杉浦 ひとみの瞳

弁護士杉浦ひとみの視点から、出会った人やできごとについて、感じたままに。

・北本市いじめ自殺事件判決(2012.7.9)

2012-07-12 01:33:45 | いじめ
埼玉県北本市の中学でのいじめ自殺事件について文科相と市を訴えた事件の判決がありました。


1 本日、平成19年(ワ)第2491号損害賠償請求事件について、東京地方裁判所民事第31部(裁判長は、原告らの請求をいずれも棄却する不当判決を下した。

2 いじめに対する無理解

(1)本件は小学校高学年でいじめ被害を受けており、このいじめの関係性を払拭  できないまま地元の小学校からほとんどの生徒が中学校へ上がるという地域だ  った。

(2)小学校当時のいじめについて認めていない
 6年生に本児と担任との交換日記がかわされていたが、その中にはおびただしいいじめの事実、担任への訴え・SOSが書き込まれていた。しかしながら、「いじめなしの結論」を採用するつもりからか、交換日記の中のいじめの内容を分断して、「この程度のことであれば大したことはない」式の事実認定しかしていない。
 また、時系列に従って、本児のいた時間空間を全体としてとらえようともしていない。遺族父が記者会見で述べたように、1滴、1滴と増えたコップの水が、最後の1滴であふれ出すようないじめについて、1滴は大したことはない、と判断した。いじめを受けている弱者の声に耳を傾ける感性が一切感じられない。

(3)中学に入ってからのいじめも認めない
   本児は中学時代に入り、靴隠し、「きもい」など継続的な悪口、学習自己との入塾を強要する手紙を渡されていたこと、本児が嫌がっているのに席替えがなされようとしたこと、自殺の直前における美術部の本音大会で「タメなのに敬語は使わないで。うざいんだ」と言われたことなど、本児が学校生活の中で苦痛を感じていたいじめの事実について、いずれも「いじめには当たらない」と判断した。このような裁判所の認定は、いじめについて「いじめられた児童生徒の立場で判断する」という観点が全くなされていない。中学1年の本児にとって、心理的ないじめが与える精神的な苦痛は図りしれないことは明らかであるが、そのような接点が全くなされていない不当な判決である。

3 遺書について
  判決は、遺書を自死の原因を具体的に特定する理由にならないとする。
 しかしながら、「クラスの一部のせいかも」という表現の意味が全く理解されていない。いじめを受けている人が残す遺書は、常に一義的に明らかな内容とは限らない。「クラスの一部のせいかも」という表現自体、クラスの一部に原因があったことは明らかであるし、中学校1年生の生徒が自らの命を絶つほどの重大な行為があったことを考えればその表現の意味は重い。そして、交換日記等の証拠から考えても、いじめ以外の理由があるとはとても考えられない。

4 本判決は、原告が国の責任の根拠とする地教行法や地方自治法について「国民の権利利益の保護を直接の目的とするものではない」として、本児に対する法的義務はないとして原告側の請求を退けている。
 しかしながら、文部科学省の政策や通達の影響により、現場でいじめや事故に対する対応がとられていることは紛れもない事実である。例えば、1999年から2005年までいじめ自殺がゼロと報告したことは文科省が主導的に行ったものであり、その後2007年にいじめの定義が変更したのも文科省である。これらの文科省の動きが現場に与えた影響は計り知れない。これにより現場のいじめが把握されなかったとしても、現場の責任は問われても、文科省の責任は問われないことになる。国の施策や対応には責任がないのだろうか。
 また、北海道滝川事件に端を発した流れの中で、本件も報道後に文科省の指示により再調査が行われている。マスコミに対して、本件はいじめはなかった、と報告されている。この調査は、実質北本市の調査期間が1日しかない中で、遺族にも報告されないまま国に上げられ、公表されるに至っており、原告らはその調査の中身がないことの責任も国に追及した。これに対し本判決は、地教行法や地方自治法が、原告らの権利を保護するものではないとして訴えを退けたのである。
 たった1日という期間に、遺族の知らないところでなされた「調査」は、何のための調査であったのか。今回はしっかり調査したと、マスコミにアピールするための調査であったのか。文科省の再調査により遺族が二重の苦しみを受けたことについて、何も判断がなされていない判決である。

5 裁判所の判断は、遺書に、自殺の原因を具体的に書かなければ、仮に児童が登下校中に自殺したとしても、学校は、その自殺の原因についてはおざなりの調査で済ませても構わないと追認したものである。
 いじめ自殺が社会問題化して久しい中、裁判所のこのような判断は、自殺の原因を隠蔽しようとする学校教育機関の姿勢と相まって、いじめ自殺に対する社会的対応を遅らせる結果となっており、厳しく批判されなければならない。
そもそも自殺の原因が分からないからこそ、その原因を学校に調査してほしいにも関わらず、かえって、自殺の原因が特定できないから、学校はおざなりの調査で構わないとする判断は、密室性の壁で守られている学校現場での出来事に対し、裁判所として司法としての責任を放棄したに等しい。

