荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳』 劉偉強

2011-06-27 05:05:18 | 映画
 「魔都」とも称された1920年代の上海。路面が小雨に濡れ、阿片の香りがゆらめくフランス租界の大型ナイトクラブ「カサブランカ」を主舞台に、中国人レジスタンス、日本軍人、駐留フランス人、イギリス人商人どもがそれぞれの思惑でうごめいている。『ラ・パロマ』のイングリット・カーフェンが、丈長のナイトドレスをまとって、ふらふらと現れてもおかしくない環境だ。
 本作の主人公・陳真は、『ドラゴン怒りの鉄拳』(1972)で李小龍(ブルース・リー)が演じた伝説の武術家その人であるが、この陳真の役を甄子丹(ドニー・イェン)が演じるのは、今回が初めてのことではないらしい。試写のプレスシートによれば、本作は、先行するテレビ番組から発展したものだとのこと。あたかも李小龍のように、純白の詰め襟姿で日本人道場に乗りこんだり、カトー風の仮面で正体を隠したりするのが、フェティシズムを大いに刺激する。
 ただし、マイケル・カーティスの『カサブランカ』へのオマージュなのだろう、日本人客の横暴な態度の返答として「ラ・マルセイエーズ」を主人公がグランドピアノで快活に弾いてみせるあたりの俗流な演出には、苦笑を禁じ得なかった。せめて「インターナショナル」にしておけば、墓場の孫瑜も溜飲を下げただろう。

 それにしても、今年初頭に『葉問(イップ・マン)』が一般公開されて以来、甄子丹出演作の公開ペースがすさまじい。『葉問 序章』といい、今回の『レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳』といい、反日プロパガンダのような内容であるにもかかわらず、無事に日本公開へとこぎつけている。それだけ、抗しきれない魅力があるということだろう。
 甄子丹の特長は、なんといっても小柄な肉体から繰り出される殺陣のあざやかさ、美しさであるが、それにも増して、不正と欺瞞を許さぬ、どこか不寛容ささえ漂う端正な顔つきではないだろうか。あの目つき、口元をもってにらまれると、こちらもなにか不正を犯して、この人格者をついつい怒らせたくなってしまう。だからあんなにも、甄子丹は難敵と戦い続けねばならないのではないか。


9月17日(土)より新宿武蔵野館ほか、全国で順次公開予定
http://www.ikarinotekken.com/


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