荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『ラヴ・イズ・パーフェクト・クライム』 アルノー&ジャン=マリー・ラリユー@東京国際映画祭

2013-11-08 02:49:25 | 映画
 ラリユー兄弟の新作『ラヴ・イズ・パーフェクト・クライム』は犯罪スリラーだが、ラリユー兄弟らしい愉しい要素がギュウギュウ詰めである。壮大な山岳風景はどこまでも澄みわたり、文学部教授役のマチュー・アマルリックはわれら観客になり代わって、思う存分にドン・フアンを演じてみせる。笑いあり、情事あり、殺人あり、近親相姦的兄妹愛あり、アンドレ・ブルトンの印象的な引用、さらにはブニュエル映画『黄金時代』(1930)を授業内で映写さえしてくれて、腹が満腹になる。ラリユー兄弟は現代映画界きっての健啖家と言っていいだろう。現代の表現者には、ニヒルに開き直った粗食家が多すぎるのである。オタール・イオセリアーニの衣鉢を継ぐ存在がまったくいないだけに、貴重な存在かもしれぬ。
 なにやらまがまがしい証拠物件がごまんと出てきそうな、雪に閉ざされた山岳深くの「穴」を、私たち観客はおそるおそる覗きこむ。角度が悪いのか、決定的な何かは見えそうで見えない。あるいはタイミングの問題なのか、日を変えると、こんどはあまりにもあからさまに、若い女の死体がごろりと、崖途中の幹に引っかかっているのが見えるのだ。
 画面を見る私たちも隠し持っているだろう。この手の、死体やら記憶やら良からぬ夢想やらを投げ捨てるための、ダッシュボックスのごとく便利で、あまりちゃんとは見たくないような、しかしいつの日か一挙に復讐してきそうな気配を宿した「穴」を。


第26回東京国際映画祭〈コンペティション〉部門で上映
http://tiff.yahoo.co.jp/2013/jp/lineup/works.php?id=C0012


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