語りつぐ人びと*インドの民話/長弘毅/福音館文庫/2003年
貧しい床屋とバラモンが、どこかの町で仕事を見つけ金を稼ごうと旅に出ました。どんどん歩いているうちに、深い森にさしかかったところで日が暮れてしまった。「深い森の中を夜、歩くのは無茶だ。けものにおそわれるか、それとも追剥にやられるかのどっちかだ」と、床屋はバラモンをひとりおいて家に帰ってしまいました。
バラモンは一軒の家を見つけ、今夜はとまって、また仕事をさがそうと、その家に行ってみましたがだれもいません。バラモンが、暗闇の部屋にいると、ライオン、オオカミ、コブラがつぎつぎに入ってきて話をはじめました。バラモンはけもののことばがわかる力を持っていたので、片隅でちいさくなってきいていました。
ライオンは、「くる日もくる日も小塚の上で張り番ばかり。くたびれちゃったよ。小塚の下には、金と銀の延べ棒が埋めてあるんだが、それをだれかがもっていかない限り、おれはその番をしなきゃならない。その宝は、この国の王さまの先祖がうめたものなんだが、王さまはそれを知らない。もしだれかがそれをもっていってくれれば、おれもらくになるんだが・・・」
オオカミは、「この国の王子がこの一年ずっとねたきりなんだ。八方手を尽くしても、王子の病気はよくならない。ヤギの肝を食わせればすぐ元気になるんだが。このぶんだと王子は死ぬよりほかない。それを思うと心配で心配で、ほれ、このとおりやせるいっぽうさ。」
コブラは、「じつは、おれも王さまの先祖が残した宝の番をしているんだ。ところが、王さまはそれを知らない。もし王さまがこのことを知って宝を手に入れたら、おれの役目も終わるんだが・・・」
この話を聞いたバラモンが、医者に身をやつして王さまの宮殿に出かけましたが・・・。
どこの国にも、けだものの内緒話はあるようです。もちろんバラモンは宝物を手に入れ、バラモンを一人ぼっちにした床屋は、おなじ家に出かけ、命を失ってしまいます。
床屋がでてくるのは、いかにもインドらしい話。