ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

彼女がいるらしい青年の話

2015-04-14 16:02:22 | 日記
新入社員のB君は、なかなかいい青年である。

まじめで礼儀正しいし
教えたことは一生懸命メモを取りながら覚えようとしているし
何より高齢者の接し方が優しく丁寧。
早くもおばあちゃま方から信頼を得ているようでもある。

しかし20代のわりに弾けたところがまったくない。
趣味を聞けば、おっとりと首をかしげながら
「しいていえば、散歩でしょうか」と答える。

これじゃあ彼女がいるはずもないだろう。

ところが、その点については「ご心配なく」とソツのない答え。

意外だわぁと失礼な感想を抱いたオバチャンは
二人きりのときを狙って突っ込んでみた。

―彼女とはどこで知り合ったの?

「あの、ネットで…」

―あ、ああネットで…。ま、最近はそういうの多いらしいね。
 で、どれくらい付き合ってるの?

「2年になります」

―結構長いね。じゃあご両親にも会わせたり?

「いえ、彼女がいることは言ってあるんですが、まだ…」

そして少し躊躇しながら、彼はこう言葉を足した。

「実は僕もまだ会ったことがないんです」

・・・・・・
笑顔を作ったまま、オバチャンはぞっとした。



坂道を駆け下りるごとく・・・

2015-04-08 16:22:21 | 日記
このブログの「困った夫婦物語」に登場のK子が
ますます、どんどん、壊れてきている。

物取られ妄想は盗られるものが現金に限定され
毎日のように空っぽの財布を胸に抱いては
「なぜ私ばかりが狙われるの?」と泣いている。
(しかし翌日になると万札ぎっしりの財布を持って
コンビニに行くのだから、こっちこそワケがわからない)

K子によれば、泥棒は親指ほどに小さくなって
毎晩、換気口から出入りしているらしい。

妄想はそれに及ばず
家には最近、自分以外に二人の人が住んでいると言い
一人は病気で部屋の奥で寝ている
もう一人は風呂場にいて自分がご飯を差し入れている、のだとか。

「ほら、そこにいるでしょう?」
夜、そう言って風呂場を指差されたりすると
妄想とは知りながらも気味悪いものである。

ものの意味を認識することが難しいこともあり
時折、セーターの袖に足を突っ込もうとする。
スカーフをグルグルと渦巻状にして、頭に載せていたりもする。

排泄も自分で処理するのが困難らしく
共用トイレに入ったK子をドアの外で見守っていたら
待てど暮らせど出てこない。
どうしたのかとそっと中を確認してみたら
床にあふれた便を自分で片付けようとして
手も、靴もぐちゃぐちゃになっているではないか。

「ひどいんです。こんなところでウンチをする人がいて
だから私、片付けているんです」

(いやいや、入る前はキレイでしたよ。私、確認しましたから)

おとといの夜勤では
午前3時ころに廊下をうろつくK子を発見。
居室とは違うフロアまで、エレベーターで降りてきたらしい。
両手にはジャケット、湿布薬の袋、手紙の束、輪ゴムの箱と
関係性不明なものを抱えており
ズボンは途中までしか上げられなかったらしく
リハパンが丸出しである。

そして私の顔を見るなり
「ああ、いいところでアナタに会えたわ。
私の出発はいつかしら?」

なんのこっちゃ?と思いつつ
ヨロヨロとした足取りを支えながら居室に送っていくと
その床にはゴミが散乱。
なんといつも装着している入れ歯までゴミのように落ちていた。

なんだか悲しくなってくる。
この間まで物取られ妄想はありながらも
自分のことは自分でしていた彼女が
どんどんどんどん壊れていく。

認知症の方だけが住むグループホームならいいが
ウチのように健常で頭のクリアな高齢者もたくさんいると
K子のような高齢者は陰口を叩かれるし失笑の的にもされる。

高齢者の価値をさげないことが介護の鉄則だが
こんな生活で
K子の価値は維持できるもか…

最近のK子の対応は困難きわまるが
そんなことより何より、K子を見ていると悲しみがあふれてならない。





老いた桜も咲き始め・・・

2015-04-03 23:51:47 | 日記
昨夜、「いいもの見ちゃった~」と同僚からメールが届く。

何かと思えば
我が高齢者住宅の住人であるA男とB子が
近所の公園で桜を愛でていたのだとか。

それも、仲睦まじくお手てをつないで・・・。

二人とも80代ではあるが
介護サービスを必要としない元気な高齢者。
頭もいたってクリアである。
そんな二人がデートしようが何しようが構わないのだが
なんだかハッピーな気持ちになれない。
それどころか、心がザラつく。

だってその二人
障害を持った他の高齢者をのけ者にするイヤ~なジジババなのだ。
ほかの方であれば
ヒュ~、ヒュ~、やるねえ!!!と
心の中で冷やかしながらも応援したいところだが
この二人だと冷やかす気にもなれない。

翌日、事務所はその話が挨拶代わりの話題になる。
しかし職員が口々に言う。
「なんか、心がほっこりしない」
「うん、ほのぼのとした気持ちになれないよね」
中には「わっ、気持ち悪い。サイテーなカップルだわ!」
などという罵倒も。

性格の悪いジジババの恋は
誰からも祝福されないようである。