荻野洋一 映画等覚書ブログ

http://blog.goo.ne.jp/oginoyoichi

『ノック・ノック』 イーライ・ロス

2016-03-26 08:06:46 | 映画
 キアヌ・リーヴスの全盛期は、『スピード』『マトリックス』といった大ヒット超大作ばかりでなく、ガス・ヴァン・サントからスティーヴン・フリアーズ、ウディ・アレン、コッポラ、ベルトルッチといった作家の映画にも積極的に参加した1990年代前後ということになる。リチャード・ギアしかり、ケヴィン・コスナーしかり、ハリウッドの二枚目スターがどういう理由で活躍しなくなってしまうのか、そこのところがもうひとつ分からない。
 ただしキアヌ・リーヴスは、ラッキーなカムバック例となりつつある。ひたすら(単調さを恐れることなく)敵のマフィア組織を殺しまくるだけのB級クライムアクション『ジョン・ウィック』(2014)の評判がすこぶるよく、続編の製作も始まっている。『砂上の法廷』『ノック・ノック』と、日本公開も間髪入れずに続く。そしてそのどれもが90分ちょっとのB級アクションかサスペンスである。キアヌは『スピード』『マトリックス』の成功体験の幻影を追うのではなく、やっぱりB級(ここでは正確な歴史的意味では使用していない)でしか生きられないと腹をくくったのだろう。
 そして今回の『ノック・ノック』だ。舞台はLA郊外の一軒家。美人妻と子どもたちの留守のあいだに、不審者の闖入を許したキアヌ・リーヴスが、闖入者のギャル2人組に拘束されてセックスを強要され、そのまましつこくいたぶられる、という内容である。撮影場所はほぼ一軒家セットのみ。主要キャストは妻や妻の同僚、マッサージのおばさんといった脇役をのぞけば、キアヌと変態ギャル2人組だけ。なんとも簡単な映画である。この変態ギャルの家宅侵入の動機を、私たち観客が詮索してもしょうがない。病理学や犯罪心理学の問題はまったく触れようとさえしないからである。ただただ、若い娘にいじめられて怯え、情けない悲鳴を上げるキアヌを鑑賞する、それだけだ。
 この設定、私が少年時代に見てそれなりに恐怖を感じた『メイクアップ』(1977 ビデオ題『メイクアップ 狂気の3P』)とまったく同じである。あの時の犠牲者はシーモア・カッセルだった。シーモア・カッセルのやられっぷりの無残さが圧巻だった記憶がある。はっきり言って『ノック・ノック』は『メイクアップ』のリメイクだ。もし再映画化の権利料を『メイクアップ』の著作者に払っていなかったら、盗作として訴えられるかもしれない。しかし、盗作まがいのこの図々しさこそ、現在のキアヌの立ち位置を図星に言い当てていて、すばらしい。これぞB級精神である。
 と思ったら、そうではない。プレスシートには掲載されていないが、IMDbで確認すると『メイクアップ』の監督ピーター・S・トレイナーとプロデューサーのラリー・シュピーゲルが、2人揃って今作のエグゼクティヴ・プロデューサーに名を連ねている。まあどうせ、ちょっとした駄賃で名前を貸しただけだろうが。
 オープニングのクレジットでやけにスペイン語のスタッフ名が多いなと思っていたら、エンドクレジットで、監督のイーライ・ロス以外はほぼ全員チリ人だと判明した。そしてなんと、全編チリの首都サンティアゴで撮影されたと堂々とクレジットされていた。冒頭のLA中心街、ハリウッド山、サンタモニカの海岸などを順を追ってとらえた空撮のフッテージが、爽快なまでにシラジラしい。これもキアヌ的マジックということにしておこう。


6/11(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで “全国訪問” ロードショー予定
http://www.knockknock-movie.jp


最新の画像もっと見る

コメントを投稿