってきます。

私にとってはアシュケナージはピアニストです。
学生の頃、何度も彼のリサイタルに足を運びました。

高校生の頃に買った初めてのクラシックのレコードがアシュケナージでした。
どうして彼を知ったのかは覚えておりません。
たぶんFMでラフマニノフのパガニーニか2番のコンチェルトを聴いて知ったのだと思います。

田舎でしたのでレコードも少なかったのですが、その中にアシュケナージがありました。その時はじめてお顔を知りました。
ショパンのエチュードを買いました。

高校生と言えばショパン。
この年代はショパンに憧れないわけがない!
このエチュードを聴いてアシュケナージも大好きになりました。

正直なところ、リサイタルで聴くとレコードの方が良くないですか?でした。
もっと迫ってくるものがあると思っていたので・・

今ならどんな風に聴けるだろうと思い、昨年の息子さんとのデュオのコンサートのチケットを買っておりましたら中止になってしまいました。
これで聴く機会はもうないだろうと思っておりましたら現実になってしまいました。

アシュケナージのコンサートは何度行ったかわからないくらいあります。
毎年来日され、1カ月かそれよりもう少し長い期間だったか覚えてはおりませんが、毎日のように各地でリサイタルをされていました。
考えられないほどの体力です。

舞台袖から出てこられるお姿がかわいらしくて、お辞儀もピョコピョコして愛嬌がありました。
昔は花束を渡すファンが大勢いて、私も一度だけ渡して握手していただいたことがあります。
楽屋にサインをいただきに行ったこともあります。
とても気さくな方でした。

そんなアシュケナージの演奏で2つ記憶に残っているものがあります。
その一つがyoutubeにあるのを先程偶然見つけました。

東京文化会館の一番上の階で聴いたと思いますが、最初の曲、ラフマニノフの「コレルリの主題による変奏曲」
この最初の「D」の音が目の前までスーッと立ち昇ってきたのです。

アシュケナージは遥か遠くに見えるのに、音は目の前にやってきました。
これは驚きでした。

もう一つは地方の700人程収容の小さめのホールで聴いたショパンの3番のソナタ。
わりと冷静に弾き続けるアシュケナージがこの時は情熱的で、このアシュケナージを待っていた!と初めて思いました。
これが彼の演奏を聴いた最後になりました。

いろいろ思い出すとアシュケナージの引退はやはり寂しいです・・
しかし感謝の気持ちもたくさんあります。
これを書いている間にも時間が戻っていきます。

VLADIMIR ASHKENAZY PIANO RECITAL IN JAPAN May 9, 1985


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子供たちの曲を

2020年01月18日 | 不思議な音の国
マメなのか、暇人なのか・・

不思議な音の国上巻で子供たちが作った曲を連弾曲にアレンジし、それを楽譜にして曲集にしてみました。と言っても、まだ5曲だけの曲集ですが・・




子供たちが作ったメロディーで不思議な音の国の併用曲集が作れたら素敵です
ノンレガートの曲集を誰か作ってくれまいかと思っておりましたが、身近なところに作曲者たちが潜んでおりました・・

まずは作曲者本人に弾けるようにしてもらっているところです。
作ってから時間が経っている子もいるので練習が必要なようで・・
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聴き届ける耳

2020年01月16日 | 不思議な音の国
初めてピアノを習う子供たちに「不思議な音の国」を使うようになり1年9カ月経ちました。

1冊を半年で終えるらしいのですが、私の生徒でその期間内で終えられたのは上巻で2人、下巻は1人もおりません。

進みが速い遅いはさほど気にしてはおりません。この教本でこれからピアノを弾いていく美しい音を作り出す基礎を徹底させることの方が大事です。

私の所には、この教本でピアノを習い始めて初めからアコースティックピアノで練習できている生徒は一人しかおりません。

彼女は昨年10月からピアノを始め、素晴らしく美しく重みのある音とカスカスな音が1曲の中でまだ混在しています。小学1年生ですが、何度もやり直すことが元々好きではないらしく、ご自宅ではお母様が注意するとかんしゃくを起こすので言えないそうです。
どこまで伸びてくれるかは、音楽や音に本当に興味が向くか次第です。私はそうなってくれるように頑張らないと··

