おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「虎と月」 柳広司

2009年04月09日 | や行の作家
「虎と月」 柳広司著 理論社 (09/04/08読了)

 私が高校生の頃は、ファンタジーノベルという言葉は、まだ、なかったと思う。ま、仮に、その言葉を知っていたとしても、現代文の教科書に載っていた中島敦の「山月記」をファンタジーと理解するほどの読解力は私にはなかったと思うけど。この物語は、その「山月記」を下敷きにしたライトミステリー。著者は、私と同じように、教科書で「山月記」に出会い、その面白さにハマり、全文を暗記するほどに繰返し読んだそうです。やはり、後に名を成す人は、学生時代からタダものではないということでしょうか。

 私は、「山月記」に関して、「年若くして科挙試験に合格した神童が、狂って虎になってしまった話」という程度の極めていい加減な記憶しか持っていませんが、それでも、十二分に楽しめました。高校生の時、「山月記」の面白みを理解できた人、その内容を記憶している人であれば、さらに、楽しめるはず。

 主人公は虎になってしまった男の息子。物心がつくかつかないかのうちに、父親は行方不明となり、「虎になった」と聞かされて育った。十四歳になった今、なぜ父親は虎になってしまったのか、その父親に会うことはできないのか-と謎解きの旅に出る。少年の成長&冒険物語であり、ミステリーでもあるストーリー。最後の謎解きは、漢文の知識が試される、というか、知識がなくても理解できるように書いてあるけれども、でも、漢文の基礎知識があったら、もっと、面白く読めただろうなぁ-という感じで、教養の無さを反省。

 読みながら、少年の成長を見守るような、やさしい気持ちになれる文章でした。しかし、せっかちな私にとっては、やや、冗漫な印象。もうちょっとページ数を減らして、内容を濃縮した方が最後まで飽きずに楽しめるのではないかと思いました。