荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『呉清源 極みの棋譜』 田壮壮

2007-12-04 16:59:00 | 映画
 田壮壮の新作『呉清源 極みの棋譜』は、中国出身で戦前・戦後と日本にて活躍し、現在も小田原市でご健在であられる、囲碁界の不世出の天才・呉清源氏の若き日の苦悩を描いた作品だが、これがなんとも惚れ惚れするような素晴らしい作品となっている。

 中国第五世代の監督といえば、デビュー当時の華やかさに比べて、陳凱歌は作家主義の悪しき症例と成り下がり、黄建新、張藝謀はもはや「何をか言わんや」であるから、下野と隠遁を強いられた田壮壮が、最も手が汚れていないというか、自分自身であり続けているように思う。また、第六世代やそれ以後の映画作家たちへの物心両面での援助を、田壮壮が行っているというではないか。上記の第五世代の人々の中にあって、とりわけ才能に恵まれていたわけではないが、生きる姿勢みたいなもので圧勝している。

 本作で特筆すべきは、戦前日本をとらえた、危ういほど美しい撮影であり、「昭和ブーム」とやらに沸く現代日本の有象無象は、外国人監督・田壮壮とそのスタッフが怖ろしく繊細な手付きで作り上げてしまった、国辱的なまでに透徹した「日本的造形美」の前にあえなく消え去るのみだ。殊に、主人公・呉清源(チャン・チェン)が新興宗教に没入し、教祖(南果歩)に命令されるままに教団資金を、かつての恩師女性のもとに無心しに行くくだりは素晴らしく、疲労困憊した呉清源が山荘の池に倒れ込んだ時、恩師女性(宇津宮雅代)がすうっと引き戸を開ける。この開け方の絶妙さ、一言で言えばエロティシズムということになるが、「やはりこれこそ映画というものだろう」などと、ちょっとばかり反動的につぶやいてしまうのである。

P.S.
 楊徳昌(エドワード・ヤン)が亡くなってしまった今年、年末迫るこの時期に、かつてシャオスー(『クーリンチェ』の主人公の少年)を演じたチャン・チェンの主演最新作を見られたのは良かったと思う。


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