さて、彼女以外は全員、電子楽器です。
途中からピアノで練習できるようになった生徒はいます。しかし、初めからこの教本でピアノで練習できている生徒さんは一人しかいないのです。

熱心に練習してくる生徒さんがアコースティックピアノで練習できていたらどんな風になれるだろう、と思うのは本来夢ではないことなのに、現実は夢です。およそ実現することのない··

電子楽器とアコースティックピアノの違いは多々あります。
最近一番違うと思うことは、ピアノは弾いてすぐに音の響きが出来上がらないということです。
音としてまとまるまでに時間がかかります。その時間が音域によって異なります。
低いほど時間がかかります。それによってペダルを踏むタイミングも高音と低音では変わってきます。

生徒さんが弾いてすぐに手首を上げてしまうことが多いと思います。
まだ、音になっていない内に手首を上げてしまうとフニャフニャした音になります。レガートでも弾く前から腕を横に動かしてしまうとカスカスな音になります。

全ての動作は音に反応して行われるものです。
この教本を使ったことがなく初めからアコースティックピアノで練習できている小学5年生の生徒がいます。
グネーシナのピアノのABC とロシア系のエチュードで奏法を直しているところです。よく練習してきますが、彼女でさえ音がまとまったのを聴き届ける耳はまだできていません。

最近レッスンで子供たちの手の上に私の手を置いて「まだそのまま」と言うことが増えました。
上げること、下ろすこと、そのままにしておくことの区別がつけられる道程は遠そうです。

ただ一人だけ、電子楽器で練習していてもその区別がついてきている生徒さんがいます。
ピアノを始めて2年経っていない小学1年生です。

彼女のような子供もいるので諦めずにいようとは思いますが、電子楽器で練習している子供たちにいつまで私は根気強くいられるだろうかとも思うこの頃です。
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ここまで教えられるとは・・

2020年01月14日 | 重力奏法
重力奏法をロシアンメソッドで導入して驚くことが多々あります。

重力奏法は現代のピアノ奏法としては当たり前ですが、これを子供たちにどう教え始めるかを上手く考えたのがロシアンメソッドと私は解釈しています。

もしこの導入法がなかったら、誰でも(指導者)誰にでも(生徒)教えることはできなかったと思います。
現に、このメソッドを始める前までの私がそうでした。

一昨年の春から本格的にこのメソッドで初心者に教えるようになり、このメソッドでピアノを始めた生徒の成長ぶりにはいつも驚かされます。

もちろん全員が同じ速さで進むことはありません。個人差はあります。
ただ全員、これまでの生徒より音の鳴りやなめらかさは格段に違います。
それは初めてのレッスンから音の出し方、身体の使い方、呼吸を毎回どの音に対しても徹底してしているからです。

途中で挫けそうになる生徒もいました。小さい生徒より少し大きな生徒がそうでした。すぐにできない自分が情けなく感じる年齢の生徒には気にしすぎないように伝えることが必要です。

就学前の生徒にはもともと手加減が必要ですので、程々と思われるところまでにしていました。それでも1年半くらい経つと8~12小節の曲でも全ての音に注意を払って演奏できるようになります。

さて、最近驚いていることは、力をどう抜く、どこで抜く、ということをレッスンできていることです。

不思議な音の国上巻と下巻を修了した生徒は力を抜く(リラックスさせる)ことを、鍵盤に手を置く前、鍵盤から手を離す時に必ずします。

この教本の間はそれで十分です。
しかしここから先はそれだけでは演奏できません。

手を離さなくとも力を抜く、弾きながらフレーズの最後に向かって力を抜く、一瞬で力を抜く、そのようなテクニックが必要になってきます。(フレーズの途中のテクニックはもっと先のことです)
これらは空中で手首ダラ~ンとは違うリラックスです。

