ひばりの矢/斎藤隆介・作 滝平二郎・絵/岩崎書店/1985初版
空に君臨している黒雲おやじ。むかってくる奴は、そいつの首をこわきにかかえこんでしめころし、手をかいくぐって、なおもたちむかってくる奴は、大きな口でひとのみ。お天道様や月も黒雲おやじのらんぼうろうぜきをしのぶだけ。
うんだばかりの、かわいいたまごを黒雲おやじにふみつぶされ、気がちがって空をどこまでもかけあがってしまうよめさんたちをみた、いちろうじは、「ヤーイ、なかまたちおれたちは、いくじがなさすぎたぞ」と叫んで、黒雲おやじに立ち向かう。
ひばり村のみんなはたたかう決心をし、ちいさなからだに、ちいさな弓矢をつかんで、なのりをあげながら黒雲にむかって、矢を射かける。つぎつぎに矢はおち、ひばりもつぎつぎにおちる。
それでもひばりはなのりをあげて、空の黒雲をめざしてかけのぼる。年をとった黒雲も閉口して逃げ出すが、ひばりはそれでも空にとびあがり、矢を射かける。それでも矢はたたき落とされるが、落ちた矢は大地にふかくささって麦の穂になる。
擬人化されたひばりが次々に空に駆けのぼる場面が印象にのこる。
ひばりは漢字にすると“雲雀”。ひばり村は雲にあったのかも。
斎藤さんの絵本には、自分を犠牲にしても勇気をもって強いものに立ち向かうという強烈なメッセージがこめられている。
作者はこの絵本の完成をみることなく天に旅立たれたそうであるが、たった一人でもけっしてあきらめるな、正しいことだったらかならず、あとにつづくものがでてくると天から語りかけているようです。