日本の民話4 民衆の英雄/瀬川拓男・松谷みよ子・編著/角川書店/1973年初版
「三年寝太郎」は、寝ていたばかりの男が、飢饉や不作になやむ村人を救う話で、各地に類話がありますが 山口バージョンは寝ていることがあまり強調されていません。
昔話は主人公の幸せに主眼がありますが、自分のことではなく「民衆」のことを考えた話には、昔話のいきをこえて、リアリテイがあるようにも思います。
体を伸ばせば足が出て、足を隠せば頭が出るような、なんとも小さい家で、空をながめて暮らしていた厚狭の寝太郎。
ある年のこと、長雨やひでりで秋になっても稲が実らず、百姓は飢饉で苦しんでいた。
すると寝てばかりいた寝太郎がふいに起き上がって、「金もうけをしてやるから、米のならない稲を刈り集めてください」と村々をふれまわって稲のわらを集めると数知れぬ草鞋をこしらえます。
草鞋を千石船に積み込んで、向かった先は佐渡ヶ島。
寝太郎は港にあがると、「銭はいらん。はき古しのわらじを新しい草鞋ととりかえる」とおかしな商売をはじめます。
たちまち千石船一艘の新しい草鞋は、土まぶれの古わらじにかわります。
村の人は「寝太郎のあほうにはあきれたもんや。新しい草鞋を古い草鞋に取り替えてきよった」「いよいよ気がふれたかの。金もうけどころかえらい損をしたもんじゃ」と、みんなで寝太郎をばかにします。
寝太郎は気にもかけず。桶屋に頼んではしごをかけて登るほどの大きな桶をつくってもらうと、そこに水を張って、古わらじをドシャドシャと洗い始めます。
十日二十日と過ぎて、古わらじの土もすっかり洗い落とされ、桶の水をあけると、底にたまった泥にまじって、キラキラ光るものが見えます。
はしごを登って中をみた里の衆はたまげます。
キラキラ光るのは金でした。
そのころ、佐渡の金山では一握りの土でも持ち出すのはご法度。
佐渡の土を持つ出すために三年三月寝たまま考えた寝太郎は、砂金で大金持ちになります。
さて、大金を手にした寝太郎は、腕のよい石工を集めて石山の石を切り出します。
「山じゅうの石を切り出してなんにするのじゃろう」と村の人がうわさしていると、寝太郎はありったけの銭をばらまいて、「さあさあ皆の衆、わしに力を貸してくれい。よけいに米がとれるよう、荒れ地に水路を通して厚狭川の水を引こう。泥地や沼地は埋め立てて田んぼにしよう。そうすればひでりや長雨にも参らぬ田ができるぞ。こら大事だから、皆で力を合わせてやらにゃあなるまい。」といいます。
里の衆は寝太郎の深い考えがわかり、力をあわせて頑丈な灌漑溝を完成させます。
やがて、出来上がった水田は、長雨やひでりの年にも、ここらあたりの稲はよう実って、秋には黄金の波がうねり、厚狭の里はよくも栄えます。