こんなことをピアノを始めて1年半~1年8カ月という2年も経たない子供たちに教えることになるとは想像もしていませんでした。

ピアノは力を抜くことを知らなければ弾けません。そして、重さを支える肩、指先、身体を支える腰も機能しなければ弾けません。

それらを「不思議な音の国」で徹底して身に付けられれば、上級の生徒でもよくわかっていないことを習得できます。

どのテクニックを使って思う音を作り出すかをこの子たちはこれから覚えていくのだろうと思います。
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カントロフ情報!

2020年01月11日 | コンサート情報
カントロフの来日情報です。

2020年11月16日(月) オペラシティコンサートホール
2020年11月17日(火) ザ·シンフォニーホール(大阪)

kAJIMOTOのワールドピアニストシリーズです。

ワールドピアニストシリーズの発売日は決まっていますが、1回券の発売日は順次ご案内とあります。

曲目は未定になっています。

何の曲でも良いので、あの音を是非生で聴きたいです!!
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ライセンス版について(Edition vol.10)

2020年01月10日 | エディション研究
インヴェンションNo.1を2つのファクシミリ版を基に、原典版・実用版と比べてきました。

楽譜を見ていると時々疑問に思うことに出合います。
「これ、ほんとに合ってるの?」と。

ひとつの曲でも色々な版があり違いがあるのはこれまで書いてきたようなことがあるからです。

自筆譜(ファクシミリ版)の段階で既に解釈が異なる事態が生じたり、何人かの弟子の書いた筆写譜がそれぞれ違かったり、よくわからない実用版を底本にした実用版が作られたり・・

何を資料にして作られたかが校訂報告に明記されている版でしたら信用して良いと思っています。少なくとも原典版にはそれは書かれています。

その校訂報告。英語、ドイツ語またはフランス語で書かれていることが多いです。
私が学生の頃はどの版も全て外国語でした。

しかし、現在はライセンス版なるものが存在し日本語で読むことができます。
パデレフスキー版の日本語が出現した時には驚きました。コルトー版もそうでした。

このライセンス版。なにかと申しますと、その出版社の古いバージョンを譲り受けたものです。譲り受けたは正しくないと思いますが、改定されたものができたので古いものはいらなくなったから使っていいよ、となったものです。使ってよい期間は定められている場合があります。そりゃそうです。心血を注いで新版を作ったのに永遠に古い版が発刊され続けていたら評判を落とします。

インヴェンションのライセンス版はベーレンライターとウィーン原典版があります。

ベーレンライターは、1971年版を全音とヤマハが2010年まで日本語訳で出版する契約を結びました。10年前に切れているので在庫のみです。

ウィーン原典版は元々ショット社とユニヴァ―サル・エディション社の共同版です。
音楽之友社が1970年版の旧版(校訂者:Edwin Ratz/Kari Heinz Füssel)と契約しています。現在、ウィーン原典版は新版のLeisinger校訂が主です。旧版はC-dur,E-dur,F-durの3曲を発刊しているのみです。

要するに日本語訳のあるライセンス版は本家の50年前の版であるということです。
そこをわかって使う必要があります。新版は2005年(ベーレンライター)、2007年(ウィーン原典版)に出ています。
長く新版が作られなかったヘンレは2015年に新版ができたようです。これは知りませんでした。先程調べたらそういうことになっていました・・
そういえば10年位前に、ヘンレが色々な作曲家の新しい版を作り始めたと読んだ記憶があります。

最新版の内容が大きく異なることはないと思いますが、新しい資料が出現して変わったところもあるわけです。指使いを考えた人が変わることもあります。
それでも校訂報告を日本語で読めるのは便利です。

