おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「利休にたずねよ」 山本兼一

2009年06月14日 | や行の作家
「利休にたずねよ」  山本兼一著  PHP研究所 (09/06/14読了)

 面白い小説は、一行目から面白い。「利休」とは何者なのか。なぜ、茶を飲むという行為を「道」にまで昇華させることができたのか。なぜ、戦国武将たちを、あそこまで茶に熱狂させることができたのか。――何度となく、小説や映画の中で繰り返し取り上げられてきたテーマなのに、一行目から面白い物語が始まる予感でワクワク。

 利休と接点があった人々が、利休とのエピソードを語ることによって、利休とは何者かを解き明かしていく。しかも、利休が秀吉に命じられて切腹するところから、少しずつ、年代を遡っていくので、結末で利休を利休たらしめた原点に辿りつくという構成。まあ、最後は、意外と陳腐(しかも、途中でわかっちゃうし)ではありましたが、見た目は猛々しくも、実は、ドロドロ、ジメジメな男の嫉妬の世界を見事に描きだしていました。

 で、突き詰めていえば、茶の湯とは、現代における「会長ゴルフ」なんですな。ゴルフはゴルフとして立派なスポーツなのに、オヤジ社会のプロトコルとして利用されるようになったとたん、本来のものとは違う性質を帯びるようになる。茶を飲むという行為を、嫉妬を媒介する記号に仕立て上げたという点で、利休は天才でありました。残念ながら、自らも、その罠にはまってしまったのですが…。

 さすがに、現代社会では子会社に飛ばされることはあっても、切腹まではする必要がないのが何よりです。