荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『ジャンゴ 繋がれざる者』 クエンティン・タランティーノ

2013-03-22 02:22:23 | 映画
 『ジャンゴ(続・荒野の用心棒)』『殺しが静かにやって来る』などコルブッチ兄弟のマカロニ・ウエスタン諸作と、ブラックスプロイテーション(黒人向け通俗映画)を掛け合わせた、いかにもクエンティン・タランティーノらしい仕上がりの作品。
 奴隷制という重大な歴史問題がただ単に俗流ジャンル・ムービーの補強に利用されていたり、バイオレンス・シーンが残虐を極めたりするため、あいかわらずアメリカ国内では少なからぬ非難を受けたようだが、お化け屋敷のような米南部プランテーションのしつらえ、衣裳および持ち道具替えによるステップ・アップのカタルシス、草原や雪原など道行きの風光明媚さ、コルブッチ流のノスタルジックな赤文字タイトル・デザインなど、マニア心をくすぐる作りは、今回も妙に抗いがたい無責任な官能性をまとっていて、2時間45分という長尺もさして苦痛とはならない。

 セリフで飛び交う単語も洒落ている。「マンディンゴ」なんていう単語を聞いたのはいつぶりだろう? クリストフ・ヴァルツが主人公のジェイミー・フォックスに話して聴かせるドイツの英雄叙事詩「ニーベルンゲン」の物語も効いている。
 ウィーン出身のクリストフ・ヴァルツは、「ニーベルンゲン」の主人公ジークフリートSiegfriedのことを、「スィーヒフリート」といった感じで発音していた。母音の直前のSは、標準ドイツ語では濁って[z]の発音となるのが普通だが、オーストリア・ドイツ語では濁らずに[s]のままとなるらしい(たとえば、スープを意味するsuppeは、標準ドイツ語では「ズッペ」だが、オーストリア・ドイツ語では「スッペ」となる)。したがって、オーストリア代表のサッカー選手ユルゲン・ゾイメルも「ソイメル」とするのが妥当なのだろう。


丸の内ピカデリー(東京・有楽町マリオン)ほか全国で上映中
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