ご興味のない方にはつまんないです・・という内容を10回にもわたり書かせていただきました。
お読みくださりありがとうございます。

実はこの「エディション研究」の内容は、学生の頃に必修の科目だったのです。もう30年以上前になります。
先生が学生に教えるものではなく、毎回学生が調べたものを90分授業で発表する形態で行われた授業でした。先生は発表後解釈のアドヴァイスをされました。

曲は年間で何をやるか決まっていて、それぞれ好きなものを選びました。
校訂報告を翻訳し、すべて手書きで書き、資料として皆が分かりやすいように作って配布しました。
生徒数が少なかったので年に2回発表した記憶があります。
この経験は今も大いに役立っています。自分で調べたり考えたりしたものを形にすること。わかりやすく伝えようとすること。

さて、今回のエディション研究はいったんこれで終了します。
手元にインヴェンションがあと数曲と、他の作曲家のものもあるので、いつかご紹介できたらと思います。

えーっ、また~?なんて言わないでください・・

生徒さんのためにも質の良い楽譜を選びたいと思いますので。
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インヴェンションNo.1 版による指使いの比較(Edition vol.9)

2020年01月08日 | エディション研究
原典版、実用版の指使いを比べてみたいと思います。

最初の所を少しだけ。3小節目をご覧ください。

ベーレンライター(2005年)↓

ヘンレ(1979年)↓

ウィーン原典版(2007年)↓

園田さん↓

ランツホッフ↓


【3小節目】
㋑ベーレンライター、ヘンレ、井口さん、園田さん、ツェルニー、ブゾーニ
㋺ウィーン原典版
㋩ランツホッフ

一番滑らかに弾けるのは㋑グループです。

㋺は意識して歌えると思います。4拍目の「C」で「2」を使うことによりそのあと「5」の指を使うことになります。㋑はスイスイ弾けてしまうので、それを避けたければこのパターンかもしれません。

㋩はモチーフに合わせた指使いです。ランツホッフはこのような視点でフィンガーリングを考えているように思います。

個人的な意見ですが、子供たちにバッハを使うとしたら実用版の方が音楽をつかめるので良いと思います。
ただし、他の実用版を底本とした実用版ではいけません。
原典版を底本としたものに校訂者の解釈が加わったもの。校訂者は明記されていなければなりません。

日本のものでしたら園田さんが校訂したものが良いかもしれません。
私は長くランツホッフを使ってきました。

一人でもう少しやってこられる楽譜の方が良いと思い、市田儀一郎さんのものにした時期があります。しかし、テーマを書いて下さっているので、自分で見つける楽しみが奪われると思い、そのあとインヴェンションを弾かせたい生徒もいなく、どの版にするか考えることもしなくなっていました。

今回、園田さん校訂の版に興味を持ちましたので、全曲弾いてみて良さそうでしたら使いたいと思います。

園田さんで思い出しました。学生の頃、ステージの上で園田さんの平均律Ⅰ全曲の演奏を聴いたことがあります。
授業が終わってからダッシュでホールに行きましたら満席で、園田さんがステージに客席を作ってよいと仰るので近くで聴かせていただきました。
学生たちにとって平均律は常に弾いているバイブルのようなものでしたので、皆詰めかけたのでした。
楽譜を見ながら弾いていらっしゃいましたが、平均律全曲を生で演奏できる人がいるのかとあの頃は驚嘆しました。

おまけ
インヴェンションNo.13と平均律Ⅰ No.1プレリュードの初稿です。
W F Bachのためのクラヴィーア小曲集

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インヴェンションNo.1 実用版比較(Edition vol.8)

2020年01月06日 | エディション研究
曲全体を表にしてみました。



小さくて見づらいと思いますが、ご勘弁を。

楽譜は次のものを選びました。

初稿
清書譜
原典版ーベーレンライター(2005年発行)/ヘンレ(1979年発行)/ウィーン原典版/(2007年発行Leisinger校訂)ペータース版(ランツホッフ)
実用版ー春秋社(井口基成)/春秋社(園田高広)/ペータース版(ツェルニー)/ブライトコプフ(ブゾーニ)