6 今回、裁判所が、原告の請求を全て棄却したことは、原告らが裁判所に強く求めた、前述したようないじめを教育現場から解決するためのいじめ原因の除去と隠蔽の防止を、いじめ防止義務と調査報告義務を教育現場に履行させ、そして被害者の被害と権利侵害に向き合い、人権侵害と被害回復を判断し、二度とこのような事件が起きないことを追求するという、司法本来の任務を放棄したものである。
                                  以上


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4 コメント

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60年程度しか蓄積していない法律 (とおりすがり)
2012-07-17 06:42:36
いじめ無罪判決は、相対性の無視。

先入観や嫌がらせは、ある人間への欠点ばかり探すことで、その人間への長所を探す機会を減らすことである。

欠点ばかり探せば、その人間を悪であると思い込ませることが可能である。

だから、はじめにアイツはワルだと、宣伝した人間を、信用し、いじめや嫌がらせを行う大義名分とする。


しかし、これでは、法律が先入観や根拠のない中傷や、嫌がらせ、つまり、罰を許しているようなものである。

また、もし、これで敗訴すれば、さらにいじめを継続させる要因を作っているようなものである。

したがって、全体の抑止が重要であるにもかかわらず、(いじめを受ける→敗訴→いじめを受ける)この漬け込まれる点を増やしているだけだ。

これが一生涯、常套手段と化するのを抑止せねばならないのに、これを認めてしまう、法律は柔軟性が乏しい。

所詮、60年程度しか蓄積していない法律は非常にばかげた仕組みといえる。

証拠を集める仕組みも重要だが、

柔軟な予測や計算能力も必要に思う。
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いじめは受けた者しかわからない (鬼薊ノビ太)
2012-07-24 16:48:21
「いじめ」は、いじめを受けた者でなければわからない。虐めた方は「いじめている」という感覚が無い。「ふざけていただけ」とほざく。ふざけんじゃねえ。
 そっちは冗談や、からかっているぐらいしか思っていないかも知れないが、虐められている方は、毎日が針の筵に座らせられているような地獄の責め苦を負っているんだ。
 卒業後40年以上も経って、同窓会で、「あんときは、よくいじめてくれたな」と積年の恨み言を漏らしたのに、「え、それなーに、いじめてなんかいないよ、仲良かったじゃない」とケロッとして、のたまった。
 ようやく、世の中には「虐めるヤツ」と「虐められるヤツ」がいて、虐めるヤツの方は虐められるヤツの気持ちが、ぜんぜんりかいできないんだということがわかった。

 教師や役人(裁判官だって役人だ)には、いじめを受けたことが無いヤツがなるんだ、だから、こんな判決が出せるんだ。校長、教育長、文科省の役人、裁判官などは、全部「虐められた経験を持つ」者に限る。としなければ根本的に解決できないだろう。
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北本イジメ (北本イジメ)
2012-09-17 15:44:29
北本イジメ裁判と同じ裁判官による口頭弁論があります。
母親の死後、生前贈与や遺贈が無効であるとして長女が長男と配偶者を訴えた訴訟(平成20年(ワ)第23964号 土地共有持分確認等請求事件)の口頭弁論が再開されます。ぜひお時間を頂きまして傍聴をお願い致します。
日時:2012年10月22日14時~
場所:東京地方裁判所610号法廷
相続裁判は第6回口頭弁論(平成22年5月19日)で結審しましたが、結審後に新たな遺産が確認されたこと等を理由に原告は平成24年7月2日付で弁論再開申立書を提出しました。裁判中には被告が「不見当」としていた遺産の茶道具(李朝染付の花入)を原告の指摘に抗しきれなくなって「普段使いとして日常使用していたものであり、箱もなく、原告主張のような貴重な品であるとは思われず、『不見当』とした」との理由で変遷させました。
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Unknown (まさ)
2014-01-17 02:05:24
北本いじめ事件については、裁判に関する資料も探せる範囲で見ましたが、この裁判官による判決はおかしいとしか思えません。

実は、この裁判を担当したT裁判長。東京地裁に移る直前には、東京高裁での弁準期日において失言をしていました。そして、その当事者が書面にそのことをしたためて提出した直後に、その裁判から外され、東京地裁に異動となったのです。
その裁判についてのブログがあります。以下です。
http://ameblo.jp/thelongandwindingload515/entry-11559986936.html

このブログで書いてある裁判は離婚裁判のようで、妻側が虚偽を申し立てて、第1審では尋問で弾劾証拠まで飛び出し、被告(夫)の全面的勝利となった裁判。別居していながら勝ち取った親権も、控訴審ではT裁判官やその他の裁判官により、なんの理由もなく不当な判決を下します。

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