おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

初春文楽公演 第一部 @ 国立文楽劇場

2010年01月12日 | 文楽のこと。
初春文楽公演@国立文楽劇場 第一部 

 今年の文楽初め。頑張って5時起きして日帰り強行軍してきました。

【二人禿】
 お正月らしく、羽根つき、手まり遊びなどを織り交ぜながら、可愛らしく華やか。お人形ちゃんは、清五郎さんと一輔さんコンビ。清五郎さんの禿はたおやかでしっとりした所作。一輔さんは、生き生きとして、生気溢れてます。 私の好みは、一輔さんの花のある遣いぶりです♪

【彦山権現誓助剣】

 文楽ハンドブックで予習した時には、「いったい、なんの話???」というぐらい、意味不明なストーリーに思えましたが、実際の舞台は、とっても分かりやすく、エンターテインメント性たっぷり。めちゃめちゃ楽しめました。勘十郎さまの毛谷村六助は、もう、最高!! 大阪遠征の甲斐がありました。

 剣術の腕を封印して、ひたすら、死んだ母親の供養に努める孝行息子六助。親孝行のために宮仕えをしたいという旅人のために八百長試合で負けてあげたり、孤児を拾って面倒を見たりと、前段はいい人キャラ。

 そんな六助のもとに「親子の縁を結ぼう」というナゾの老女や、虚無僧姿の若い女が押しかけてくる。実は、この二人は、六助の恩師である吉岡一味斎の妻お幸と娘お園。お園は、最初は、勇ましい女剣士として登場するのだが、六助の素性がわかると「ああ、お会いしたかった、許嫁の六助さま~」と恋する乙女モードにシフト変更して、突然、押しかけ女房のごとく、甲斐甲斐しく食事の支度を始めたりする。女たちが上がり込んで我がもの顔に振舞う理由が分からず、「いったい、どうなってるんじゃ?」と困惑する六助が、なんとも、頼りなげでカワイイのです。

 最後にようやっと、恩師・一味斎が殺されたことを知り、仇討ちを決意する六助は、男ぶりよく、キリリと格好いい。

 そう、どんな役どころでも、完璧にこなす勘十郎さまのために書かれたようなお芝居なのです。もちろん、猛女から乙女に豹変してしまう簑師匠のお園も、めちゃめちゃカワイイ。なんで、簑師匠が遣われる女の子は、あんなに可憐で、キュートなんでしょう♪

 六助は、日程前半が勘十郎さま、後半は玉女さんとのダブルキャストだったのですが、やっぱり、子弟コンビバージョンで観ることができて幸せでした。
 
 そして、三味線が超私好みの方々が勢揃いで、ますます、お芝居を盛り上げて下さいました。清介さんのセクシーな音色に最近ハマってます。富助さんの柔らかく華やかな音、燕三さんの重厚感のある響き、本当に大好きで、大満足でした。

【壺坂観音霊験記】

 正直、ちょっとこれは酷いなぁと思いました。綱大夫師匠は、私が文楽を見始めた2008年には、既に、身体を悪くされていたようです。昔から文楽を観ている人にいわせると、「かつては住師匠なんて目じゃないぐらい、すごい浄瑠璃を聞かせる人だった。今や笑い薬は住師匠の専売特許だけど、綱さんのは、もっと、笑えた」んだそうです。

 名人の技は、きっとこれからもずっと語り継がれるだろうし、その偉業は尊敬されてしかるべきものだと思います。でも、だからと言って、今、衰えた姿をさらして良いということではないと思うのです。声が出なくとも、床に座ってくれるだけでもいい-というファンもいるかもしれません。でも、多くの文楽ファンは、今日の最高の舞台を見るために5800円を払っているのであって、名人の昔の偉業を懐かしむためにやってきたわけではありません。

 聞いている方がハラハラするほど声が出ず、息が続いていませんでした。私は、床に近い上手側の席だったのですが、それでも、三味線の音に負けてしまって、聞きとれないところがたくさんありました。とすれば、下手の席の方には、もしかして、三味線の音しか聞こえていなかったのではないでしょうか。人間国宝が、観客が「手に汗握らなければならない」ような舞台を見せてはいけません。文楽という芸能を高いレベルに保つためにも、そして、綱師匠の名誉のためにも、誰かが引導を渡してあげないといけないのではないでしょうか。

 こんな床では、人形だってノレないでしょうに-と言いたいところですが、人形も、これまた、キビしかった。特に、興ざめだったのが、お里が沢市を追って、崖から飛び降りる場面。
 
 演出の意図としては、本来、観客がハッと息を飲むべきところなのです。しかしながら、「決死の覚悟で飛び降りる」という緊迫感がまるで感じられない。しかも、飛び降りたあと、のそのそと大道具の裏側に設置されている階段を降りていく文雀師匠の頭がいつまでも見えているのです。

 そうです、私は、たかだか文楽を見始めて2年しか経っていません。お前は、光輝いていた頃の綱師匠も、文雀師匠も知らないだろう-と問われれば、まったくその通りとしか言いようがありません。

でも、私は、今の時点で、最上の舞台を観たいのです。学芸会ならば、一生懸命頑張った子に賞賛の拍手を送ります。でも、私はお金を払って、プロの芸を見に来ているのです。最高のものを見て、心満たされたいのです!