荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『ポリス』 モーリス・ピアラ

2013-11-14 03:29:08 | 映画
 ブログを始めて6年、まさか自分がモーリス・ピアラについての記事を連投するとは思いもよらないことである。『ソフィー・マルソーの刑事物語』(1985)がこのたび『ポリス』と改題されて(原題も『Police』)公開されているが、この作品は上映時間の経過にしたがって尻上がりに調子が上がってくる。
 孤独な刑事(ジェラール・ドゥパルデュー)が、いつもながらに怖いもの知らずの強引な手法でヘロイン密売組織の男とその情婦(ソフィー・マルソー)を同時にしょっぴいたところ、ずぶずぶと女の魔性に魅せられていく。フランス特産のニヒリスティックかつセンチメンタルなフィルム・ノワール(ポリシエ)のジャンル性に依拠しつつ、警察署の隙間のような一室や車の中で愛を深めるたびに、画面は凝固しきった室内劇のように閉じていく。
 みずからの愛をやっとのことで素直に吐露したばかりの刑事が、おのれの興奮を冷ますためか「新聞を買ってくる」と言ってシャンゼリゼ大通りのキオスク前で車を降りると、店頭にはフランソワ・トリュフォーの死去を報じる雑誌の表紙が貼られている。それを発見したドゥパルデューの表情がなんとも言えない。言わずもがなだが、彼が『終電車』『隣の女』に主演したのはそのほんの2、3年前のことに過ぎない。そしてこの停車されたわずか2、3分間の空白が、車中で待つ女にとっては、男の愛を受け入れることを決心するにじゅうぶんな猶予になっているのである。このように、複数の人間の思惑を、脈絡と関係なしに画面の連鎖で取り結ぶとき、映画は初めて立ち上がるのではないか、などとバカバカしい思惟に興じてしまった。

 友人Hが本作について素晴らしいメールをくれたのだが、その一部を勝手に引用すると、「このあたり(キオスクのシーン)から作品のトーンが変わり、何か増村映画のような切迫さに覆われ、キャメラはドゥパルデューとソフィーの表情を凝視することを目標にしたかのよう」になる。私たち観客もまた、車中で一組の男女優の唇と唇が重ね合わされるディテールを、呆然とした表情で前方に差し向けるふたりの視線を、ミケランジェロ・アントニオーニ『さすらいの二人』、ダリオ・アルジェント『サスペリア』、マルコ・フェッレーリ『バイバイ・モンキー』の撮影を担当したイタリア出身のルチアーノ・トヴォリのカメラ・アイを通して、凝視するのみとなっていくのだ。


シアター・イメージフォーラム(東京・渋谷金王坂上)ほか全国順次公開
http://www.zaziefilms.com/pialat/


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3 コメント

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Unknown (橋脇隆)
2013-11-14 10:56:36
僕もピアラはスルーしてきた者です。「ポリス」。面白そうデスネ。観に行ってみたいです!!
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Re:Unknown (oginoyoichi)
2013-11-14 23:23:16
ぜひ一度、ご覧になって。食わず嫌いはよくないなと当方、反省した次第です。
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Unknown (橋脇隆)
2013-11-16 00:20:04
はーーーーい。
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