この曲で問題になるのは冒頭と最後だと思います。

【1,2小節目】
自筆譜には初稿、清書譜共にプラルトリラーにもかかわらず、実用版を見ると園田さん以外はモルデントです。
どういうことでしょう・・

井口さんは旋律の動きからこの方が良いと書かれています。
あっさりこれだけの理由でそのようにされています。

モルデントで「A」が聞こえるのと、プラルトリラーで「C」が聞こえるのでは主音に解決する力が全く違います。私には「A」にするともったり聞こえてしまいます。一瞬Ⅱ度のように聞こえ、そのあとⅤ度の進行がなくⅠ度に進むので違和感を感じます。
そのⅠ度さえa-mollのⅠ度かと錯覚します。

子供の頃モルデントで弾いた私にはなんとなくその感覚がシックリきていませんでした。明るいはずなのに暗い・・
今考えるとa-mollかと思ったのに違うんだ、ということだったのだと思います。

【最終小節】
原典版は清書譜はフェルマータがオクターブに見えているだけと判断し、左手は全ての版で単音にしています。

それに対し、実用版はオクターブにしているものが多いようです。
日本の実用版は何を資料にしているのでしょうか・・
もしや、ツェルニー?

市田儀一郎さんの版を生徒に使っていたことがあるのですが、これはベーレンライターを底本にしていたと思います。
原典版と実用版の間という感じの楽譜です。
ディナーミクは書いていません。テーマが書かれているのが特徴です。
テーマは自分で見つけてほしいので、この版じゃない方が良かったなと思いました。

ランツホッフ校訂の版は、譜割りが見やすいので使っています。
同じ音域でもト音記号で書かれるのとヘ音記号で書かれるのでは感覚的に違うのです。ランツホッフはその点が滑らかに感じるように書かれています。シンフォニアも弾きやすく書かれています。

原典版には指使いも書いてくれていますのでそこも参考に選ぶと良いと思います。
ベーレンライターは指使いありとなしがあったと思います。

次回はその指使いを見ることにします。
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原典版は何から作られた?(Edition vol.7)

2020年01月05日 | エディション研究
原典版は作曲者の意図を理解するためのものです。

基本的に作曲者が書いたものしか書かれていません。
しかし、作曲者が書いた自筆譜が読みにくかったり、紛失していたりすることがあります。

原典版は何を資料として作成したか校訂報告に書かれています。

今回はそれをチェックしたいと思います。(J.S.Bachのインヴェンション)
ちょっと疲れる内容です・・
ー・-・-・-・-・-・-・-
【Bärenreiter】
この版の楽譜本体は「新バッハ全集Ⅴ/3巻からの忠実な再録である。
それは1723年のバッハ自筆の清書譜(ベルリンのドイツ国立図書館 mus.ms.Bach P610)を底本とし、1725年のハインリヒ・ニコラウス・ゲルバーの写本(現在個人所蔵)と、1723年頃に別の弟子によって書かれた写本(P219)からの装飾音を「付録」に掲げておいた。

【G.Henle Verlag】
1.1723年のバッハの清書譜(ドイツ国立図書館、ベルリンP610)
2.1720年1月22日から書き始めたW.F.バッハのためのクラヴィーア小曲集(エール大学、ニューヘブン)。W.F.バッハの手によるプレアンブルムe,F,G,a,hの筆写が残っており、プレアンブルムとファンタジアはおそらく1722年か1723年の春までは付け加えられていなかったと思われる。
3.W.F.バッハが所有していたバッハの無名の弟子が1723/24に筆写したもの(ドイツ国立図書館、ベルリン、P219)
4.1725年1月22日にバッハの弟子ハインリヒ・ニコラウス・ゲルバーがライプツィヒで筆写したもの(Gemeentemuseum's-Gravenhage、オランダ)

