荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『だいじょうぶ3組』 廣木隆一

2013-04-24 02:39:37 | 映画
 「東宝幹事作品としては久々の大コケとなってる」と友人Hから便りがあった廣木隆一の新作『だいじょうぶ3組』がなかなか悪くない。近作である『雷桜』『軽蔑』そして先日の『きいろいゾウ』はいずれも良いと言えず(『軽蔑』に、映画・TV出演拒否の緑魔子を引っ張りだしているのが嫉妬に値するが)し、『RIVER』は未見だが、久々に廣木らしい伸び伸びした映画となっているのではないか。乙武洋匡の原作・主演という時点でまず映画として不審の念を抱かせはするのだけれど、しかしこれが案外と学級ものとしては絶妙かつクールな距離を計測した作品となっている。『4TEEN フォーティーン』(2004)あるいは『きみの友だち』(2008)のころの廣木だ。脚本は『800 TWO LAP RUNNERS』(1994)以来、何本か廣木作品を書き、鶴橋康夫の傑作『天国への階段』(2002)ほか、根岸吉太郎『雪に願うこと』(2005)、成島出『孤高のメス』(2010)を書いた名手・加藤正人。
 学級と身体障害という主題としては、清水宏『しいのみ学園』(1955)またはサミュエル・フラー『裸のキッス』(1964)の系譜に属し、学校という空間が単に通底器に過ぎないという醒めた認識の点では、その精神性において最も近いのが稲垣浩の『手をつなぐ子等』(1948)または『忘れられた子等』(1949)ではないだろうか。主演の乙武洋匡に笠智衆を重ね、校長役の余貴美子に徳川夢声を重ね、生徒の母親役の渡辺真起子に『手をつなぐ子等』におけるあの伝説的にすばらしい杉村春子の母親役を重ね見るのは過ぎたる行為であろうか。
 『余命1ヶ月の花嫁』以来の廣木映画出演の榮倉奈々が、国分太一のちょっと中途半端な恋人役を演じ、そのありようが通り一遍だったのはやや悔やまれる。『余命1ヶ月~』以後は青山真治、瀬々敬久の傑作を通ってきた彼女だけに、もう少しどうにかできたのではと思った。


TOHOシネマズ錦糸町など各所で続映中
http://daijyobu-3.com


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1 コメント

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初の坊主 (中洲居士)
2013-04-28 12:41:53
大コケというのはあまりにも本当のことらしく、わたくしが本作を見たのは、TOHOシネマズ錦糸町のレイトショーだったのですが、なんと客はわたくし一人!!!!!! 長い映画観客人生にとって、初の坊主(一人貸し切り)体験でした。

今までで最も少ない客数は、エリック・ロメールの『緑の光線』を1987年4月25日のロードショー初日に、今は亡き光が丘テアトル西友(東京・練馬区)で見たときの(わたくし自身をふくめ)3人以来の記録更新です。

本篇が始まってすぐにブレザー姿、荷物なしの若い男性が場内に入ってきて、最後列に座った模様ですが、これは身なりからして明らかにTOHOシネマズのスタッフ。おそらく、観客が一人の場合、粗相しないようスタッフが必ず監視につく内規なのだと推測できます。人生初の坊主に淋しさ、侘びしさ仕切りです。
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