荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『図書館戦争 THE LAST MISSION』 佐藤信介

2015-10-19 07:07:41 | 映画
 「有害図書」を力ずくで検閲する国家権力と、「表現の自由」をタテに出版文化の存続を図る全国の図書館の対立が先鋭化し、銃器まで持ちだしての市街戦に発展している。奇想を軸にひねり出された、アイデア心に満ちた映画である。
 奇抜な設定ではあっても、じっさいの作品モチーフは、観客にデジャ・ヴュをもたらすだろう。国家権力による焚書というメインモチーフは、フランソワ・トリュフォーのあまりにも有名な『華氏451』(1966)からもらってきたものだろうし、検閲側の機動隊(?)と図書館の「タスクフォース(自衛軍隊)」による内戦は、なにがしかの諷刺SFのように、彼らの日常から遊離している。血なまぐさい銃撃戦が展開されたばかりの図書館で、その殺戮ごっこの清掃が終わったあとは、小学生グループや親子連れが、何もなかったかのごとく絵本や漫画を閲覧しに訪れる。そして熱血的な隊員のヒロイン(榮倉奈々)がむき出しの情熱でコワモテの上官(岡田准一)に恋をするというのは、増村保造が創り出した大映テレビの『スチュワーデス物語』のようだ。映画はこれらのエッセンスを貼り合わせつつ、進んでいく。
 本作にはメリットとデメリットがある。メリットは、秘密保護法、原発再稼働、辺野古ごり押し、安保関連法案etc.と連続して打ち出される現政権のファッショ的傾向をリアルタイムにつかまえて、本作の検閲側の横暴に置き換え、SFバイオレンスのフィクション性を笠に着て露骨に見せている。しかしデメリットとしては、専守防衛のためにだとしても、図書館の全国委員会が銃器や爆弾などの使用を、多少の躊躇を見せつつもおおっぴらに推進し、殺戮ゲームがスペクタクルとして進行する点である。やむをえぬ場合、あるいは「守るに値する」ものを守る場合は戦争を是とする精神的背景が、このようにリベラルな内容を語る青春アクション映画によって、図らずも増強され、整備されていってしまうのだ。
 そして、榮倉奈々と岡田准一のティーハウスでのデートの約束シーンは、いかなる抑圧的な社会、戦時下の社会においても「男女のさわやかな交際くらいは健在であるはずですよ」という、慰撫的なファッショ迎合を補強してしまうのである。端的に言うなら、本作には一人のオスカー・ヴェルナーも登場しない、というのが最大の問題点なのではないか。


TOHOシネマズスカラ座(東京・日比谷)ほか全国東宝系で公開中
http://www.toshokan-sensou-movie.com/


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