【Wiener uetext Edition】
A.清書譜、1723年のケーテン時代に書き始めライプツィヒ時代に最終校正した。31枚(17.5×24㎝)
(国立図書館、ベルリン―プロイセン文化所有―メンデルスゾーン資料館音楽部門、Mus.ms.Bach P610)
B.初稿、いわゆる、ヴィルヘルム・フリーデマンバッハのためのクラヴィーア小曲集。タイトルページ:Clavier-Büchlein/vor/Wilhelm Friedemann Bach/Cöthen den/22 Januar/Ao,1720 70枚(16.5×19㎝)
クラヴィーア小曲集は全て揃ってはいない。ファンタジア15(シンフォニア3番)13小節目、ファンタジア15(シンフォニア2番)が欠けている。(ニューヘブン、エール大学アービング ギルモアミュージックライブラリー 分類番号なし)
C.ベルンハルト・クリストフ・カイザーの写本、ケーテン1723年かライプツィヒ1723/1724? タイトルページ:ⅩⅤSinfoniés/pour le Clavecin/et/ⅩⅤ Inventionés/del Sigre/[nachträglich:Joh.Seb.Bach 32枚(15×21.5㎝)
(国立図書館 ベルリン―プロイセン―メンデルスゾーン Mus.m.s.Bach P219)
D.ハインリヒ・ニコラウス・ゲルバーの写本、1725年1月22日の日付とヨハン・セバスティアン・バッハによるいくつかの書き込み。16枚(19.5×31.5㎝)
(オランダ ハーグ音楽研究所 グラーフェンハーゲ Ⅲ/2/bachdoos/n.)
E.ヨハン・クリスティアン・キッテルの写本、1750年。インヴェンション8枚(34.5×21㎝)、シンフォニア(34×20.5㎝)
(国立図書館 ベルリン―プロイセン―メンデルスゾーン Mus.ms.Bach P1067(Inventionen)Bzw.P1068(Sinfonien))
ー・-・-・-・-・-・-・-・-
お疲れ様です。
なんだろう、演奏には関係ないと思いながらもお読みくださりありがとうございます。

ちょっとまとめてみますと、インヴェンションでよく使われている代表的な原典版(ヘンレ、ベーレンライター、ウィーン原典版)は次のものを資料として作成されたと言ってよいと思います。

1723年清書譜
1720年初稿
1725年ゲルバー写本
1723/24年カイザー写本

BärenreiterとG.Henle Verlagでは「別の弟子」「無名の弟子」とされている人物が、Wiener Uetext Editionでは「カイザー」と特定されています。

これらの原本がどこに所蔵されているかも書かれています。

私はPeters版のLandshoffが校訂した原典版を使っています。
Peters版はCzernyが校訂した実用版があり、これは冒頭のプラルトリラーがモルデントになっています。これは間違いです。

なのに、私が子供の頃使った全音はモルデントで、相当長い間この間違った装飾音が頭の中で鳴っていました。春秋社の井口さんの版もそうです。

最初に使う版はよく考えて選ばなければいけません。

次回は実用版を比べてみます。
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インヴェンション No.1 ファクシミリ版比較②(Edition vol.6)

2020年01月03日 | エディション研究
さぁ、お正月ですが、お勉強モードの続きです。

そんな気分ではないという方、新しい年はバッハからスタートするのはいかがですか?
今年はベートーヴェン生誕250年ですが、J.S.バッハは生誕335年、フリーデマン・バッハは生誕310年。バッハたちのイベントはありませんが、そこそこ切りのいい数字です。お祝いしてあげましょう!

