荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『マリア・ブラウンの結婚』 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー

2013-01-06 09:41:30 | 映画
 青山真治監督のツイートを読んでいたら、“ 今年第一弾に相応しい「素敵な豚野郎」映画『ローラ』を終え、続けて『マルタ』。” “ そして極北のSM映画『マルタ』もまた、今年に相応しすぎる作品だった。” とつぶやいていて、思わず大笑いしてしまった。今年に相応しすぎる…たしかにその通りである。
 ひるがえって私はというと新年一発目は、誰が見ても傑作とわかる『マリア・ブラウンの結婚』なのだから、おのれの小市民気質を暴き立てているというか。3作中もっとも昔に見た作品から見てやろうという魂胆だった(私にとっては人生初のファスビンダー映画)が、それにつけても『マリア・ブラウンの結婚』は、まごうことなき傑作なのである。ただ、どうしてもラストからの逆算で見てしまう。それほどまでに鮮烈なラストをもつ本作だが、最後だけでなく、去っていた夫が帰還してからの一連全体がすばらしい。
 渋谷哲也による日本語字幕は上映時間中つねに見る者を煽り、視聴覚を全開することを要求する。友人Hからのメールには「ラストのワールドカップ決勝・独洪戦の展開がすごく、昔はここまで実況を訳していたかな?」と書いてあったが、たしかにロードショー時はここまで克明に実況を訳してはいなかったように思う。しかも、あの息づまる歴史的一戦の実況を、主人公夫婦(ハンナ・シグラ&クラウス・レーヴィッチュ)がちっとも聴いちゃいないというところがいい。
 この映画はナチス降伏の1944年に始まり、西ドイツがワールドカップで初優勝を遂げた1954年で終わるが、参考までに、同じ敗戦国の日本に当てはめておくなら、この1954年には成瀬『山の音』『晩菊』、木下『女の園』『二十四の瞳』、川島『真実一路』、溝口『山椒大夫』『近松物語』、五所『大阪の宿』、黒澤『七人の侍』、本多『ゴジラ』etc.が発表されている。壮観である。世界映画史上に例を見ぬほどに壮観である。そういう同時代を想像しながら『マリア・ブラウンの結婚』の終盤を見ると、身体がゾクゾクしてくる。

 ハンナ・シグラが苦労に苦労を重ねて、戦後西ドイツの経済的復興を象徴する存在へと取り立てられていく、いわば花登筺のごとき細うで繁盛記というふうに記憶していたが、これはとんだ間違い。ハンナ・シグラは汽車の中で偶然知り合った資本家(イヴァン・デスニー)にうまく取り入って、とんとん拍子で出世コースを辿る。
 ヒロインに利用されるだけ利用され、嬉々として身をすり減らす資本家役のイヴァン・デスニー、そして彼の心配をする小心な会計士役のハルク・ボーム。この二人組がすごくいい。ハルク・ボームはファスビンダー映画でしょっちゅう見る顔。イヴァン・デスニーは、マルセル・カルネ、クロード・オータン=ララ、マックス・オフュルス、パプストからアントニオーニ、ピエール・カスト、アレクサンドル・アストリュックまで、そうそうたる監督の作品に名を刻んでいる。


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2 コメント

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Unknown (はしわき)
2013-01-31 20:53:42
僕も久々に観ました。32年ぶりくらい??傑作ですねぇ、やはり。ハンナ・シグラが美しい。「ファウスト」でも、そこそこ美しかったケド、ものが違いますね。ラストのサッカーの実況、興奮させられますね、ホントに。
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橋脇さんへ (中洲居士)
2013-02-01 01:27:44
いやあ、サッカー実況の残り少しというところで、実況アナが「祈りましょう…」と言うあたりは手に汗握りますね。しかもすでに私たちは主人公夫婦の運命を知っているわけですからなおさらです。

きのう南青山のドイツ文化センターにファスビンダー『あやつり糸の世界』パート1を見に行ったのですが、マリア・ブラウンの夫を演ったクラウス・レーヴィッチュが主演していました。
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