「吉原十二月」 松井今朝子著 幻冬舎
「物語を読む」楽しみって、こういうことなんだよね―と思う一冊でした。
作者の仕掛けたトリックを見破った達成感とか、深い人生の教訓が得られるとか、「そう、その気持ち解る~」という共感とかも、本を読むことの楽しさの1つだと思う。でも、達成感とか、教訓とか、共感とかいうフックがなくても、面白い物語は面白いんだってことを改めて感じました。物語の世界に引き込まれて、ただひととき未知の世界に迷い込む、それこそが、至福なのです。
おっとりしているように見えて、したたかで、しっかりものの「あかね」。愛嬌があって、はしっこく、直情径行型の「みどり」。その2人が、互いに意識しあい、張り合いながら成長し、やがては二枚看板の花魁 小夜衣(さよぎぬ)と胡蝶(こちょう)となり、年季を迎えて、苦界から抜け出すまでの日々を、舞屋の主人・庄右衛門が語り手となって、物語は展開していく。タイトルの通り、1つ1つのエピソードは、睦月から師走まで季節折々の郭の情景と重なりあい、華やかで、もの悲しく、どことなく湿度感のある吉原の世界を浮かび上がらせる。
物語の始まりに、庄右衛門が「二人は、果たして女子(おなご)の果報に恵まれたか。それとも運拙くして、哀れな最期を遂げたのか」と問いかけてくるので、物語を読み進みながら、どうしても、二人の運命が気になってならない。時に小夜衣に肩入れしながら読み、時に胡蝶の魅力が勝っているように思えたりする。そして、結末に、深く深く納得する。今井今朝子らしい、清々しいフィナーレ。
吉原は完全にanother worldだけど、「女子の果報」とは何か―このテーマは、現代にも通じることなのかもしれない。