では、インヴェンションNo.1の2つのファクシミリ版を比較します。

前回は楽譜全体を載せただけなので、細かいところを見ていこうと思います。
(m.は小節を表します)

【リズム】
初稿


清書譜


基本になるリズムがこんなに違います。

Henle版の校訂報告には、清書譜の3連符はバッハが弟子にこのように変化をつけることができると提示したかったのだろうとあります。
Bäremreiter版は初稿とは別の形として考えるべきだと3連符のものも載せています。
清書譜を見ると3連符の音符を後で書き足した感じがします。音符が小さめで線も細めなので。

清書譜を書いた頃、バッハはケーテンのレオポルト公の下で宮廷楽長を務めるかたわら、多くの弟子を持ち教育活動も盛んでした。
3連符は一種のリズム変奏の例として書き加えたものと考えられます。旋律線の柔らかさや残響時間の短さも考えたのかもしれません。
ー・-・-・-・-・-・-・-
【音】
◈m.19
初稿




左手4拍目ウラの「B」がナチュラルで「H」になっています。これは明らかにミスです。本気で「H」にしたとしたら次に「C」に進行しているはずです。しかし次の音は「A」です。
また、「BAGF」「DCBA」をゼクエンツと見た時にも「B」が適していると思われます。
        
◈m.20
初稿




清書譜




左手の1拍目ウラからの音型が上行形から清書譜では下行形に変わっています。3回連続のほぼゼクエンツに書き直されています。

そのあとは音域が1オクターブ違います。これは、右手と大きく離れていて音域的に問題があるとみて清書譜で書き直されたと思われます。
         
◈最終小節
初稿

清書譜


初稿は左手が単音、清書譜はオクターブ。
これは面白いところです。
清書譜のオクターブはフェルマータがそう見えているのではないかと原典版では解釈し、どの版も単音になっています。
ここの部分は、はっきり言って清書譜はわかりにくい!見えない!
左横にアルペジォらしきものも書かれているので、実用版ではこの記号を付けているものがあります。
ー・-・-・-・-・-・-・-
【装飾音】
◈m.6
初稿


清書譜


右手4拍目のプラルトリラーが清書譜で書き加えられています。
この装飾音の奏法がゲルバー写本にあります。

(初稿の5、6小節目のバスにある書き加えられたような音は長男に説明するために書いたと思われます。ここで通常のカデンツならこう終止すると。Ⅵ度を経過した方が断然良いです。バッハのセンス、素晴らしい!)
           
◈m.20
初稿


清書譜


右手4拍目のプラルトリラー。初稿では書かれていますが清書譜ではよくわからない縦線があります。原典版でもここは書いていないものもあれば、小さく書いているものもあります。

各カデンツのプラルトリラーを見てみます。
m.6 初稿なし/清書譜あり
m.14 初稿あり/清書譜あり
m.20 初稿あり/清書譜?

構成の区切りであるカデンツは統一した方が良いと思われます。
全てプラルトリラーありと考えて良いと思います。
ー・-・-・-・-・-・-・-
以上が初稿と清書譜の違いです。
原典版を見ても疑問だったことが、なぜそうなのかファクシミリ版を見るとわかると思います。自筆譜自体が全て正確というわけではないからです。

改めて初稿の演奏をお楽しみください

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不思議な音の国の子供たち

2020年01月01日 | 不思議な音の国
これまで「作曲もあります」でご紹介した子供たちの曲を連弾曲にしてみました。

作った生徒だけではなく、これから他の生徒たちにも弾いてもらえるからと思ったからです。
どうして今まで思いつかなかったのか・・
これだけでもノンレガートで弾ける曲が増えます。

例によって、Musescoreで作りました。
音をマウスで置いていくと楽譜が作れるうえに演奏もしてくれます。毎度のことながら音質はどうかと思いますが・・

全部で4曲あります。

不思議な音の国の子供たち

「作曲もあります」でご紹介したヴァージョン
OGPイメージ

おるすばん

メロディーは生徒(小1)が作りました。

YouTube

 

OGPイメージ

Chanson d'Aya

メロディは5歳の私の生徒が作りました。 The melody was created by my student(5 yo).

YouTube

 

OGPイメージ

怪盗A

The melody was created by my student (5 yo).

YouTube

 

OGPイメージ

おもいで 3部作

生徒さんが作った旋律から曲にしてみました。

YouTube

 


次回はエディション研究に戻ります。

今年も気の向かれた時に当ブログにお立ち寄りくださると嬉しいです。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
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