ベルリンの銀熊受賞作だが、このあまりにも良質なスリラーぶりはなんとしたことか。監督自身が辿ってきたであろう数奇な運命(幼少期におけるユダヤ人ゲットーからの脱出、シャロン・テート事件、少女淫行容疑による懲役50年判決など…)というものが、このアイデンティティ・クライシス劇にかえって意表をつく軽さを生み出しているように思える。この軽さがどれほど冷徹なものか、それを感得するべきだろう。
在任時の不正を追及されつつある元英国首相(ピアース・ブロスナン)に自伝執筆のゴーストライターとして雇われた主人公(ユアン・マクレガー)が、ついに最後まで自らの本名を観客に告げる機会を逸したまま、雇い主によってつねに「幽霊(ゴースト)」とのみ呼ばれるのは示唆的だ。監督のロマン・ポランスキー(ポラニスキ)自身がきわめて幽霊的な作家なのだから。オーソン・ウェルズの『市民ケーン』『ミスター・アーカディン』あたりを想起させつつ、ユアン・マクレガーは調査対象を調査するうちに、地球を一周して、自らの背中を調査しているという案配である。
舞台のうちほとんどは、ピアース・ブロスナンの半ば亡命地とも言えるマサチューセッツ沖の島であるが、当然のことながらロケ地がマサチューセッツ沖であるはずはなく、どうせどこかヨーロッパの過疎地で撮影されたにちがいあるまい。先述の少女淫行罪で訴追されヨーロッパに逃亡(本人はえん罪を主張)したポラニスキは、生涯アメリカの地を踏めない境遇だからである。この孤独なロリコン作家は、死ぬまでこのような危なっかしい逃亡生活の合間に映画を撮り続けるのであろうか。
奇跡の怪物俳優イーライ・ウォラックが、オリヴァー・ストーン『ウォール・ストリート』(2010)での不敵なる老投資家役に引き続き、すばらしい存在感を見せてくれている。
8月27日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で上映予定
http://ghost-writer.jp/
在任時の不正を追及されつつある元英国首相(ピアース・ブロスナン)に自伝執筆のゴーストライターとして雇われた主人公(ユアン・マクレガー)が、ついに最後まで自らの本名を観客に告げる機会を逸したまま、雇い主によってつねに「幽霊(ゴースト)」とのみ呼ばれるのは示唆的だ。監督のロマン・ポランスキー(ポラニスキ)自身がきわめて幽霊的な作家なのだから。オーソン・ウェルズの『市民ケーン』『ミスター・アーカディン』あたりを想起させつつ、ユアン・マクレガーは調査対象を調査するうちに、地球を一周して、自らの背中を調査しているという案配である。
舞台のうちほとんどは、ピアース・ブロスナンの半ば亡命地とも言えるマサチューセッツ沖の島であるが、当然のことながらロケ地がマサチューセッツ沖であるはずはなく、どうせどこかヨーロッパの過疎地で撮影されたにちがいあるまい。先述の少女淫行罪で訴追されヨーロッパに逃亡(本人はえん罪を主張)したポラニスキは、生涯アメリカの地を踏めない境遇だからである。この孤独なロリコン作家は、死ぬまでこのような危なっかしい逃亡生活の合間に映画を撮り続けるのであろうか。
奇跡の怪物俳優イーライ・ウォラックが、オリヴァー・ストーン『ウォール・ストリート』(2010)での不敵なる老投資家役に引き続き、すばらしい存在感を見せてくれている。
8月27日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で上映予定
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ピアース・ブロスナンもずっと素晴らしい役者だと思ってましたが、この作品では最高だった。
最近はポーランド映画というと、イェジー・スコリモフスキの独壇場という感じで、それはそれで当然です。ただ、このポラニスキとか、大寺さんが最近再評価していたアンジェイ・ムンクとか、他にもいい作家がいっぱいいる。