荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『玉割り人ゆき 西の廓夕月楼』 牧口雄二

2010-12-15 00:21:41 | 映画
 牧口雄二の『玉割り人ゆき 西の廓夕月楼』(1976)は、たった64分という上映時間を、圧倒的に苛酷な凄惨美で覆い尽くす。このシリーズ第2作では早くも、ヒロインのゆき(潤ますみ)は物語の中心に位置しなくなっている。そして、宿命の劇的装置のなかの一機能を果たしているに過ぎないおのれ自身の稀薄さに必死に耐えている。
 では、物語の主体はどこにあるのか。伝説の責め絵師・伊藤晴雨(長島隆一)の仕掛ける情痴殺人の顛末であろうか。いや、伊藤晴雨もまた、単にスクリプターとしての役割を与えられているに過ぎない。加賀・金沢の遊郭「夕月楼」のニヒルな主人(坂口徹)の愛情をめぐり、ゆきと女ストーカー(中島葵)が睨み合う。消極的ながら、女ストーカーとのあいだで苦み走った二枚目の遊郭主人を奪い合う格好となったゆき。茫然と能登の海を眺める彼女の口から、切ない声色で愚痴が漏れる。「あんたさんは、女を生殺しにするお人です。そうでなければ、あの女もあんな風に狂い歩かなくて済んだのではないですか(と、これを京都弁で)。」
 新内流しの三味線を抱えて、廓の街角にぶらりと現れる、まるで葛飾北斎の描く幽霊画のようなこの女ストーカー(中島葵)こそ、この物語の主体であり、作者であり、そして「終わらせる」人である。悲しいかな、このシリーズはこの『西の廓夕月楼』で打ち止めとなっている。


2011年2月4日(金)まで、東京・杉並のラピュタ阿佐ヶ谷で《牧口雄二の世界》開催中
http://www.laputa-jp.com/


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